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【ショートショート】「この町の秘密」〜古蓮町物語シリーズ 11〜

今回の登場人物

小畑琉おばたりゅう
今回の主人公。愛称 リューチン。
小学5年生。お母さんの都合で夏休み中、古蓮町こはすちょうに住むおじさんの家に預けられている。

迫沼美森さこぬまみもり
愛称 みーちゃん。小学5年生。お父さんの都合で夏休み中、古蓮町のおばあさんの所に預けられている。おばあさんの家は駄菓子屋『羽屋商店はねやしょうてん』。

谷東大和たにひがしやまと
愛称 やまちゃん。小学6年生。1年前に家族と一緒に古蓮町に引っ越してきた。

 僕は見てしまった。
 この町の秘密を。

 この町は様々な目で監視されている。
 夜になると、監視の目が光り始める。

 おそらく昼間もあの目はあるのだろう。明るいから気付かないだけだ。

 この事実を知ったのは単なる偶然だった。
 子供神輿作りから帰る途中、傘を忘れたことに気付いて集会所へ戻った。再び帰路についた時には辺りは暗くなり始めていた。

 ———早く帰らないと。

 僕は歩を速めた。

 人影のない道。
 暗くなってきた空。
 闇を深くする周りの木々。
 どこからともなく聞こえる犬の遠吠え。

 街灯がほとんどないこの町は、日が暮れると一気に夜の帝国へと変貌を遂げる。

 その時だった。
 僕を囲むように、監視の目が光った。
 僕の動きを何十、何百もの目が様子をうかがっている。

 ———殺される。

 それは直感だった。

 ———早くこの場を脱出しないと。

 体制を低くした僕は、傘をリレーのバトンのように持ち、右足の親指に全体重を乗っけて一気に加速した。

 相手も意外だったのだろう。
 しばらく監視の目はついて回ったが、家に近づいた時には完全に振り切っていた。

 何とか一命を取り留めたが、恐怖を拭い去ることはできなかった。

 夜出歩くのは危険だ。
 夏祭りのときは大丈夫なのか? いや、昼間でも安心できないのではないか?
 おじさん、おばさんに言った方がいいのだろうか?
 でも、この街の人がみんなグルだったら……。
 いやいや、おじさん、おばさんがそんな人のはずがない。

 でも、このことを言った瞬間に豹変したら……。

 みーちゃんとかやまちゃんに相談してみようか?
 やまちゃんは去年からここに住んでいるから、何か知っているかもしれない。
 でも、2人をこんなことに巻き込みたくはない。友達を危険な目に合わせるなんて。

 次の日になっても、僕はどうすれば良いか考えていた。しかし今日も子供神輿作りに行かなければならない。

 集会所に行くと、やまちゃんが僕に話しかけてきた。
「なぁ、リューチン。今日ウチで花火やるんだけどさ、一緒にやらね? みーちゃんも来るし」
「うん!行く行く!」
 花火は大好きだから二つ返事で答えたが、夜出歩くことになる……のかぁ……。

 夕方、やまちゃん家に行くとき、
『夜一人で子供が出歩くのは危険だから』
と、おばさんもついて来てくれた。
 心強い助っ人だ。
 やはり、あの監視の目のことを知っているからなのだろう。僕を守るために来てくれるんだ。

 ———おばさん、一瞬でも疑ってごめんなさい。

 心の中でつぶやいた。
 おじさんとおばさんはそんな人じゃなかった。僕を心配してくれていた。

 花火はやまちゃん家の近くにある空き地で行われた。
 ロウソクの火に近付けると、花火はシュッと音を出して煌めき始める。

 綺麗だ。

 手持ち花火から出てくる色とりどりの炎。立ち昇る煙。独特なにおい。
 すべてが夏を物語っていた。

 花火大会が幕を閉じて煙が消え去ったとき、それはまた襲いかかってきた。

 無数の監視の目が僕たちを囲んでいる。

 ———こいつら大人がいても襲いかかって来るのか!

 完全に周りを囲まれた。

 ———やばい!

 僕は身構えた。

「あ、ホタル!メッチャ綺麗!」
 みーちゃんが空を見て感嘆の声を上げた。

 ———え?

「あはは。みーちゃんホタルは初めてかい?」
 やまちゃんのお母さんが問いかけた。
「前に見たことあるけど、こんなにたくさんのホタルは初めて!」
 みーちゃんはクルクル回りながら喜んでいた。

 ———これがホタルなのか……?

 初めて見た(2回目だけど)。
 一面ホタルで埋め尽くされている。……監視の目ではなく。
「天の川の中にいるみたいだね」
 回るのをやめたみーちゃんは、静かに見上げていた。
「そ……そうだね」
 拍子抜けしながら僕も見上げた。
 ホタルと星の光が重なって見えた。

「ところでリューチン、何でさっきファイティングポーズしてたの?」
 みーちゃんの一言は僕の顔面に突き刺さり、真っ赤な炎となって燃え上がった。
「え……? そ……それは……」

 ホタルさん、お願いします。
 このことを早く水に流してください。
 天の川の流れのように。

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