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小説

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夢のような時間のこと。
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#ショートショート

死臭

 ──腐った死体って、腐った魚の臭いだよね。
 誰かがそんな事を言っていた。その時その言葉は正確である気がしたものだ。だが腐った魚というのを実際に目にした機会はないはずだ。そういうものを扱う業者、漁師は別である。スーパーの魚は冷やされて新鮮であるし、寿司なんかも新鮮でなければ提供できないはず。だがなんとなく腐った魚のイメージができるのは何故だろう。漁港のあの独特の匂いだろうか。どこか甘ったるくそれ

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車窓

車窓

 時雨川は電車の中から田園風景をぼんやり眺めていた。電車は同じような田んぼと山並みをシュルシュルと通り過ぎていく。なので彼は本当に移動しているのかわからなかった。目の前の景色と時間の感覚が麻痺していた。ただ己はどこかに向かっている。そのたどり着く場所もわかっている。だが…。
 ――ねえ、聞いてる?
 —―ああ、何の話だっけ?
 —―また考え事?
 —―いや、ぼんやりしてた。
 —―まあ、いいわ。そ

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