🗂️ Design Materials：システミック・デザイン・ツールキット–システム思考をデザイン思考プロセスに組み込む必要性。難題をもっとシンプルに！

世の中は複雑化が高まっています。現在関わる要素がどんどん複雑になってきています。グローバリエーション、組織、経済、環境上の生態系も、今まで私たちが持っている知識と直観では、どうにも処理できないほどのつながりと絡み合いが発生していると言われています。問題解決の従来の方法はもはや機能しません。

複雑な社会システムをデザインするためのアプローチ

システム思考とは、解決すべき対象や問題を「システム」として捉え、多面的な見方で原因を探り、問題解決を目指す方法論です。複雑化が高まっている世の中でシステム思考が今とても重要だと言われています。

システム思考で使われるツール

氷山モデルはシステム思考で使われるツールのひとつです。

氷山モデルは、4つの階層で構成されていて、水面上に少しだけ出ている氷山の一角が私たちが経験する「出来事」を表します。水面の高い位置から順に「行動パターン」「構造」「意識・無意識の前提メンタルモデル」と深くなっていきます。

たとえば何か問題行動があるときに、行動パターンを変えなければ同じ出来事が発生するし、行動パターンを変えるには、それを取り巻いている構造を変えなければならないということになります。

さらに根本的にものごとを解決するには、その構造や行動パターンを創り出す前提となっている意識や価値観レベルから変えなければならないことを意味しています。

またシステム思考では、複雑なシステムを、活動や状態である要素と、それら間を循環する因果関係で表現します。これを因果ループと呼んでいます。

重要性とメリット

物事に関わっているいろいろな要素を俯瞰して全体を見ることが大切です。これをすることでものごとのつながりも、相互作用も見極めることができるのです。

現状についてしっかり見極めることに有効な思考がシステム思考です。複数の要素がお互いに影響し合っているその作用をきちんと見極めにその対処法や解決策を探るためにシステム思考が使われています。

バイアスを取り除いて、新しい視点に気付こう
バイアスという言葉は、傾向、偏向、先入観、データ等の偏り、思考や判断に特定の偏りをもたらす思い込み要因、得られる情報が偏っていることによる認識の歪み、といった意味で用いられる言葉です。バイアスは英語の bias をそのまま日本語に導入した語であり、英語の bias も日本語と同様「傾向」「先入観」など文脈によってさまざまな意味合いで用いられています。

先を見通すことが難しくなっている世の中で、ものごとの真実を捉えたいとき、狭い視野のままでは真実を見出すことは難しいです。新しい視点を見出すためにもシステム思考が用いられます。視野が広がると、狭い視点でいたときにもっていたバイアスにも気付きやすくなるでしょう。また現代ではいろいろなことにおいて関わる人の多様化・複雑化も進んでいます。同じことがいても、人によって解釈が異なることが、コミュニケーションの弊害になることは多いものです。システム思考のツールをうまく使ってコミュニケーションをとることで、自分と相手の共有認識が促されます。誰にでもわかりやすいシステム思考の視覚的な情報の共有によって共通認識が後押しされるのです。

チェンジをデザインして、インパクトを与えよう。システミックデザイン・ツールキット

第4次産業革命、社会的不平等、適応型組織、またメガシティの成長といった前例のない課題は、問題の規模と複雑さを変えています。私たちは根本的な変化の真っ只中にあり、従来の問題解決方法はもはや機能しません。

私たちが直面している課題の実体はより複雑になり、問題解決の従来の方法はもはや機能いないことは分かったのですが、ではどのように、この根本的な変化において、システム思考はどのように機能するのでしょうか？

システミックなデザインツールキットは、systemic design toolkitによって考案されました。

Systemic Design Toolkitは、組織的および社会的な複雑さに取り組むための介入を共同で作成するのに役立ちます。これらのツールは、システム思考とデザイン思考が混同した共同作成セッション中に使用することを目的としています。参加型セッションのツールキットとなっており、システムの理解、取り組みの調査、ソリューションミックスの定義の各フェーズをガイドするワークショップテンプレートのライブラリが揃っています。

Systemic Design Toolkitがどんな時に役立つのでしょうか？
→ 今取り組んでいる課題の難点理由をしっかりと理解できる
システムの構造と相互作用、問題に影響を与える要因、取り組むときに最も見込みがある領域についての共通の理解を構築するのを助けます。

→ イノベーションを取り入れてデザインできる
システミックなシフトを進めるデザインを取り入れて、変更のプロセスを活用するメジャーとアーティファクトの組み合わせを両方デザインできます。

→ トランジション計画を定義して実装できる
短期的および長期的な取り組みの実施とスケールアップを計画するのを助けます。

ツールキットの7ステップ

Step 1. システムのフレーミング

空間と時間でシステムの境界を設定し、架空の部分とその関係を特定します。システムの現在の慣行、傾向、革新的なイニシアチブをマッピングすることにより、その周りにある「全体像」を理解するのに役立つ手法となっています。これを使用して、現在の状況についての共通の理解を生み出し、フィールド調査でインタビューする必要のあるプロファイルを特定します。

テンプレートを使用して、現在の状況を把握します。 

1. Long Term Trends 長期的な傾向：問題に影響を与える傾向を付箋に書きます（例：気候変動、人口増加、高齢化、資源不足などなど）。
ポスターの中央部分それらをクラスター化します。

2. Current System 現在のシステム：現在確立されている方法をマッピングします。社会は現在問題にどのように対処していますか？たとえば、文化的および社会的規範、慣行、規則、インフラストラクチャ、既存のネットワーク、権力関係などがあげられます。

3.新たなニッチなイニシアチブ：代替の方法をマッピングします。問題に対処するための新しい革新的な方法は何でしょうか？

Step 2. システムを聞く 　

人々の経験に耳を傾け、相互作用がシステムの動作にどのようにつながるかを発見します。 最初の仮説を検証します。

システミック的なフィールド調査をモデル化し、要約し、伝達する方法です。 ここではActantsは典型的な関係について説明しています。

💡Actantsは物語の記号論的分析の行為モデルからの用語です。 この用語は、言語学、社会学、コンピュータープログラミング理論などに持ちられています。

このツールをベースとして使用して、システムを理解し、マッピングします。フィールド調査から影響力のある変数を抽出すると便利です。

1. フィールド調査からのインタビューノート、またトランスクリプトに目を通します。 2つの役割（子供、教師など）の関係を調べます。 それらのそれぞれについて、写真を選択し、強力な引用で問題に関する彼らの見解を要約します。

2.各Actantについて、曲線を使って時間の経過とともに典型的な体験を描きます。 重要な瞬間とポジティブ、またネガティブな感情に注釈を付けます。

3.曲線を個別に分析し、インタビューから、経験の変化に影響を与える定性的および定量的要因/変数を定義しようとします。

4.曲線を一緒に観察します。違いに焦点を合わせます。 経験が異なる理由を理解するようにしてください。

Step 3. システムを理解する

変数と相互作用がダイナミクスと創発的行動にどのように影響するかを見てください。 使用するレバレッジポイントを特定します。

💡レバレッジポイントとはとらえどころのないシステムを相手にする者、システム思考を学ぶ者に勇気を与えてくれる概念が「レバレッジ・ポイント」です。 

システム、その構造、およびその要素間の相互関係を視覚化するための手法です。システムをマッピングして、その複雑さと相互依存性について利害関係者間で共有された理解を深めます。 また、マップを使用して、システム内のレバレッジポイントを見つけます。

1.Ideal Relationship 理想的な関係：Actantsで交換される定性的、また定量的変数を特定することにより、Actants間の理想的な関係を明確にします。 ポストイットに書いて、ポスターの中央に貼り付けてください。

2.Infulencers インフルエンサー：インタビューから浮かび上がったストーリーを振り返ります。 因果のループを特定し、それらを「理想的な未来」の周りに描きます。

3.ポイントの活用：ループ内の変数をコア取引所に接続します。 フィードバックループ図の成長とバランスの論理に従います。

次に、接続を見てください。 コア関係に最も影響を与える変数はどれですか？ それらはレバレッジポイントであるため、メモしてください。

Step 4. 希望する未来を定義する

このアクティビティは利害関係者が共通の望ましい未来と意図された価値創造を明確にするのを助けます。

取り組みが将来の個人、組織、社会にもたらす利益を列挙することにより、理想的な未来を明確にするためのツールで、これを使用して、グループの野心を伸ばし、関係者を意図した結果に合わせるために使用されています。

取り組む必要のあるレバレッジポイントを見て、システムに介入することで達成したい将来の状況について考えてください。 さまざまな側面（生態学的/経済的利益、社会的価値など）に焦点を当てます。

1. On Individual Level：個人に提供したいメリットについてブレインストーミングします。付箋に書き、ポスターの中央に配置します。

2. On Organizational & Ecosystem Level：組織/エコシステムが得るメリットを書き留めます。 それらを最初の円の周りに配置します。

3. On Societal Level：あなたの取り組みが社会レベルで提供する利益を書き留めます。 それらを3番目の円の周りに配置します。

Step 5. 可能性空間を探る

レバレッジポイントに介入するための可能なアイデアを探りましょう。システムのパラドックスを処理することにより、アイデアに力を与えます。

これはシステムに取り組みできる方法を理解して調査するためのブレーンストーミングツールとなっています。取り組みの考えられるさまざまな類型を調査することにより、取り組みの将来の組み合わせが全体像をカバーすることを確認します。

システムマップで特定されたレバレッジポイントを見てください。これらは、希望する将来を達成するために取り組む予定の課題です。

取り組み戦略キャンバスの使用：
→ 課題に取り組むために、どのレベルで介入する必要がありますか？
→ どのような介入が必要ですか（例：対面でのコミュニケーションの改善、より有能なスタッフの採用、より焦点を絞った政策措置の実施、トピックに関する集合的な意識の向上など）？
考えられる介入について考え、付箋に書いてください。 キャンバスの関連領域にアイデアを貼り付けます。

Step 6. 介入モデルの設計

変更のためのエンジンとそのバリエーションの定義。 さまざまなコンテキストでの実装を想定して反復します。

介入モデルは、システム内の変化のDNAを記述します。 これには、システムの変更を可能にする原則、またアクティビティが含まれています。

介入がどのように相互につながり、強化するかを見ることで、変化のための効果的な戦略を想像することができます。

1. 介入戦略キャンバスに含まれているアイデアを確認します。お互いを強化または有効化できるのはどれですか。
2. 付箋にアイデアを書き写します。
3. 付属の小道具にポストイットを貼り付けます。 それらを使用して、アイデアを結び付けます。 相互接続された介入のモデルを構築します。

パラドックスカードは、逆説的な思考を刺激します。問題のある状況の反対側をまとめて、全体の解決策を実現します。 カードは、アイデアをより具体的な概念に作り上げ、そのような概念が前向きな強化ループを作成することを保証するのに役立ちます。

パラドックスカード
1. 各介入アイデアにパラドックスカードを割り当てます。 アイデアを最もよく表すカードを選択してください。
2. 既存のアイデアを改良するか、新しいアイデアを追加することにより、介入モデルを進化させていきます。

次のことを確認してください。
→ パラドックスの「オープン」な側面もカバーされています。
→ 各パラドックスの側面を表す介入は、お互いを強化します。

Step 7. 移行の促進

ここでは介入がどのように成熟し、成長し、最終的にシステムに採用されるかを定義します。

移行のロードマップは、デザインによって変更が発生するように介入の実装を計画するためのツールです。これを使用して、時間と空間で介入モデルを計画および拡大することにより、目的の目標への移行をマッピングします。

今ある介入モデルを参考にしましょう。
1. 最初のサークル：最初の段階で実装できる介入モデルの最小バージョンは何ですか？ 付箋紙に、実装する予定のアクティビティの最小バージョンと、関係するアクターを説明します。

2. 2番目のサークル：最初の活動が完了したら、それらを同じ考えを持つ人々、組織にどのように結び付けることができますか？ 学習ネットワークを作成するために必要なアクティビティを書き留めます。

3. 3番目のサークル：あなたの介入が現在のシステムで確立された慣行になり、大衆に届くようにするにはどうすればよいですか？

まとめ

関わる要素がどんどん複雑になってきていき、問題解決の従来の方法はもはや機能しません。この根本的な変化において、システミック・デザインはそのような複雑さに取り組むための答えを提供します。複数の要素がお互いに影響し合っているその作用をきちんと見極め、対処や解決策を探るためにシステム思考が重要視されています。とくに、現状についてしっかり見極めることに有効な思考です。

今回ご紹介したツールキットはこちらでダウンロードできます。

Download

Systemic Design Toolkitは、2018年にトリノで開催されたRSD7会議で正式に発表されました。その後、継続的に更新され、40を超えるさまざまなツールが生み出されてきました。このツールキットは 7つのコアツールを備えています。こちらのツールキットとテンプレートのスターターバージョンは無料となっております。

私も、色々勉強中なので、皆さまの、ご意見・ご感想をお聞かせください。お読み頂きまして、ありがとうございました。

メルボルンを拠点にプロダクトデザイナーとして働いています。 主にデジタル・プロダクトの制作に携わっています。