【ショートショート】「夏休みの自由研究」~古蓮町物語シリーズ⑥~
おばあちゃん家に来る前に、夏休みの宿題はだいたい終わらせてきた。あとは自由研究を残すのみだ。
何をしようかな?
ずっと考えていたが、おばあちゃん家に来て色々見ているうちに思いついた。
おばあちゃん家にはたくさんの不思議なものがある。
これを自由研究の題材にしよう。
※
夏休みの自由研究
5年1組 迫沼美森
夏休みに行った田舎のおばあちゃん家にあった、めずらしいものを紹介します。
①ブラウン管テレビ
すごく古いテレビです。画面は小さいのにすごく厚いテレビでした。
昔はテレビが見れたそうですが、今はつけてもザラザラの画面が見えるだけです。おばあちゃんは『砂あらし』と言っていました。
右側にあるつまみの上に『VHF』と書いてあって、ガチャガチャ回してチャンネルを変えることができたそうです。下のつまみには『UHF』と書いてあって、なめらかに回ります。こっちもうまく合わせると番組が見れたそうです。
②黒電話
数字のとなりに穴があります。押しても何もなりません。
受話器を持って、穴に手を入れ、ぐるっと右に回転させ、0のとなりにある金具にぶつかるまで回してダイヤルするそうです。はなすと勝手に元に戻ります。でも、おばあちゃん家の電話はこわれていて電話できませんでした。
③ラジカセ
ラジオが聞ける道具です。あと、音楽とかも聞いたり録音したりできるそうです。まんなかにあるブタの鼻みたいなところに、カセットテープというものを入れてボタンを押すと音楽が流れます。
④カセットテープ
これをラジカセに入れます。中にグルグル巻いてあるテープに録音されるそうです。入れて聞いてみたら、すごくザラザラな音でしたが、音楽が聞こえてきました。
感想
見たことがないものばかりでびっくりでした。もっとたくさん色々なものがありそうなので、また探して研究したいと思います。
※
「みーちゃん、お友達が来たよぉ~」
おばあちゃんの声が聞こえた。
そうだ、今日は琉くんと町の商店街を探検しようって約束していたんだ。
「はーい、今行くー」
私はノートを閉じてお店の方へ向かった。
「琉くん、おまたせ!」
琉くんは日焼けですごく真っ黒な顔をしていた。
海にでも行ってきたのかな?
いいなぁ。私も海行きたいなぁ……と思ったら、おじさん家の畑仕事を手伝っていたそうだ。
「これ、みんなで食べてって。おばさんが」
琉くんは袋いっぱいにトマトを持っていた。
「あららら、なんとなんと」
おばあちゃんは誰かから物をもらうと、だいたいこう言う。
この前はトウモロコシをご馳走になったし、今日はトマト。琉くんのおじさん家の畑は、食べ物がたくさんある巨大な冷蔵庫みたい。
黄色、赤ときたから、次は青い野菜かな?
そんなことを考えながら、私は靴を履いて外へ飛び出した。
「ほれ、みーちゃん、帽子かぶって行きな」
今日も太陽の光が降り注いでいる。真っ青な空だ。
「はーい」
おばあちゃん家にあった麦わら帽子。夏っぽくて大好き。今は私のお気に入りアイテムだ。
「気を付けて行って来るんだよ」
笑顔で手を振るおばあちゃんに、私も大きく手を振り返す。
「はーい。行ってきまーす」
「じゃあ行こっか!」
生き生きした琉くんの笑顔。
「うん!」
私も負けないくらい元気に返した。
ワクワクしながら歩いていると、琉くんが話しかけてきた。
「ねぇ、美森ちゃん家の中で何してたの?」
「夏休みの自由研究だよ」
「……僕……夏休みの宿題やってない。一つも……」
琉くんのテンションは一瞬で地の底へ落ちていった。
あ……言わない方が良かったかな?
静かになってしまった琉くんを心配していたけど、商店街に着いたら一気に戻った。
「わぁ!店がいっぱいあるよ!早く行こ!」
変わり身速すぎでしょ!
そんな琉くんが可笑しくて、私は思いっきり笑った。
「どうしたの? 何か面白いことあった?」
不思議そうにしている琉くん。
「うん。ありまくり」
笑いすぎて涙が出てきた。
「なになに? 教えて~」
私は何も言わずに笑っていた。
そのとき、首をかしげていた琉くんの顔が、突然パッと明るくなった。
「あ!自由研究、この商店街にしよっかな」
琉くん名案!それいいかも。
この町の商店街は珍しい店ばかりだ。
私も自由研究商店街編を作ろっかな。
それならなおさら気合いを入れて……
「よおし!探検開始ぃ~!」
目の前に広がる商店街。
これから始まる冒険が、キラキラ輝く宝石箱のように感じた。