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侠客鬼瓦興業66話「男!追島、哀愁の背中・・・」

「追島さん!?」
僕は思わず叫んだ。
「何だ吉宗、急にでっけえ声だして?それに何やってんだお前ら?」
追島さんは不思議そうにあたりを見渡し、春菜先生に目をとめた。
「あれ、あんた確かユキの先生」
「あ、はい、こんばんわ・・・」
春菜先生はあわてて頭を下げた。
追島さんは照れくさそうに頭をかきながら
「いや、昨日はすいませんでした。恥ずかしいところ見せちまって」
そう言ってキョロキョロあたりを見た。

春菜先生は追島さんのようすに
「あの、ユキちゃんですか?」
「え?あ、いや」
「すいません、ユキちゃん夜間保育中なんですけど、昨日の事があったもので園でお留守番なんです。
「そ、そうですか」
追島さんは少しさみしそうにうなずいた。そんな追島さんと春菜先生の様子を見ていた沢村が
「あの、春菜先生」
「あ、副園長」
「こちらがユキちゃんのお父さん、ですか?」
「はい、追島さん、ご紹介します、うちの副園長で・・・」
春菜先生がそう言いかけた時、
「副園長?それじゃ沢村さん・・・、ですか?」
追島さんがぼそっと呟いた。
「え?あの、どうして私の名前を?」
「ユキから電話で聞いたもので」
「そ、それじゃ、私と慶さんの事も?」
「はい、少しだけですが、それもユキから・・・」
追島さんはそう言いながらうなずいた。

(お、追島さん・・・)
僕は追島さんと沢村研二の様子を無言で見つめながら、ふっと昨夜喫茶慶の近くで見た追島さんの後姿を思い出した。
(そ、そんな・・・、それじゃ追島さんはすべて知ってて、こっそりあの花束を)
「お、追島しぁん・・・うぐ」
気がつくと僕の眼には大量の涙があふれかえっていた。

「ユキちゃんから聞いてご存じだったなんて、いや、それじゃ話は早いですね」
沢村はそう言うと同時に笑顔で頭を下げた。
「近々、ユキちゃんの父親にならせていただこうと思ってます、沢村です、はじめまして」
「あ、はあ、追島です、はじめまして」
「実は、こちらの春菜先生から昨日のこと伺いまして、今日もこちらに来れば、あなたにお会いできるんじゃないかってそう思いまして」
「私にですか?」
「はい、お会いして、私と慶さんの事を許していただこうと思っていました」
「許し?」
追島さんは不思議そうな顔で
「何で俺なんかの許しをもらう必要があるんですか?俺はもうあいつとは赤の他人なんですよ?」
「いえ、それでも追島さん、あなたはユキちゃんのお父さんですから」
「・・・・・・」
追島さんは無言で沢村の顔を見た。

「ユキは確かに俺の娘ですが、でも、もう会わない慶と約束してますし、だからあんたが俺に気を使うことないでしょう」
「本当にそうですか?」
「ええ、俺が口をはさむことでもなんでもない」
追島さんはつぶやくと、さっと横を向いて持っていたジュースを銀二さんに手渡した。

「あの追島さん、それじゃ、お願いがあるんですが」
沢村の問いかけに追島さんは無言で振り返った。
「ユキちゃんと、今後一切かかわらないで頂きたいんです」
「・・・!?」
「電話も、しないでもらいたいんです」
「・・・・・・」
追島さんは不機嫌そうな顔で沢村の顔を見ていた。

「ちょっと!沢村さん!それはひどいんじゃ!」
たまらず僕は涙と鼻水をたらしながら叫んだ。沢村は僕を見ると
「何がひどいんですか?慶さんとの約束を破ってこっそり連絡を取り合っている方が、よっぽどひどいんじゃありませんか?」
「それでも、ユキちゃんは追島さんの事が大好きなんですよー、それなのにー、それなのにー」
「私もそう思います!ユキちゃんの気持ちを無視して、ひどすぎると思います!」
「めぐみちゃん!?」
気がつくとめぐみちゃんも僕の隣で沢村に訴えていた。

「あなたたちは関係ない、これは私と追島さんの問題です!」
「関係ないって、あんたー!」 
「吉宗!」 
「!?」 
「この人の言う通りだ、お前には関係ない」
「でも追島さん」
「そうですよ追島さん、それじゃユキちゃんが・・・」
「めぐみちゃん!」
追島さんは、めぐみちゃんの言葉の続きをさえぎった。

「それじゃ、わかって下さったんですね追島さん、ユキちゃんとはこんりんざい電話もしないって」
沢村は得意の氷のような目で笑った。追島さんはそんな沢村の顔をしばらくじーっと見たあと、おもむろに胸ポケットから煙草を取り出し火をつけた。
「追島さん、ユキちゃんとは・・・」
「フーー!」

「お、追島さん!」 
「沢村さんだったっけか、悪いけどそいつはあんたと約束することじゃねーだろ」
「え!?」
「慶と別れるとき、そのことに関しちゃ話しは済んでるんだ、今更あんたと約束することじゃねえよ」
「そ、そんな・・・」
「・・・・・・」
「お、追島さん!」
「・・・・・・」
追島さんは、しばらく沢村を見ながら煙草を吸い続けていた。無言の迫力に押されたのか、沢村は青ざめた顔でカタカタと震えはじめた。
そんな沈黙の後、突然追島さんが口を開いた。
「あんたと約束することじゃねえがよ、ユキのことで、あんたと慶の間をかき回す気もさらさらねえから安心しなよ」
「あ、はい」
沢村はカタカタと震えながらうなずいた。
「それじゃ、悪いけど仕事の途中なんで」
追島さんはぼそっとつぶやくと、春菜先生に丁寧に頭を下げた。それから、その隣にいたイケメン三波に目を移すと、一瞬ぴくっと片方の眉を吊り上げた。
「んっ?」
「え!?あっ・・・」
三波はあわてて下を向いた。
「お前、どっかで見た面だな」
「あ、いや、私は・・・」
三波は下を向いたまま必死に手を横にふっていた。
「・・・・・・・」
追島さんはしばらくに三波のことを見たあと
「まあ、いいや」
ぼそっと呟き、どすどすと音を立てて境内の入口近くの持ち場に向かって歩き去って行った。

「お、追島さん」
僕はあわてて追島さんの後を追って走り出した。
「待って吉宗君!!」
僕に続いてめぐみちゃんも走りはじめていた。 
「おーい吉宗ー!めぐみちゃーん!仕事の途中だぞー!」
銀二さんがあわててたこ焼きの三寸から叫んでいた。

追島さんと僕たちが走り去った後、なぜかイケメン三波は震え続けていた。そんな三波の様子に首をかしげながら春菜先生が
「三波先生、追島さんのことご存じだんたんですか?」
「い、いや、知りませんよ」
「それじゃ、人違いですか?」
「は、はい、そ、そうでしょう」
そう言いながらも三波の足はカタカタと震えていた。 
「あ、そうだわ、三波先生急いで園に戻らないと」
「え?」
「三波先生にお客さんが見えてるんですよ」
「お客さん?」 
「ええ、西条さんという方が・・・」

「さ、西条!?」

名前を聞いて何故か沢村が顔をひきつらせた。
「はい、西条さんという男性の方が・・・」
春菜先生から聞いた西条という名前に、沢村と三波は緊張した表情を浮かべると
「春菜先生、三波君と先に戻りますので、子供たちをお願いします」
そう言い残し、あわてて境内の外に向かい小走りで去って行った。

「どうしたんだろう?副園長も三波先生も血相を変えて、いったい西条さんというお客さんって?」
春菜先生は不思議そうに首をかしげていた。


「追島さん、追島さーん!」
「追島さーん!」
僕とめぐみちゃんは二人、追島さんのイカ焼き三寸の前に走りよった。
「なんだお前、それにめぐみちゃんまで、まだ仕事の途中だぞ」
「で、でも・・・」
「でもじゃねえ仕事に戻れ」
追島さんはそういうといか焼きの炭をひっくり返した。僕は眼をうるませながら
「追島さん、本当にいいんですか?あの沢村とお慶さんが一緒になっても、本当にいいんですか?」
「いいもクソもねえだろうが、俺に口出しできることじゃねえんだから」
「それじゃ追島さん、どうして夕べお慶さんに花束なんか!」
「んぁ!?」
「あっ!?」
追島さんはが見せた怖い顔に、僕はあわてて口をつぐんだ。 
「お前、見たのか?」
「あ、はい、すいません」
「・・・・・・」
追島さんは無言でしばらく僕を見たあと、恥ずかしそうに背中をむけた。

「見られたんじゃ仕方ねえ、あれはな慶との約束を果たしただけだ」
「お慶さんとの約束?」
「ああ」
「追島さん、約束って?」
「めぐみちゃん、これはあいつと俺の約束だ。それ以上は勘弁してくれや」
追島さんはぼそっと呟くと、ひとりイカに串を打っていた。

「追島さん・・・」
僕は追島さんのマウンテンゴリラのような後姿に、たまらない男の哀愁を感じ、ポロポロと涙をこぼしていたのだった。

つづく

最後まで読んでいただきありがとうございます。
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※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^

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