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30分で書く嘘日記

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30分で嘘日記を書くシリーズです。
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祖母は運河を流れ祖父と草原を駆けた(30分で書く嘘日記)

祖母は運河を流れ祖父と草原を駆けた(30分で書く嘘日記)

祖母が今日、運河を流れていった。

針仕事を生業とする私たちは皆生まれてすぐに針を持たされ縫い続け刺繍をし続け歳を取ると失明する。だから目が見えなくなっても針を使える。失明した後には今までのどんな仕事よりも時間をかけて一枚の布に細かく細かく刺繍をする。寿命がくるとその布を死装束として纏い小舟に乗せられ海へ還る。

祖父に会いに行くことにした。

祖父は祖母の編んだ草原の中で狩りをして生きてきた。歳

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30分で書く嘘日記②毛

30分で書く嘘日記②毛

2024年11月11日

仕事仲間になってくれるアルパカを探しに会場へ行った。会場には毛量の多い者が集まっていて、わたあめの中を抜けるように毛玉の間を縫って進んだ。大きい者から小さい者までいた。見覚えのない者はおそらくイエティだろう。
アルパカのコーナーには一匹だけ毛の短いものがいた。
「毛を刈ったばかりなんだよ」湿り気の多そうな舌をちらちら光らせながら立会人の老人が言った。「真っ新な状態で仲間を

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30分で書く嘘日記①心臓

30分で書く嘘日記①心臓

2210年11月10日

培養液の中で漂う心臓を確認するのが日課だ。
心地良いとは言えないはずのその光景をそれでも毎日欠かさず確認するのは、それが人の存続にとって重要な仕事だからというだけではなかった。

もしかすると美しいのかもしれないと、思うのであった。
かもしれない、というほどの曖昧さが、毎日必要以上に長い時間を仕事に使う理由だった。

氷河期に入ったこの地球で皆、死ぬか生き延びるかの運を試

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