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アルコールやタバコを止めたいけれど、なかなか止められない方へ

ニュージーランドで医者をしています。
ジェネラルプラクティショナーというプライマリーケアをする総合診療科医です。

患者さんの中には、タバコやアルコールを止めたいけれど、止めるのにすごく苦労している、という人がよくいます。

医者としては、「タバコもお酒も健康に悪い」という証拠は充分にあるので、
「どちらも止める事、それが無理でも大幅に減らす事」を勧めます。

と、ここまではよくある話です。

患者さんの中には、それほど苦労せず(と言っても、実際どのくらいご本人が苦労したかはご本人しか分かりませんが) 止められる人と、
なかなか止められない、又は止められても、すぐまた始めてしまうという人がいます。

また「止められない」とか「今更止めてもしょうがない」という人達の中にも
『心筋梗塞』や『脳梗塞』を起こした後に、病院の医師にタバコを止める様に勧められて、そのまま止められてしまう人もいます。

「タバコやアルコールを止める」話をする時に、いつも患者さんに言う事が2つあります。

1.タバコやアルコールは、ストレスをマネージしたり、リラックスするために使われる事が多い。

中にはそうでない人もいるかも知れません。例えばタバコを吸ったりアルコールを飲む友達が来たら、その時だけ付き合う、とか。
ただそういう人は、止めると決めたら止めるのはそんなに難しくないはず。

難しいのは、アルコールやタバコをストレス解消やリラックスするのに使っている人。
タバコやアルコールがなかったら、じゃあどうやってストレスを解消するの?

そうなんです。そこを決めていないと、止めるのは難しいんです。

「僕は怠惰だから止められない」
「私はダメな人間だからタバコやアルコールをやめるのは無理なのよ。何回ももう止めようとしてみたし。」

いやいや、そういう事ではないのです。

私の患者さんで、障害のある(既に大人である)息子さんと二人暮らししている人と先日、診療時に話をしました。
メインのトピックは高血圧だったのですが、彼女が喫煙者であるのに気づきました。

血圧を下げるのも(悪玉コレステロールを下げるのも)、将来、心血管疾患になるリスクを下げるためなのですが、そのリスクに何よりも大きな影響を与えるのは、喫煙の有無なんです。

タバコを止めるのは「血圧の薬で少し血圧を下げる」とは比べものにならないくらい心血管疾患のリスクを減らします。

そこで患者さんに「タバコの話をしてもいいか」と訊いて許可を得て、彼女が「タバコに関して」どの様なところにいるかをきいてみました。

彼女曰く、既にかなりタバコを減らしており、止めたい気持ちはあるけど完全に止めるところまでいかないという感じ、との事。

「どう状況でにタバコを吸うのが多いか」訊くと、「1日の終わりにタバコを吸ってホッとする事が多い」との事でした。
既に大人であり、でも障害の一部として大人のレベルの判断力がない息子さんの相手をしてイライラしてしまった時とか、タバコを吸うとホッとする。

こんな場合、タバコをただ単に止めようとするのは、極端に食べ物を減らすダイエットをするのと同じで、リバウンドする可能性が高いです。

なぜかと言うと、タバコを吸う以外にどんな方法でストレスを解消するのか、の作戦を立てていないから。

ダイエットも食べ物の量を極端に減らすだけでなく、「じゃあ、すごくお腹が空いてなんともできなくなったら、何をするか、何を食べるか」を決めておかないと、リバウンドするリスクが高いですよね。
同じ事です。

なので、いつも患者さんに
「一つの選択肢は、タバコを吸い続ける事。もちろん交通事故で死んだりすることもあるんだし、タバコをやめたら生き続けられるわけでは無い。でも色々な疾患になる確率は上がる。

もう一つの選択肢は、自分の健康のためにタバコを止める。
これを選ぶなら、そして今まではやめられず苦労してきたなら、タバコの代わりに健康的にストレス解消できる方法を探すか、ストレスを軽減するスキルをまず身につけましょう」
と話し合います。

2.「死ぬかも知れない」と言う恐怖を経験した後に、再度それが起こるリスクになるタバコやアルコールをきっぱり止める人はよくいる。

『心筋梗塞』や『脳梗塞』になった人が、今まで止められなかったお酒やタバコをやめられるのは、既に『心筋梗塞』や『脳梗塞』と言う『命に関わる痛み』を味わったから。

人間は、「楽しみを求める」か「苦痛を避ける」かの選択肢を与えられると、
「苦痛を避ける」方を選びます(一般論ですが)。

『心筋梗塞』や『脳梗塞』を起こすまでは、「健康である」ことの喜びより「アルコールやタバコを止めた時に感じる肉体的、精神的な苦痛を避ける」事を選択していました。
でも『心筋梗塞』や『脳梗塞』を経験した後は、「アルコールやタバコの楽しみ」より、再度『心筋梗塞』や『脳梗塞』になって普通の人生が送られなくなる、または死ぬ苦痛」を避ける事を選びやすくなるのです。

でも皆さんが、最初の『心筋梗塞』や『脳梗塞』を起こさないうちに、タバコやアルコールを止めれたら、もちろんそれが一番だと、医学的見地からは思うのですが。

ただ断酒や断煙のためには、(どんな状況で自分はタバコやお酒を使っているのか)
まず、ご自分の内面を覗いてみて下さい。

そして、その理由を理解したら
酒やタバコの代わりになる、リラックスできる物事を探したり、ストレスマネージメントのスキル身につける事で、あなたの断酒、断煙の成功率は上がると思います。

必要であれば、プロに相談する事も考慮してみて下さい。

応援しています。








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総合診療科医のだのり@ニュージーランド
「親も育つ子育て」を広めるために、私の持っている知識、経験、資料をできるだけ無料で皆さんに届けたいと思っています。金銭的サポートが可能な方で、私の活動を応援していただける方は、サポートをしていただけると嬉しいです。