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小説「Ank:」「テスカトリポカ」ネタバレ感想

佐藤究「Ank: a mirroring ape」講談社文庫
佐藤究「テスカトリポカ」角川文庫
ネタバレありますので回避したい方は読まないでください。
グロテスク描写の紹介もあるのでご注意ください。

曖昧な記憶だよりの雑多な感想です。ネタバレありです。
解釈間違いなどあったらすみません。
本屋でジャケ買いってあまりしないのですが、
「Ank:」の帯 京都暴動 人類の遭遇した鏡の謎 ダブル受賞
に惹かれて試しに買ってみたのが数年前。
佐藤究作品はこれ1作しか知らなかったのに、読んで一気に
自分にとって特別な作家になりました。

チンパンジーの放つ「声」一発で、人類ほぼすべてが
強制的に脳を退化させられる。
数分間だけ、脳の古い部位に主導権が渡ってしまい
冷静な判断も停止して原始的行動を優先してしまう。
かなり荒唐無稽だし、いくらなんでも「声」の威力が強すぎるし
この声は電波に乗っても効果発揮するので
ネットにあげられた「声入りの映像」を視聴してもアウトです。
荒唐無稽なんだけど、このデタラメな超常現象が迫力あって
シビれました。結果的に人間が殺戮しあってしまう。
「作者は京都に恨みでもあるの?」ってくらいに
京都壊滅状態に追い込まれてしまう。
チンパンジーの研究者は意図してなかったとはいえ、
人類がやっちゃいけない禁断の実験をしてしまったのかも。
かつて古代に起こったであろう類人猿の「全滅レベルの殺戮」を
現代に再現させてしまった。
…ごめんなさい、この小説の魅力、威力を上手く説明できません。
人類の無意識化に眠る記憶、鏡への畏れ、神話など
てんこもりで全部綺麗につながっているSFなんです。

で、「Ank:」一発でファンになってしまった自分は
「テスカトリポカ」文庫化をずっと待ってました。
これを読むまでは「テストカリポカ?テスカトリポカ?」と
間違える無能レベル… 「Ank:」と同様に超常現象が起きて、
恐ろしい神(テスカトリポカ)が臓器売買ビジネス犯罪集団に
鉄槌をくらわすお話かな?と予想してたら大間違いでした。
(超常現象は起きません)
小説「テスカトリポカ」のあらすじを先に読んじゃってたので
いずれ日本が舞台になる、のは知ってました。
これは知らないまま読みたかったなあ。
冒頭から、これでもかこれでもかとメキシコ麻薬カルテルの
陰惨な殺人拷問死体損壊がつづいて…きつい。
メキシコがめちゃくちゃ怖くなった。怖いんだけど惹かれてしまう。
登場人物のほとんどが倫理観ぶっ壊れているので
感情移入できるキャラクターがほぼいない!まともなの3人くらい!
まだ類人猿研究者のほうがマシ!
人物に共感できないわ殺害シーンがつづくわでしんどいはずなのに、
読むのを止められないんです。
佐藤究作品は淡々と抑えた描写でささっと進むので、
グロテスク拷問などもさっと始まってすぐ終わるのがマシかも。
(すぐ終わるけどすぐ次のグロ展開がはじまる)
最初はまじめに登場人物名を覚えようとしてましたが、
「いやどうせすぐ死ぬんでしょ?」と覚えるのやめました。

麻薬密売人「バルミロ」などを中心に、メキシコやジャカルタの描写が
つづきます。バルミロはそのうち臓器売買にもかかわります。
この時点では「腎臓」で、この小説ではまだマシなほう。
腎臓を売り渡す人は自分の意志でやってるし死なないから。
やがて扱う商品は「心臓」へ。
いつになったら日本が舞台に?…と思っていたら
一番最悪な形で日本が出てくるんです。
「スラム街の子供の心臓よりも、清潔な日本産の心臓のほうが
高値で売れる」
だから、バルミロ達は拠点を日本に移すんです。
行方不明者届を出される心配のない子供を、保護を名目にして集めて…
グロテスクな発想をする作者だなあと思いました。
アステカの神話と神々のお話もたっぷりで、
神話と犯罪と現代と古代がまぜこぜになって出てきて…
暑苦しいほどの威圧的パワー!それが佐藤究作品の魅力だと思います。

このグロテスクな心臓売買ビジネスは、小説のかなり後半まで
順調なので「まさか作者はビジネス集団の味方なのか?」と
不安でしたが、まあ最後は一気に鉄槌が下されます。
登場人物ほぼ犯罪者!で、共感できるキャラクター少ないし
「Ank:」以上に陰惨描写増量なんですが、救済というか
最後の最後に希望も残してくれて、2作とも読後感は切ないのです。
犯罪者まみれの中で孤軍奮闘してくれる人物がいる。

…やっぱり私の語彙力では作品の魅力を伝えられません。
ただの犯罪小説じゃないんです。
この麻薬密売人はアステカの神々を信奉していて、
生贄を捧げること、儀式に異常に執着している。
だから彼にとっては犯罪というより神聖な儀式。
神に生贄を捧げる儀式という自意識の元に描写されています。
(古代の儀式を現代でやっちゃうからえげつないことになってるけど)

フィクション小説の中でしか味わえない
圧殺暴力を体験したくて、佐藤究作品を切望してしまいます。


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