手のひらくるり
「人間の條件」第三部第四部の感想を昨日書きましたが、私は最後にこう締めくくりました。
やたらといびる古参兵ってのは戦争モノ見てるとだいたい登場しますけど、戦争行く前の普通に暮らしてた頃はどんな人たちだったんでしょうね。普通に仕事して、普通に優しい人たちだったんだろうか。
戦争が人を変えてしまうのか、それとも戦争がその人の「本性」を暴いてしまうのか。
そう書いている時にある映画を思い出したので、今日はそのお話。
思い出した映画はこちら。
妹尾河童原作の「少年H」
戦時中~戦後の日本を、主人公・肇の姿を通して描いた作品。
水谷豊と伊藤蘭の夫婦共演ってことでクローズアップされていた記憶があります。
この「少年H」には、二人の教官が出てくる。
厳しいけど生徒のことを大事にしてくれる優しい久門教官(佐々木蔵之介)、そして絵に描いたようなスーパーサディスティック鬼教官・田森(原田泰造)。
終戦を迎えた後の田森の様変わりっぷりがもう、笑っちゃうくらいすごい。
共産主義に傾倒し、かつてガンガンぶん殴っていた肇に対しても腰が低く、敬語。
「妹尾くん!教官殿なんてやめてください!」
「これからは民主主義ですよ!」
変わり身が鮮やかすぎます。
戦争前、久門教官は時計屋さん、田森教官は質屋さんだった。
ちなみに戦後の久門教官は闇市っぽい広場の片隅で時計の修理をしている。
教官時代とはまるで違う二人の姿に肇はショックを受けます。
だけど田森だって、元々は腰が低くて礼儀正しい人だったのかもしれない。
軍国主義が、ごくごく普通の人たちを暮らしもろとも変えてしまった。そりゃもちろん、ドSな一面も元々持ち合わせていたのかもしれませんけど。
戦争もなにもかも終わって、元の姿に戻っただけなんだ。
まあしかし、佐々木蔵之介と泰造さんの軍服姿は眼福だったなぁ。
「少年H」はこの映画版よりも14年ほど前に、スペシャルドラマ版があったんですよ。もう録画したビデオテープも手元に残っていないので見返すこともできませんが、前編後編どちらも素晴らしくて忘れられないドラマのひとつです。
父ちゃんは中井貴一、母ちゃんは桃井かおりでね。この夫婦のイメージが強かったので、映画版はどうしても違和感があって困りました。
ドラマ版の田森教官は西村雅彦が演じていた。
こっちの田森は映画版とは全く違い、戦後の価値観の変化に対応できず、町でボコボコにされてた特攻崩れの教え子だか後輩に泣きながら詫び、「あんたのせいじゃないよ」って言われてまた泣きながら走って逃げていく。その惨めな姿といったら。
ここが、ドラマ版で最も私の心に残ったシーンでした。
そりゃ世の中180度変わっちゃったんだから、そういう人たちだってたくさん…
だけど、あのまんまじゃ生きていけない。
変わらなきゃみんな生きていけなかったんですよね。
あのシーンを泰造さんがやるんだ!ってことですごく楽しみにしてたんですけど、まさかの手のひら返しっぷりに衝撃を受けまして(笑)
原作を読んだことがないからなぁ。原作だとどうなってるんだろう。
原作も間違ってるだとかいろいろ言われてさ。確かドラマが放送された後だったと思いますが。
それが原因でドラマ版が再放送されずソフト化もされないということなら、すごく残念なんだけど。
窪塚洋介のおとこねえちゃんとかね、ハマり役ですごく良かったですよ。