【ショートショート】「秋縛りのしりとり」/紅葉から
紅葉から始まったんだよね。
2人で家のお迎え待っていて、暇だからって始めた秋縛りのしりとり。
「じゃあ俺から始めるぞ。紅葉」
「じ?じ…自然薯!」
「スゲ!よく出てきたな。よ…よ…夜長」
「が?また濁点ずるくない?が…雁行!」
「ガンコーって何だ?」
「空を飛んで行く雁の行列のこと」
「ゲ!語彙数ゴイスー!」
「はいはい(笑)、続き」
「う?う……う、盂蘭盆会!」
「やるじゃん!枝豆」
「名月」
「蔦」
「た……体育の日!」
「今はスポーツの日じゃない?」
「い、いいんだよ!元々体育の日なんだから」
「まぁいいわ。彼岸花」
「よくすぐ出てくるわ。…な……梨」
「椎茸」
「け?け……け…敬老の日!」
「また、何とかの日?もう……菱」
「し……し……し……秋分の日!」
2人で目を合わせて爆笑した。
「ダメだわ〜。菜那、つえー」
「理玖には負けないよ」
しりとりなんかで盛り上がって。
あの後、何となく付き合い始めたよね。
理玖とはいつもくだらないことで笑っていた気がする。
クリスマスの時も、私が待ち合わせ時間を間違ってて2時間も遅れて行ったのに、理玖は寒い中ずーっと待ってて。私の顔を見た瞬間、泣いて私に抱きついてきたよね。
「事故にでも遭ったんじゃないかって心配してた。良かったぁ〜」
「連絡くれれば良かったのにぃ。寒かったでしょ?」
「携帯忘れた」
そう言って顔を上げたとき、鼻水が垂れてて。思わず吹いちゃったんだよね。
大爆笑しながら「ゴメン」って謝ったら、
「世界一反省のないゴメンだな」って言う顔。
まだ鼻水垂れてるんだもん。
「笑わせないでよ!お腹……お腹……痛い……ププッ!アハハ……痛いから…フフフフ…アハハハハ痛いってば!」
笑って次の日に筋肉痛になったの初めてだった。
桜祭りに行った時もそうだった。
「いっぱい咲いてるのも綺麗だけどさ。俺、こうやってひっそり咲いてる桜の方が好きかも」
離れた所に咲いている一本の木を見て言ったよね。
「うん、わかる。私もこういうの好きかも。健気で可愛い桜」
そう言って、ふと理玖を見たら理玖も私を見つめてて。ちょっといい雰囲気になっていた時に後ろから声が聞こえたんだっけ。
「あのー?これ、梅だけど?」
多分、私たちの話をずっと聞いていたんだよ。あの人。
桜と間違っている私たちに我慢できなくなって教えてくれたんだろうけど。
メッチャ恥ずかしかったぁ〜。
「あ、そ、そうなんすか?あ、ありがとうございます」とか、ぎごちなく言って、そそくさとその場を去ったよね。
「梅かよぉぉぉぉ!」
「2人とも気付かないとか……私たちバカ丸出し!」
2人で笑ったよね。ホントおかしかった。
でも、あの時からかな。
私が聖也くんと歩いているのを理玖が見て、理玖が心優と歩いているのを私が見て。
お互いを疑って……。
ただの勘違いだったんだけど、あの時からだよね。ギクシャクして何となくすれ違うようになってきたのは。
夏の太陽を一緒に見た記憶がないまま、季節は秋になっていた。
理玖と一緒じゃない時間が増えて、私思ったの。
私、理玖のこと好きだよ。
一緒にいて楽しい。
でも……それ以上でもそれ以下でもないって。
理玖の気持ちを確かめるために、あの場所に理玖を呼んだ。
去年しりとりをしていた場所。
私たちの思い出の場所に。
理玖も同じ気持ちだったのかもね。
「理玖、2人で会うの久しぶりだね」
私がそう言った時、空を見ていた理玖は私に視線を落とした。
その顔は一緒に笑い合った時とは何かが違っていた。
理玖が口を開く。
「去年のしりとり、『秋分の日』で止まっていたよな?続きやろうか」
もしかして……。
胸の鼓動が一瞬高鳴る。
「うん。私からだっけ?」
わざと聞いてみた。
「ああ。秋分の日の『ひ』から」
でも、そうじゃない、と分かった。
これから私が言う言葉を、理玖は分かっているだろう。
空にたくさん浮かんでいたから。
理玖が見上げていた空に。
そして私もそれを望んでいるのかもしれない。
「ひつじ雲」
私も理玖の答えはもう分かっていた。
「……紅葉」
紅葉で始まり、紅葉で終わる。
私たちのしりとりは幕を閉じた。
終
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