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【A Paris/パリ編】ルーブル美術館タイムトライアル(後編)

さて、ルーブル美術館1日でどれだけ鑑賞できるかチャレンジ、適当に名付けてルーブルタイムトライアルも後半戦へ。

ざっくりとしたこれまでのあらすじをまとめると、ある日突然、ルーブルを1日でどれだけ回れるかやってみよ!と思い立った愚か者が、9:00〜21:00の開館時間内にルーブルをひたすら徘徊することにした、とかなんとか。

前半では15時前に本人のガソリン切れ(空腹)とオーディオガイドの充電切れを迎え、一旦展示室の入場口に戻ったところまでの経緯をご紹介した。
ご興味のある方は以下から前半もどうぞ。


エネルギー補給タイム 15:00〜

ようやく入り口まで戻ってきたが、当然悠長にイートインでお食事をする時間はない。手近にあった売店でサンドイッチとエスプレッソと水を購入。
割高だけれど仕方ない。味は普通に美味しい。というか空腹でなんでも美味しい。

売店付近にいくつかテーブル席があったけどいつも満席状態

お腹を満たしてからオーディオガイドの受付で充電が切れそうな旨を説明すると快くバッテリー満タンのものと交換してくれた。
よし、では再開といこう。

モナリザが見つめるさき 15:40〜

さきほど通り過ぎたモナリザの展示室へ引き返す。
いつも混んでいるので、どのタイミングに行っても変わらないが、美術館を代表する有名作品だけあって監視員の数がざっと常時10人ほどいる。ただし、そこはフランス。目を光らせつつも、同僚とのおしゃべりに興じている監視員も。

モナリザはもちろん有名だけれど、モナリザと向き合うように展示されている作品については正直把握していなかった。
オーディオガイドが教えてくれた作品の名は「カナの婚礼 Nozze di Cana」というそうな。
聖書の一場面を描写した、イタリアルネッサンス期の画家パオロ・ヴェロネーゼの作品で、ルーブルの膨大な作品の中で最大の大きさという。圧巻。

これまでにイタリア政府から、この絵を返還してほしいという要求があったらしいが、フランス政府は「大きすぎて運べない」と回答したとか。
なんとも テキトーな フランスらしい回答である。
なんだか小学生の言い訳のような回答にちょっと笑ってしまう。

対するモナリザは、初めて本物を目にするために遥々やってきた見学者が「思っていたより小さい」と感じるくらいにはこぢんまりとした作品である。
それでも世界的に有名になっているだけあって、やはりえも言われぬ独特な空気感がある。

これまでに盗難されたり、再三にわたり社会に不平不満を持つ者などによる攻撃の対象とされてきたモナリザ。
見つめる先に展示されているカナの婚礼と共に、今日もこの展示室にひしめく鑑賞者を見下ろしながら「今日も多いな〜また不心得者にスープとかかけられないといいけど」とか思ってたりするんだろうか。

パオロ・ヴェロネーゼ カナの婚礼 Nozze di Cana

古代ギリシア・ローマ、古代エジブト、古代イタリア・エトルリア美術 16:05〜

ドゥノン翼1階の絵画を見たので、ここで彫刻などの美術品を鑑賞するべく、シュリー翼1階へ。
月並みな感想だが、はるか数千年前に暮らしていた人類が作り出した作品たちのクオリティが想像以上に高いことに驚く。

陶器類にも人や動植物などの絵柄が付けられている。
今日までこれがきれいな形で保存されていることもすごい。
たくさん数を揃えました!というように、ズラーっと展示されているが足が止まってしまう。

王様に謁見 17:08〜

古代の優れた作品群に後ろ髪をひかれながら時間もないので、心の中で「ごめんなさい」して本日まだあまり足を伸ばせていなかったリシュリュー翼へ。

装飾美術品のエリアということで「かつての王族が暮らしてた通り残してあります」と言わんばかりの展示室。
高貴なお方ともご対面。

太陽王ルイ14世
精緻なカーペットとタピストリー

残念ながら修復中によりナポレオン3世群には足を踏み入れること叶わずでしたが、次回訪問時のお楽しみということにしておきます。

いやそれにしても、ここを見終わって一息ついたら17時半を回っていた。もう通常ならそろそろ閉館時刻…。
まだまだ踏み入れていないフロアもたくさんあるというのに、もうほとんど猶予はないのでは??
本日現在の展示作品を全部見るなんてことは夢にも考えていなかったけれど、それでなくともフラフラしててふと気がついたら閉館時間なんてことになるのでは??

体力の限界も近いので、ここからはとりあえず自分が好きな絵画中心に回ることに決める。

北ヨーロッパ絵画 18:00〜

リシュリュー翼をもう1階上がり、2階へ。
ここにはフランス絵画と北ヨーロッパ絵画の展示エリア。
ここでいう北ヨーロッパは、ざっくり言えばオランダ、フランドル、ドイツなど。
タイミングの悪い私は拝見できなかったが、ルーベンスの連作もここにあるし、タイミングの悪い私は拝見できなかったが(2回目)、当時貸出中でおられなかったフェルメールのレースを編む女も。

アントニー・ヴァン・ダイク
(左)Portrait d'une dame de qualité et de sa fille
(右)Portrait d'un homme de qualité avec son fils
上質な女性(男性)とその娘(息子)の肖像
ヨハネス・フェルメール
天文学者

フェルメールの「天文学者」は小さな絵である。
なんだか小窓から天文学者のいる向こう側を覗いて彼の世界を覗いているみたい。
今にも動き出しそうである。

その後も、行き着くまま辿り着いた開くわけないルーベンスの修復中作品の展示室前に置かれていたベンチで、しばらく心ここに在らず状態のまま北ヨーロッパ絵画の熱量に浸る。

見れなかった作品もあるけれど、ルーブルにあるルーベンスの作品は「マリー・ド・メディシスの生涯」だけではないし、またここにくる理由ができた。

ピーテル・パウル・ルーベンス
東方三博士の礼拝 L'Adoration des Mages

まさかの決断 19:35

その後、シュリー翼2階のフランス絵画を見て回る。
19時を過ぎると、館内はだんだんと人気がなくなってきた。
夜間開館日なので展示室によってはまだまだ人がいるところもあると思うが、途中の展示室はライトが落とされてて薄暗いところも。なんかちょっと怖い。

改めて写真を見たら奥に人がいたが、この時は気づかなかった

ここにひとり取り残されたりしないよね?(しない)
朝までここで作品に囲まれて一晩過ごすことになったりとかないよね?(ない)
なんかちょっと寒くなってきたし(冬だからね)
お腹空いてきてつらい(1日中歩き回ってるし、昼食サンドイッチひとつだもんね)

閉館1時間半前にして、まさかの決断。
空腹と孤独感と虚無感によるリタイアである。

あと1時間半、いくつか作品をつまみ食いして鑑賞して撤退することも考えたけれど、それなら見ても見なくても大差がないし、潔く撤退することにした。
何よりひとりで夜の美術館を回るのが、急に怖いし寂しくなったのである。

おわりに

と、いうわけでなんとも不完全燃焼気味な終わり方を迎えてしまったルーブルタイムトライアルチャレンジであった。
はじめから劇的な結末も何も用意できるわけもなかったのだが、それにしても不甲斐ない結末である。

個人的には朝から晩までルーブル美術館に浸るなんて、とっても贅沢な1日だった。
当時、このチャレンジをする前に「今度こんなことやる!前からやってみたかったの!」と話した友人たちには「いいね!」という人もいれば「物好きな…」というリアクションの人もいてさまざまだった。

結果として最初は、ひとりなら好きなだけ好きな作品に浸れるのがいいけど、だんだん夜になってくると寂しさと虚しさで「何やってるんだ?」と我に返ってくるので、付き合ってくれる誰かと一緒に回るのもいいかも、という学びを得た。
でもそんな都合よく付き合ってくれる人がいるかしら。

いつの日かこの学びが生かされる日がくることを祈りたいけれど、それより前にひとりでルーブルを再訪する日がくる方が圧倒的に早そうだ。

ひとつだけ確かなことは、タイムトライアルチャレンジなんて無謀で謎な挑戦はもうしないということだけだろう。

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