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【物語】ボス猫ニャーゴのご主人様

 ボクはトラ猫のニャーゴ。

 ご飯が美味しくていっぱい食べていたら、どんどん体が大きくなっちゃった。
 気付けばみんな、ボクにペコペコ頭を下げて、避けて通るようになっていて……。
 ボクを『ボス』って呼ぶようになっていた。
 なんでだろう?
 ボクはボクのままなのに……。




 オレはボス猫ニャーゴ。
 この辺でオレより強い猫はいない。
 オレの家には、あと2匹猫がいるが、どっちもオレの言いなりだ。

 いつでも一番先に出てきたご飯がオレのご飯だと決まっている。他の2匹のはその後に出てきたやつになる。

 しかーし!
 それらも全部オレのものなのだ!

 ご飯を食いながら、両手で他の2つにも手をかけて、キッとひと睨み。
 三毛猫も茶トラも、それだけで動きが止まる。

 当然だ。オレは最強だから。

「こら、ニャーゴ!おててを離しなさい」
 笑ってオレを諭す給餌係。
 フン!たかが人間風情が。
 とはいえ、これでご飯をもらえなくなったら大変だ。
 しょうがない。特別手を離してやるよ。



 逆らうヤツは許さない。
 それがたとえ人間でもだ。
 前にこんなことがあった。
 オレのシッポを触ってくる人間の子供がいたんだ。
 シッポを触られるのは嫌だ。だからオレは忠告をした。

ニャ〜〜!さわるな!

 だけどそいつはやめなかった。

 カッチ〜ン!

 オレは噛みついた。

 ギャーギャー泣き叫ぶ人間の子供。

「ニャーゴ!なんてことするの!」
 給餌係に怒られた。

 ……オレが悪いのか?
 フン!偉そうに。



 ある日、オレを見てコソコソ隠れる猫たちを尻目に歩いていたとき、突然腹が痛み出した。

 何日経っても痛くて痛くて、ご飯を食べる気にもならなかった。

 どうしたんだ?オレ……?

 ガリガリに痩せてしまったオレを給餌係の人間が病院に連れて行った。
 その後、毎日のように『薬』というマズい液体をオレの口にムリヤリ入れてくるようになった。

 オエッ!!

 こんなもん飲みたくないわ!
 具合が悪くておとなしくしていりゃ調子に乗りやがって!
 給餌係の手をガブリと噛んだ。

「イタッ!!」

 ヘッ!ざまあみろ!

「ニャーゴ!これを飲まないと死んじゃうんだよ!!」

 ……人間の言葉は分からない。
 ……でも、必死な顔。
 ……涙。

 コイツ……オレのことを……。

 オレは薬を飲み込んだ。
 マズすぎてイヤだったけど、コイツが一生懸命だったから。

 ある日、起きてみるとスッキリしていた。
 何でも食べられそうだ!
 強いオレ、完全復活!
 ボス猫ニャーゴの復活だ!



 食欲も戻り、体型も元に戻ったオレは、出かけた先で近所のネコと遊んでいた。
 辺りは夕日で赤く染まっていた。
「オレ、帰るわ」
「ニャーゴさん、どうしたんですか?」
「オレの給餌係……いや、あの人が帰って来るんだよ」

 毎日出迎えをした。
 仕事から帰って来るアイツの出迎えを。
 義務じゃない。強制でもない。
 ただオレが……会いたかったから。
 今すぐにでも会いたかったから。

 次の日も、そのまた次の日も、オレは毎日アイツを出迎えた。
 オレが迎えに行くたび、アイツは嬉しそうにオレを撫でて抱っこする。

 ……悪くないな。



「じゃあな、帰るわ」
「ボス、今日もお出迎えですか?」
「ああ。また明日な」

 少し遅くなっちまった。
 早く帰らないと。

 焦って道路を渡ろうとした瞬間……



 キキーッ!!




 ………!!




「お母さんお帰り〜」
「うん……ただいま」
「どうしたの?」
「うん。お迎えにね、ニャーゴが……来なかったから」


 飛び出した瞬間、やっちまった!って思ったけど、もう遅かった。

 ……オレは5年しか生きられなかった。




 ボクの体、ボロボロになっちゃった。
 自分の体に戻れなくなっちゃった。

 ごめんなさい。

 あなたの帰りに間に合わなくて。

 ボクはあなたが大好きだった。
 だからあなたのご飯を全部食べたかった。
 シッポを触るあの子供は、いつもあなたを困らせていて許せなかった。

 具合が悪くて、
 『もうどうでもいい』
 そう思ったときも、あなたが一生懸命だったから、ボクを叱ったから、ボクのために涙を流したから……。
 だからボクは薬を飲んだ。

 ボクが治ったときのあなたの笑顔が嬉しかった。

 もっと抱っこしたかった。

 もっと撫でて欲しかった。

 ボクの姿は見えないかもしれない。

 それでも毎日お迎えに行くからね。

 それがボクの恩返しだから。

 ありがとう。

 ボクのご主人様。

 あなたはボクの……

 永遠のご主人様だよ。





あとがき

 お読みいただき、ありがとうございます。
 この物語は私が小学生の頃、家で飼っていたトラ猫、ニャーゴのお話です。
 ニャーゴは近隣のボス猫でした。犬さえ打ち負かすほど強かったんです。
 ある日、病気になって、私の母に一生懸命看病してもらって回復した後、母が帰って来る頃になると外へ出て、毎日お迎えに行くようになりました。
 時には100mくらい先まで走って行ってお迎えをしていたのです。
 でも、ある日の夕方、ニャーゴは帰ってきませんでした。
 探しに行くと、家から少し離れた道路で変わり果てた姿になって……。
 お迎えをするために帰って来る途中だったのかもしれません。
 そんな忠猫ニャーゴの目線で物語にしてみました。

 ちなみに、作中に出てくるシッポをいたずらする悪ガキは私です。笑

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