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とある世界の物語

一つ目は魔法の世界。
創造主は世界を四つに分け、それぞれに神の力を宿した塔を建てた。
そこに住まう人々は、神から分け与えられた力である神術を用いた。
光、闇、水、風の王は、それぞれの国を治め、争いもなく互いに協力しあっていた。
ある日、創造主は世界に一冊の本を落とした。
その本には、世界が滅亡に至る物語が記されていた。
人々は混乱した。
我々を愛し、助けた創造主が、なぜこんなにも残酷な物語を託すのか。
人々は救いを求めた。
しかし、創造主から言葉はなく、やがて人々は神の塔へ縋るようになった。
神は告げた。
「創造主は君たちを騙し、ここに閉じ込めた。我々なら、君たちの世界を永遠に存続させられる。ただし、この世界は脆い。故に、半分、減らさなければならない」
人々は分断された。
創造主を信じ、神を見捨て、書を解き明かそうとする闇と風。
神を信じ、創造主を見捨て、新たな世界創造の為に同族殺しの力を授かった光と水。
書は示した。
「滅びは別の世界からやってくる」
創造主は、一人の少女を世界に落とした。

二つ目は神の世界。
この世に無数に存在する世界と魂を管理する者達が住まう場所。
管理者としての権限をもつ白翼の者と、権限を持たない黒翼の者。
黒は白に隷属することでしか生を得ず、長い年月をかけて復讐の芽が育っていった。
ある日、二人の神が禁忌を犯した。
一人の翼は黒に染まり、一人の翼は霧散した。
一人は黒の世界に堕ち、一人は白の世界に残された。
二人はかつて約束していた。
必ずやこの世界をあるべき姿に戻そう、と。
時は経ち、黒はある少年に接触した。
それは、神の力を無力化させる唯一の力を持つ者であった。

三つ目は未来の世界。
能力者と呼ばれる特別な力を得た人々が生まれ始めた世界。
いつしかその力は戦争に使われ、人々が死に絶えるごとに、その能力者の誕生もいつしか絶えた。
人々は荒れ果てた土地から逃げて月面都市と地下都市に分かれて暮らした。
地下都市には能力者がわずかに残され、各都市で抑止力として存在した。
ある時、一人の天才が、人工的に能力者を作り出すことに成功した。
それらを有する都市が、全世界の都市を統べる権力を持つと、完全な支配を恐れた他の都市は、能力者の確保や資源開発、兵器開発を開始した。
新たな火種が生まれる中、とある男が一冊の本を手にした。
その本には、世界が滅亡に至る物語が記されていた。

四つ目は過去の世界。
妖と、それを退治する者達が住まう世界。
度重なる村の異変のため、妖に捧げられる生贄となった少年は、大妖怪である犬神に拾われた。
犬神はある目的の為に旅をし、同族である妖怪の魂を集めていた。
また、同じころ、犬神と同じ目的の為に、同族である人間の魂を集める青年がいた。
青年はかつて、妖退治に秀でた者であったが、鬼神に憑かれ、正気を失い、今や人の肉を喰らう化け物となっていた。
犬神は、どうしてもその青年より先に、目的を果たさなければならなかった。
少年はその旅の最後の鍵であった。

五つ目はどこでもない世界。
特別な物語を必要とする者だけがたどり着く世界。
女はひとり、小さな小屋の中で、本たちの音に耳を澄ませながら物語を売っていた。
女はただ一人の客と、ただ一つの世界の音を待っていた。
寂しい店の奥、遠く見えないその彼方で、世界が終わる音がした。

やがて全ての世界は混ざり合い、まだ見ぬ世界のその先へ。

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