侠客鬼瓦興業 第54話「イケメン三波」
「このお兄ちゃん昨日、春菜先生のパンツを覗き見したんだよー!!」
それはユキちゃんの口から発射された恐るべき衝撃の言葉だった。
僕は額に青筋と脂汗をかきながら、隣にいるめぐみちゃんを見た。
「あの、めぐみちゃん・・・!」
「ど、どういうこと・・・、吉宗君・・・」
「え?」
「本当に覗きなんてしたの?」
「あ、いやあの・・・」
「したの?」
「あ、はい」
「なんでー、なんでそんなことを・・・、吉宗君!」
めぐみちゃんは目を血走らせながら僕を見た。
そんな僕達の様子を見て、春菜先生が、
「あの、めぐみさん・・・、今のお話し誤解よ、誤解」
「え?」
「ユキちゃんが今言ったことは、偶然の出来事なの、私が金魚すくいに夢中になってしまって、そのせいで偶然パンツが見えてしまっただけで、ただのハプニングなんですよ・・・、ね、テキヤのお兄さん」
「え?あ、そう、そうです」
(春菜先生、僕のことをかばって・・・)
「ハプニングだったんですか?」
「そう、悪いのはこのお兄さんじゃなくて、無防備に金魚を追いかけちゃった私の方なんです」
「そ、そうだったんだ」
めぐみちゃんはホッとした顔で僕を見た。
「ユキちゃん、変なこと言っちゃだめでしょ」
春菜先生は静かに腰を下ろすと、やさしく諭すようにユキちゃんの頭をなでた。
「ごめんね、吉宗くん」
めぐみちゃんは恥ずかしそうに僕を見つめた。
「いや、ははは」
僕は頭を掻きながらごまかし笑いを浮かべたが、心の中ではエロい心に勝てず春菜先生のパンツをまじまじと覗いてしまった罪悪感でいっぱいだった。
疑いが晴れると、めぐみちゃんは元の明るくてやさしい彼女にもどって、ユキちゃんと春菜先生、ふたりとともに、和気あいあいと話をしていた。
その時、
「春菜先生ー!」
遠くの方で、大きな声が・・・
見ると教室の入り口で一人の若い男の人が、さわやかな笑顔で手をふっていた。
「どうしたんですか春菜先生、中で子供達が待っているのに」
笑顔の男は、不審そうな顔でこっちを見ながら、春菜先生と僕達のもとへ走りよってきた。
「あ、三波先生、すいません」
「あれ、ユキちゃんも一緒だったんだね、この方々は?」
「こちらはユキちゃんの知り合いのめぐみさんです」
「何だ、ユキちゃんの知り合いさんだったんですか、はじめまして、この保育園で保父をやっている三波です」
「あ、はじめまして」
長身にエプロン姿、はやりのロン毛を軽く後ろで束ねた三波という男は、まるで芸能人のようなイケメンの顔に、キラキラ光る白い歯をのぞかせながら、めぐみちゃんと挨拶をかわした。
その直後、イケメン三波先生はめぐみちゃんの隣のダボシャツにパンチパーマ姿の僕を見ると
「春菜先生、こちらは?」
小さく眉をゆがませながら春菜先生に訊ねた。
「あ、この方は昨日お大師さんで子供達がお世話になった、テキヤさんのお兄さんです」
イケメン三波は一瞬おどろいた様子で
「テキヤさん!?」
「はい、とっても心のやさしいテキヤのお兄さんなんですよ」
春菜先生は笑顔で僕を紹介した。
「優しいテキヤのお兄さんですか・・・、はじめまして」
イケメン三波は少し引きつった顔で僕にも挨拶をしてきた。
「こちらこそ、はじめまして」
僕も丁寧に挨拶をかえした。
「ねえ、ねえ、三波先生、めぐみお姉ちゃんと、この金魚すくいのおじちゃん、恋人同士なんだよ」
ユキちゃんが大きな声で、僕とめぐみちゃんを指差した。
「あ、ちょっとユキちゃん」
「へえ、お似合いのカップルだなー、はははは」
イケメン三波はキラキラ光る白い歯で笑いながら
「テキヤさんのお兄さんも美男だし、その彼女のめぐみさんでしたっけ?」
「は、はい」
「うん、すごく綺麗だ」
「え、そ、そんなこと無いです」
「いや、綺麗ですよ」
「そんなこと・・・」
めぐみちゃんは頬をそめてうつむいた。
イケメン三波はそんなめぐみちゃんのことを、じーっと観察するように見つめていた。
(な、何だこの男は!)
まるで品定めをするようにめぐみちゃんを観察しているイケメン三波を、気がつくと、僕は恐ーい顔で睨んでいた。
そんな視線を感じたのか、イケメン三波は、今度は僕に白い歯を見せて、
「あ、ははは、これは彼氏の前で失礼しました」
「・・・・・・」
「あまりにも素敵な彼女だったもので、すいません、それにしてもうらやましいなー、はははは」
「・・・はあ」
僕はぶっきらぼうに返事をかえした。
そんな僕達の様子を静かに見ていたユキちゃんが、ニヤッといやらしい笑顔で
「金魚のおじちゃん」
「え?」
「あのね、三波先生ね、春菜先生が好きなんだよー」
「えー!ちょっと、ユキちゃんったら・・・」
突然の言葉に春菜先生が慌てた。
そんな春菜先生を横目に、イケメン三波は、恥ずかしそうに頭を掻きながら「子供って恐いですね・・・」
そう言いながら、ユキちゃんの頭をそっとなでた。
「ユキちゃん、君の言うとおりだ。先生、春菜先生のこと好きだよ、だけど春菜先生は僕のこと好きじゃないみたいなんだ。ははは」
「ちょっと三波先生!」
春菜先生は恥ずかしそうに、イケメン三波と僕達を見た。
(何なんだ、この三波って男は、調子がよいっていうか、いったい何者なんだ?)
「春菜先生ー、三波先生、何やってんのー、早くー!」
教室から子供達がさけんでいた。
「あ、いけない、教室に戻らないと」
「そうですね、春菜先生」
イケメン三波と春菜先生は待っている子供達を見ると、慌てて僕達に頭をさげた。
「すいません、もう時間なものですから」
「私の方こそお忙しいのに、すいませんでした」
めぐみちゃんも慌てて頭をさげたあと、そっとユキちゃんを見た
「ユキちゃん、それじゃお姉ちゃんまた会いに来るからね、バイバイ」
「うん、バイバイめぐみお姉ちゃん」
「それじゃ、行こうユキちゃん」
春菜先生は再び頭を下げると、ユキちゃんを連れて教室に戻っていった。
「めぐみちゃん、僕達も急いでお弁当届けないと」
「そうだね、急ごう吉宗君」
僕とめぐみちゃんは、慌てて保育園からお大師さまの境内に向かって走りだした。
そんな僕達の後ろ姿をじっと見つめている男が・・・、それはイケメン保父の三波だった。
「・・・ふーん、なるほど」
イケメン三波は、お大師さんに向かって走る、めぐみちゃんの後ろ姿を見ながら静かにつぶやいた。
「三波君、何をやってるんだいそんな所で?」
三波のもとへスーツ姿の中年男が近づいてきた。
「あ、副園長おはようございます」
「おはよう」
副園長と呼ばれる男は、三波の視線の先のめぐみちゃんにに目を向けた。
「また好いのがいた・・・、そう言う顔だな三波君」
「まだ青いんですがね、金になりそうですよ副園長・・・」
「おいおい、その前に、目の前の獲物がいるんだろう、三波」
副園長の言葉に三波はふっとさめた笑顔を見せると
「春菜なら、もう時間の問題ですよ・・・。それよか、自分の心配が先じゃないの?ケツに火がついてんだろ、副園長さん」
三波はスーツ姿の副園長に不気味な笑顔を見せたあと、教室に向かって振り返った。
「さあ、みんなー、体操の時間だよー!」
そう叫びながら走る三波は、一変して元のさわやかな笑顔に変わっていた。
「ちっ、生意気な野郎だ!」
スーツ姿の副園長は苦虫をつぶした顔で、イケメン三波の後ろ姿をじっと見ていたが、やがてペッと園庭に唾を吐きながら振り返った。
沢村研二、振り返ったスーツ姿の副園長・・・、それはお慶さんの婚約者、沢村研二だった。
つづく
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※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^
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