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1月の献立|もっとも寒い月の素材の味わいを感じていただきたい

1年でもっとも寒さが厳しくなるのが1月です。一昨日も二十四節気では大寒、一年でもっとも寒い日でした。いまは、温暖化などの影響もありますが、それでも1月は特別寒い1カ月だと思います。

そのため食材は、魚や肉は脂がのってきますし、根菜も寒さに耐えて育つことで甘味が引き立ってきます。1月の食材は、食材自体の味がしっかりしているといえます。

塩は下味、素材の味である「上味」を支える

最近は、塩を更に意識して決めるようになったと思います。

食材本来の旨味と甘味を引き出すためには、下支えになる塩味が重要です。もちろん臭みを取り除き、旨味を凝縮させるというのもあると思うのですが、塩味があることによって魚の 甘味や旨味をより感じやすくなります。

僕の場合は、 塩味をつけようと思って塩を入れることはまずありません。食材の本来の味を引き出すことを意識して、塩をうったり、塩味をつけたりする。日本料理では、それを下味といい、味わってもらいたい食材の甘味や旨味は、下味がないと引き出せません。

醤油やお砂糖を上味ともいいますが、僕は食材本来の味が上味だと考えています。その上で、香りをつけたいな、と思うときに醤油を一滴たらしたり、全体をまとめるために甘味を足したりしています。

今月のコースでは、寒くなって味がしっかりした1月の食材の上味をどうお伝えするか。いろいろと試行錯誤して出来あがった献立になっています。

乃木坂しん 1月のおまかせコース(18,000円)を紹介します

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海老芋、カラスミ、ユリ根

ひとつの料理のなかで最初から最後まで同じ味のトーンで終わらないようにすることは、どの料理でも意識してることです。そのためこの料理でも、海老芋とカラスミ、ユリ根、3つの食材を意識してもらいながら一つずつではなく、一緒に食べてもらうためには、どのようにお出しすればいいかということを繰り返し考えました。

蒸して揚げた海老芋はひと口大に角切り、ゆり根はクタクタになるまで塩湯がきに。自家製のカラスミは薄くスライス。上の写真よりも今は、もっと薄く切っています。

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海老芋、カラスミ、ユリ根、カラスミの順に重ねたものを、お出しする直前にオーブンに入れます。そうすると熱によってカラスミがとろけるチーズのようにしなっとなって海老芋とユリ根を覆い一体感がでる。海老芋とカラスミ、ユリ根とカラスミ、または3つ一緒に食べていただくためです。

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鰤しゃぶ

お鍋の鰤しゃぶのように、表面だけにさっと火を入れたブリを食べていただこうというひと品です。

二番出汁に塩と薄口醤油で軽く味をつけて沸かした鍋のなかに、白菜と水菜、ネギを入れて火が入ったら、ここに切り出ししたブリをいれて、火を止めます。表面だけ色がついたら鍋からあげて、野菜とともに盛り付け、自家製の胡麻ぽん酢をかけてお出ししています。

ポイントは、ブリをしゃぶしゃぶする前に、中心までしっかり常温に戻すことです。

せっかく表面だけに火を入れても、中心の温度が低いままだと味や香りが閉じこもったままになってしまう。逆に中心の温度を常温程度まで上げようとすると、今度はまわりに火が入り過ぎてしまいます。そのためお店では、営業前に冷蔵庫から出して、中心までしっかりと常温に戻してから鍋に入れるようにしています。

じつは、写真撮影してからブリの切り方を変えていて、今はブリを2、3㎝ほどの角切りにしています。火の入った表面と生の中心の差がより明確になっていると思います。

もうひとつポイントは、自家製の胡麻ぽん酢のゴマです。

現在、日本ではゴマの大部分を輸入に頼っていまして、国産のゴマ油も原材料のほとんどは海外産なんです。僕たちが使っているのは、稀少な国産、鹿児島県喜界島産の「寿のねりごま」。香りももちろんあるのですが、自然な旨味やコクが強くて、これまで食べていたものとはまったく違うな、と感じていただけると思います。

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お椀 雉

お椀では、愛媛県南西部にある鬼北町でキジを育てている「鬼北きじ工房」さんのフレッシュのキジを食べていただこうと思います。さっそくですが、写真に入っているお餅は、今はもう入れてません(笑)。

というのも、必要のないものをできるだけ引いていって、キジだけを食べていただこうと思ったからです。

ムネ肉は炭火で焼いて、モモ肉はミンチにしてキジの真丈、うぐいす菜、松葉ゆず(ユズを松葉の形に切ったもの)、キジのガラでとった出汁と一番出汁のあわせ出汁のお椀にしています。

鬼北きじ工房さんは、基本的に冷凍のキジを扱っているのですが、12月後半から2月の前半ぐらいの約1カ月だけは、フレッシュで出してくださいます。この時期を旬という解釈で捉え、使わせてもらっています。

みなさんが思っている以上にキジの味が強いと感じると思います。あわせ出汁に一番出汁を使っているのもそのため。キジのガラでとった出汁が土台としてしっかりあることで、旨味と香りが強い一番出汁をあわせることができると思っています。

キジのモモ肉の真丈は、ちょっとおもしろい作り方をしています。

二番出汁に、濃口醤油とみりん、砂糖、たまり醤油を入れて沸かし、味を作ります。そこにミンチにしたモモ肉の半分入れるんです。火が入ったら出汁からあげます。肉がそぼろ状になるので、すり鉢ですってそぼろを細かくしたら、残りの生のミンチを入れます。卵と濃口醬油、砂糖で味を調えて、流し缶にいれて蒸す。ミンチの半分を先に火を入れることで、真丈がフワフワに仕上がるんです。

とりがん(鶏のがんもどき)も同じ作り方をしていて、お客様からも「石田さんのとりがんは、なんでこんなにおいしいの?」とお褒めいただいております。

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お造り フグ、アオリイカ、白子

お造りは、味を決めてからお出しするようにしています。ほかのお料理は味付けを決めて出すのに、お造りだけはなぜ切ったものをそのまま出すのだろうか、と考えたことがきっかけです。ですので、乃木坂しんでは、お醤油をつけずにそのままお召し上がりいただきます。

今月のお造りは、フグとアオリイカ、白子です。

フグは、てっさで食べるような薄切りの2、3枚分くらい厚く切ったことで、しっかり咀嚼することでフグの旨味を感じていただけると思います。アオリイカは1.5㎏以上の大物を使って、身の表と裏両面に切りつけをしてあります。

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フグは切ったあとに軽く塩もみにし、アオリイカは包丁を入れたあとに塩をふっておきます。お皿に盛り付けて、スダチを絞ったうえに、炭火で焼いたアツアツの白子をのせます。

白子の真ん中を包丁で切って、そこに少量の醤油をたらしてからお出しします。

素材と塩、わずかな醤油だけのひと品。この料理も、3つの素材を一緒に食べていただきたいです。アツアツの白子によって、フグやアオリイカも心持温かくなっていきます。食べ進めるうちに起こる温度の変化によって変わっていく素材の表情も楽しんでいただけたらと思います。

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サワラの漬け

サワラを斜めに3、4㎜くらいの厚さのへぎ造りにし、濃口醬油と二番出汁を。一対一でわったものに、ほんの15分くらい、さっと漬けます。

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赤酢を混ぜたシャリ(酢飯)の上に、生ウニをのせ、その上からサワラを覆うように盛り付けたのは、この料理でも3つの素材を一緒に口に運んでいただきたいからです。今は、この写真よりもサワラをもう少し薄く切っています。それによってサワラでウニとシャリを包んで食べやすくなったと思います。

サワラの上にのっているのは、黄ユズの皮を細かく刻んだものです。

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松葉ガニのてんぷら

ほとんどのカニは、僕は火を入れた方がおいしいと思っています。

そのため冬の味覚の王様、松葉ガニは足をシンプルにてんぷらにして食べていただこうと思いました。松葉ガニは、先月もお出ししているのですが、その時も炭火焼きでシンプルに食べていただきました。

てんぷらについて僕が得意げに言うのも専門店の方に対して申し訳ないんですけど、てんぷらは水分を中に閉じ込めながら蒸し焼きにするので、素材の旨味や香りが衣の中にしっかりと閉じ込めることができる調理方法だと思うんです。

先月の焼きガニに比べると、てんぷらの方が、ひと口食べた瞬間に閉じ込められていた香りと旨味が、ぶわっと押し寄せてくるように感じていただけるはずです。

てんぷらの下には、ほぐしたカニの身とカニ味噌をあわせたものに、三杯酢の酢ゼリーとワカメを添えたお口直しを敷いています。

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八寸

乃木坂しんの味をいろいろ楽しんでほしい」というのが八寸に対する想いで、お酒が好きな方でしたら、八寸を食べながら、お酒をもう1杯飲んでいただけたりすると、ウチの味を楽しんでいただけてるなぁと感じて、本当にうれしいです。

先八寸といって、献立の最初の方に出されることもありますが、乃木坂しんでは、オープン当時から真ん中くらいに八寸を出させてもらっています。もともと茶懐石では、八寸は後半に出てくるものでもあって(後八寸)、とくに珍しいものではないのですよ。

僕としては、真ん中あたりで八寸をお出しした方が、八寸というお料理にお客様が向き合ってくださるんじゃないかなぁと思うんです。たとえば初めてご来店していただいた方でも、中盤まできたらだいぶ雰囲気に慣れてくださると思うんです。そういうすこし心がほぐれたころに、ちょこっとずつ、いろいろな味を楽しめるような八寸が出てきたら、丁寧に仕上げた仕事をゆっくり楽しんでもらえるのではないでしょうか。

・粟麩と松の実の白和え ・マグロの赤身の昆布締め
・甘鯛の塩麹焼き    ・金柑 
・伊達焼玉子      ・菜の花のお浸し      ・黒豆

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フグのみぞれ煮

お食事の前にお出しする炊きものは、フグのみぞれ煮です。お造りで生のフグはお出ししましたので、ここでは火を入れたフグのおいしさを味わっていただこうと思っています。

フグを炭火で焼きます。フグの骨でとったお出汁(塩と薄口醤油で味をつけ)に、焼いたフグを入れて出汁を含ませたら、すりおろした聖護院蕪を加えて盛り付けます。

カブのすりおろしは、ダイコンおろしにしてもよかったのですが、フグの味に対してはちょっと強すぎるので、やさしい味のカブにしています。さらに寒くなって甘味がのってきたチジミホウレンソウを湯がいたものを合わせてお出しさせていただきます。

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大アナゴとゴボウの炊き込みご飯

今月の炊き込みご飯では、ちょっとした挑戦をしています。

ここ何カ月かのことなのですが、支配人の飛田(泰秀)と「素材が良ければ炊き込みご飯じゃなくて、白飯でいいんじゃないか。その方が、お米の良さも伝わるだろうし」ということを話していたんですね。

そのため、今月は、大アナゴとゴボウの炊き込みご飯ですが、お出汁を入れずに、水と酒、塩、笹がきゴボウを加えて米を炊いているんです。

岩手県大船渡の「CHEF'SWANT」さんから送ってもらっている1㎏以上もある大アナゴを炭火で塩焼きにして、ゴボウの入ったご飯を合わせる。余計な旨味がないので、アナゴと米の味がものすごく引き立つ。ゴボウの土っぽさが、アナゴの香りに同調していくので、シンプルだからこそまとまったひと品になっていると思います。

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いちご最中

イチゴのアイスクリームに煮小豆、白玉とフレッシュのいちごを、さっと炙ってパリパリになった最中の皮で挟んで食べる。お店だからこそできる、出来たてのデザートです。

イチゴはとちおとめを使っています。甘いだけではなくて、しっかりと自然の酸味があるもの。その方が、甘さが引き立ちます。それは、フルーツ全般に言えて、甘いだけじゃなくて酸味があるものがおいしいと思います。

最中の皮は、浅草で江戸時代末期から160年も続く老舗で、最中の皮の専門店「種亀」さんの皮を使わせてもらっています。

イチゴのアイスクリームにかけている黒蜜は、僕の故郷・徳島の阿波和三盆糖製造元「岡田製糖所」のものを。黒糖ではなく、和三盆を作る過程で出るものなので、わずかに酸味があるのが特徴なんです。酸味があるから甘くてもくどくない。黒蜜はずっと岡田製糖所さんのものを使っています。

今月も、食べていただきたい食材を取り揃え、みなさまのご来店を心よりお待ちしております。

乃木坂しん」店主 石田伸二

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乃木坂しん
東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1F
☎03-6721-0086
ランチ(水〜土) 12:00〜15:00(13:00LO、ランチは前日までの予約制)
 お昼の小会席 10,000円、おまかせ 15,000円、18,000円
ディナー(月〜土) 17:30〜23:00(21:30LO)
 おまかせ 15,000円、18,000円、28,000円
※消費税、サービス料10%別
※緊急事態宣言中は、夜の営業時間を変更して営業しておりますので、店舗までお問い合わせください。

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次回のnote更新では店主の石田と支配人の飛田の対談をお送りしますのでお楽しみに!。アカウントのフォローもしていただけるとうれしいです!

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構成・文=江六前一郎

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