ICT業界は設備ビジネス
「ICT業界でソフトウェア開発事業をするということ」を目次にして、いくつかの日記を束ねているのですけれど、どうやら肝心の「ICT業界って?」ということについて書いてないようなので、書いておかねば(笑)。
根本的にICT業はソフトウェア開発業ではありません。
設備ビジネスです。回線や通信機材を保有し(あるいは借用し)、顧客に通信そのものや通信を介した何かをサービスする、おもに「サブスク形態」のサービスです。ま、「モバイルルータレンタル」のようにワンショットのサービスもありますけれど。
局舎やデータセンターの不動産を持ち(あるいは借り)、前述の資産を償却しながら、また、そうした資産やサービスの質を保守しながら事業を継続する。これらが主な経費と言えるでしょう。
通信業の「サービス」は非常に安定的で、たとえば「電話」というサービスは明治2年から携帯電話が一般人に普及するまでほとんどその姿を変えませんでした(自動交換機やプッシュホンなどでUI/UXは変わりましたが、でも120年間でその程度です)。
そう考えると、技術面では、初期投資関連の技術者は関与頻度が低く、保守系技術者・技術提供事業はいったんその地位を得れば安定的であることがわかります。
「いまはICT業も新しいサービスやUI/UXを生み出すために開発の毎日だ」とそう仰るでしょうけれど、ソフトウェア開発業から見れば、IT業界(とくにクラウドサービス)の頻度の少なさと安定性は比較にならないと感じます。
(IT業界の、開発技術の流行り廃りの速さは、これまたスゴい)
「保守」(運用ともいう)には若干の人手が必要になりますが、とはいえ「必然的」ではありません。
できることなら「無人」「自動化」が望ましいと考える。
もう20年以上存在する業界の保守・運用担当人材の団体の会合でも、そうしたことが継続的に検討されていることでもわかります。
この業界は特徴的な法規として主に「電気通信事業法」と「電波法」に制約を受けますが、とくに電気通信事業法の「清さ」(古さ?)によっていわゆる「ビッグデータ」を扱いながらその価値創出に制約を受け、IT(ICTではない)業に後れをとり先行者益を獲得し損ねたのではないかと個人的には思っています。
その影響は業界末端にまで及んでいます。初期投資にせよDevOpsにせよ「ソフトウェア開発」という行為は同じでありながら、ユーザーデータを自在に扱えるIT業界とは「創出される価値の総量」が桁違いなため、末端であっても、いえ、末端であればなおさら「相場」感に影響します。
ソフトウェア開発業からすると、同じ開発行為で売値が違っては、人材も市場原理で「IT業」へ流れますから、相場感は非常に重要だと考えます。
業界全体としては「価値創出の総量」を増やし魅力的な事業クラスターにしていく一方、ソフトウェア開発業からは顧客との間で「ソフトウェア開発」価値の共通認識・共感をつくり維持することに心を砕く毎日です。