野田帰里

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  • 30分で書く嘘日記

    30分で嘘日記を書くシリーズです。

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最近の記事

祖母は運河を流れ祖父と草原を駆けた(30分で書く嘘日記)

祖母が今日、運河を流れていった。 針仕事を生業とする私たちは皆生まれてすぐに針を持たされ縫い続け刺繍をし続け歳を取ると失明する。だから目が見えなくなっても針を使える。失明した後には今までのどんな仕事よりも時間をかけて一枚の布に細かく細かく刺繍をする。寿命がくるとその布を死装束として纏い小舟に乗せられ海へ還る。 祖父に会いに行くことにした。 祖父は祖母の編んだ草原の中で狩りをして生きてきた。歳を取ると少年として草原の中で生き続けそこから出ることはなくなった。やがて太陽に体

    • 図書館司書として4か月働いて、昨日辞めた。いい仕事だった。

      2024年11月13日 夏から4か月、図書館司書として大学図書館で働いていた。昨日退職した。理由は金銭面。最低賃金×6時間×週5、ちょっと生活が苦しかった。 でも仕事は今まで経験した中で(アルバイト含め)、一番好きだった。 開館前の電気がついていない図書館を初めて見た。電気がつけられ開かれた場所になる前の図書館で、本たちに潜む膨大な時間が呼吸しているのを微かに感じた。晴れた日は磨りガラスから光が伸びてどことなく懺悔室を連想した。夏は蝉の声がした。カーペットに当たる光とタイ

      • 30分で書く嘘日記②毛

        2024年11月11日 仕事仲間になってくれるアルパカを探しに会場へ行った。会場には毛量の多い者が集まっていて、わたあめの中を抜けるように毛玉の間を縫って進んだ。大きい者から小さい者までいた。見覚えのない者はおそらくイエティだろう。 アルパカのコーナーには一匹だけ毛の短いものがいた。 「毛を刈ったばかりなんだよ」湿り気の多そうな舌をちらちら光らせながら立会人の老人が言った。「真っ新な状態で仲間を探したいという、本人の希望でね」 そのアルパカを見上げると目が合った。無口なアル

        • 30分で書く嘘日記①心臓

          2210年11月10日 培養液の中で漂う心臓を確認するのが日課だ。 心地良いとは言えないはずのその光景をそれでも毎日欠かさず確認するのは、それが人の存続にとって重要な仕事だからというだけではなかった。 もしかすると美しいのかもしれないと、思うのであった。 かもしれない、というほどの曖昧さが、毎日必要以上に長い時間を仕事に使う理由だった。 氷河期に入ったこの地球で皆、死ぬか生き延びるかの運を試された。 次にあったのは選択だった。あと少ししたら死ぬか、もう少し先で死ぬか。も

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        • 30分で書く嘘日記
          3本
        • 日記
          3本

        記事

          迎えに行く

          明日の朝、雨が降るだろうから、傘を持って駅まで迎えに行くことにした。 10時ごろに着くらしいけど、それより少し余裕をもって起きて、朝の支度を終えておこう。 そう決めて、人を迎えに行くための早起きは気持ちがいいなあと思った。 駅まで送ったり、迎えに行ったりするとき、相手が喜んでくれるとすごく嬉しい。 あ、喜んでくれるんだ、と思う。私が一緒に歩くことを。 好きかもしれない。送ること、迎えに行くこと。

          仏花

          このまえの日曜日、仏花を持って歩く人を見た。 買い物袋を持っていない方の手で、根もとを掴んで横にして持ってた。 仏花というものの持ち方は、乾いていていいなと思った。 そして今日、仏花を持って歩いていた人の姿を思い出した。 ふと、仏花というものがわかった気がした。 なるほどたしかに花がいいのだ。 手入れや入れ替えが必要だから、気にかけ続けなくちゃならない。 だから、亡くなった人を忘れることはない。悲しみが乾いても。 それは希望かもしれない。 夫のことがすごく好きだ。 だか

          夢 2024年4月19日

          小学校の中で、我々は暴れ回らなければならなかった。でもそんなことは嫌だった。子どもを傷つけずに済むよう、暴れるふりがばれずにいられるところを探して各階を彷徨った。 校庭に出たら、世界が終わった。空気が蜃気楼のように揺らいでいた。小学校の方から波紋のようにゆらめきが広がっている。蜃気楼ではなく、核爆弾のようなものだろうとわかった。 手嶌葵の時の歌が流れていた。空は青くて広かった。はじめはぼうっとしていたけど、ここでは息ができない、敷地の外に出たら生き延びられるかもしれないと気

          夢 2024年4月19日

          夢 2020年4月19日

           宮殿のような立派な建物の前にいる。宿らしい。庭には池やヤシのような木々がある。ふっくらして裾を絞った麻のズボンと、同じく麻で腰くらいの丈の詰襟のついた上衣を着た男女が仕事の内容を説明する。服の質感や黄ばんだ白色は太陽が近く湿度の低い土地において過ごしやすそうに見え、どことなくアラブの風情を思わせる。やってくる客たちに挨拶をし荷物を受け取ることが自分の仕事らしかった。  じきに客が来たので言われた通りにお辞儀をし、荷物を受け取る。客はみな男であった。客の衣装もまたアラブ風を

          夢 2020年4月19日