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侠客鬼瓦興業 92話「めぐみちゃんの唇・・・」

「めぐみちゃん!!」
彼女の姿を見た瞬間、僕の両目から涙が、どぶぁーっとあふれ出した。
「めぐみちゃん!めぐみちゃん!」
僕は必死に彼女の元へ近寄ろうとした。しかし今までの激闘の影響から足がもつれてその場にコロッと転がってしまった。
「めぐみちゃん・・・」
それでも必死に体を起こした僕にめぐみちゃんが
「吉宗君!!」
叫びながら飛びついて来た。僕は生きて再び彼女に会えたうれしさから満面の笑みを浮かべながら 
「勝った・・・、僕、勝ったよ、めぐみちゃん勝ったよ」
「うん、すごい、すごかったよ・・・、かっこよかったよ吉宗君」
「よかった、めぐみちゃんを助けることが出来た、本当に良かった」
「ありがとう吉宗君、ありがとう」
めぐみちゃんは僕の胸に顔を寄せながら大粒の涙をこぼしていた。そんな彼女を僕はぼろぼろの体で抱きしめたのだった。

少しして僕は、ハッと大切なことに気がついた
(そう言えば、めぐみちゃん、あの男からひどい目に!)
そう思った僕は優しく彼女の肩を抱いて
「可愛そうに、酷い目に合わされて・・・」
「えっ?」
「ううん、何も言わなくていいんだよ、いいんだよ」
身も心も傷つけられてしまった彼女の悲しさを思い、僕はボロボロと涙を流していた。
めぐみちゃんは不思議そうに首をかしげると、ハッと明るい表情をうかべ
「吉宗君?私・・・」
真剣な顔で話しかけてきたが、僕はあわてて彼女の口を指で押さえると
「ううん、いいんだ・・・、何も言わなくていいんだ。たとえ野獣に花園を踏みにじられたって、めぐみちゃんはめぐみちゃんなんだから」
「花園を踏みにじられる?」
めぐみちゃんは不思議そうに僕を見た後、ケラケラと笑い始めた。
「違うよ吉宗君」
「えっ?」
「さっき、あの人が言ってた言葉でしょ、あれ全部嘘だよ」
「嘘?」
めぐみちゃんは再び笑うと
「私あの人に変なことなんて、何もされて無いんだよ」
「えっ?だって、めぐみちゃんの処女を?」
「やっ、やだ!もう!!」
バシッ!!
めぐみちゃんは真っ赤になると、僕の顔面に強烈な張り手を見舞ってきた。
「ぐわっ!」
僕は鼻血を噴出しながら、その場に仰向けに倒れた。

「あっ!ごめんなさい、つい、だって吉宗君、変なこと言うから」
「変なことって、あの人が・・・」
「あの人の言葉は全部嘘」
めぐみちゃんは倒れている西条を指差すと
「バスの中に連れ込まれた時、私も正直にもう駄目だって思った・・・、最初はあの人すごい血走った怖い目だったから」
「怖い目?」
「うん、でもね、私バスの後ろの席に追い詰められながら思ったの、命がけで助けに来てくれた吉宗君のためにも、私も頑張って闘わなきゃって、私だって命がけで身を守らなくちゃって・・・、それでね」
めぐみちゃんは照れくさそうにうつむくと
「それで私、あの人に向かって叫んだの・・・、この体は吉宗君以外にはさわらせない!絶対にさわらせないんだから!死んでもさわらせないんだからって」

「めっ、めぐみしゃん!」
僕は鼻水まみれの顔で彼女を見つめた。
「えっ、あっ!・・・やだ私、だってあの時は必死だったから」
「めぐみしゃん、うっ、うれしいのら~、そこまで僕の事を・・・、うれしすぎるのら、うぐぅ、うぐうぉ~!」
僕は感激のあまりぐしゃぐしゃの顔で泣き崩れていた。
「やだーそんなに泣いて、さっきとはまるで別人じゃない」
「さっき?」
「あの人と闘っていた時の吉宗君よ、すっごくかっこよかったのに、ふふふ」 
「あっ!?」
僕はめぐみちゃんの言葉で、ふっと桃さんの事を思い出した。そしてあわてて首を横に振ると
「ちっ、違うんだめぐみちゃん、さっきの僕は、僕であって僕じゃないんだ」
「吉宗くんじゃない?」
「うん、うん・・・、あれは桃さんなんだ、桃さんが僕に憑依して」
「桃さん?憑依?」
「そう、桃太郎侍さんが僕に憑依したんだ。それであんな風に」
「桃太郎侍!?」
めぐみちゃんはしばらくの間僕を見ていたが、突然目を三日月のように細めると
「きゃはははは、何言ってるの面白~い、吉宗君ったら桃太郎侍が憑依しただなんて、おもしろすぎ~、きゃははははは」
大声で楽しそうに笑い続けた。
「いや、笑ってるけど本当なんだって、本当に桃さんが」
「吉宗君らしい」
「えっ!?」
「本当はすごい力があるくせに、そんな冗談言ってごまかしたりして・・・、でもそんな謙虚な所がまた、すご~くいい所なんだよねふふふ」
めぐみちゃんはうれしそうに微笑みながら僕の腕に手をまわしてきた。
「いや、謙虚じゃなくて」
そんな時、再び僕の耳に桃さんの野太い声が響いてきた。
(倅殿よ良い良い・・・、確かにワシの働きも大きかったがそれはそなたの真実の愛の力があったればこそじゃからのう) 
(桃さん!)
(さーて、これでワシの役目も終わった。そろそろ帰るとするかのう)
(帰る?)
(うむ、その愛する女子と末永く睦めよ、倅殿)
(桃さん!)
(でわ、いざ、さらばじゃ!)
声と同時に僕の体から何かがぐっと抜け出ていくのを感じた。
(さらばじゃ倅殿よ・・・、倅殿よ・・・、倅殿よ・・・)
桃さんの野太い声は僕にそう告げると、静かに遠さかって行ったのだった。

(ありがとう・・・、ありがとうございました桃太郎侍さん)

「吉宗くん?ねえ、吉宗くんってば」
「えっ!あっ!?」
気がつくと、めぐみちゃんが不思議そうに僕を見つめていた。
「どうしたの?遠くの方を見つめちゃって、ぶつぶつと」
「あっ、だから桃さんが」
「またそれ?しつこいですよ」
めぐみちゃんはそう言いながら口をぷっと膨らますと
「私が一生懸命、バスの中での続き話してるのに、また桃さんがなんてふざけて、本当は心配してなかったんだ私のこと」
「えっ、違う、そんなことない、すっごく心配で心配で・・・」
僕は大慌てで手を振った。めぐみちゃんはしばらくじーっと僕を見た後、再び興奮した様子でさっきの続きを話し始めた。

「そう、私がバスの中で必死に叫んだ後」
「叫んだ後?」
僕も真剣にめぐみちゃんを見つめた。
「うん、私が叫んだ後、あの人しばらく真剣に私の事を見ていて、それから急に笑い始めたの」
「わっ、笑う?」
「うん、急に笑い出したと思ったら、今度はバスの入り口に腰掛けて、一人静かにタバコを吸い始めて、それでも私すごく怖かったから、後ろの席からじーっとあの人のこと見てたんだけど」
めぐみちゃんは再び倒れている西条を見ると
「今度は急に悲しそうな顔をして、黙って窓の外を見ていたの」
「悲しそうな顔?」 
「うん、それどころかあの人、三波先生に首を絞められている吉宗君の事を見たとき慌てて止めに行こうとしたんだよ、あのバカまじで殺すきや!そう言いながら」
「えっ僕を?どっ、どうして?」
「わからない、でも吉宗君の言ったとおり、あの人本当は悪い人じゃないって、私も思うの」
「・・・」
僕は倒れている西条を見た。

「でもどうして、この人はめぐみちゃんを犯したなんて、あんな嘘を・・・」
「わからない」 
めぐみちゃんは不思議そうにつぶやいた後、照れくさそうにそっと僕の腕に顔をすり寄せて来た。
「でも、うれしかったよ、吉宗君が言ってくれた、あの言葉うふふっ」
「僕の言葉?」
「うん、私に何があっても真実の愛は変わらないって」
「そっ、そんなことを僕が?」
「あの時の吉宗君、すごーくかっこよかった。私もっともっと大好きになっちゃった」
そう言いながら、めぐみちゃんは熱い瞳で僕を見つめてきた。
「め、めぐみちゃん… 」
「吉宗くん… 」
僕たちは、ほんわか~っとしたバックを背景に、じーっと潤んだ瞳で見つめ合っていた。

そして、気がつくと彼女は美しいピンクの唇を僕に向けながら、そっと目を閉じていたのだ。
(えっ、めっ、めぐみちゃん…これって、もしや、キス!)
僕の心臓はドキドキと爆音を鳴らし始めた。
(つっ、ついに僕とめぐみちゃんが、キッスを!)
心臓の爆音を響かせながら再び彼女の事を見た。そこにはやはり目を閉じて頬を染めているめぐみちゃんが・・・ 
(キスだ!やっぱりキッスなのだ!!ここは、かっ、かっこ良く決めなくては)
そう思った僕は慌てて目を閉じると、重大な事を忘れたまま彼女の可愛い唇に僕の唇を近づけていった・・・。
とその時だった。

「お、おおお~、俺も大好きになったっすー!」
「えっ!?」
「!?」
僕とめぐみちゃんはあわてて目を開いた。
そこにはボロボロに欠けた歯でうれしそうに笑っている金髪の鉄の大きな顔があったのだった。

「うわー!?」
僕は驚きのあまりもんどりうって倒れた。
忘れていた重大な事、それは僕の隣に鉄がいたという最悪の事実だったのだった。
「いやだー!鉄君も、いっ、いたんだよね・・・」
めぐみちゃんは慌てて僕から離れると、顔を真っ赤にして鉄を見た。

「でへへへ~、今、兄貴とめぐみさんチューしようとしたでしょ、ねえ、チューしようとしたでしょ?」
「なっ、何言ってるのよ鉄君、ちっ、違うってば・・・、ただ眠くて目を閉じただけで」
「じゃあ兄貴は?兄貴は、な、何で目閉じてたんっすか?・・・ねえ、ねえ」
「あっ、あのそれは・・・、僕も闘いで疲れて眠かったから、ははは、ほらあの人との闘いで」
そう言いながら僕の横で倒れている西条の方を指差し
「あれ!?」
思わず目を見開いた。見るとそこには、今まで倒れていたはずの西条の姿が消えていたのだ。

「いっ、いない!あの人がいない!?」
僕はあわてて後ろを振り返り青ざめてしまった。
「わっ、いっ、いつの間に!?」
そこには再び木刀を握り締め、恐ろしい顔で僕を見ている悪鬼西条竜一の姿があったのだった。

つづく
最後まで読んでいただきありがとうございました。
このお話はフィクションです。中に登場する人物、団体等はすべて架空のものです。

つづき「吉宗くん日本最強!」はこちらです↓

前のお話はこちら↓

第一話から読んで下さる優しい方はこちら↓

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