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第10回:石積みとイタリアの田舎の話1 極私的・石積み鑑賞論(真田純子)

人文地理学者の湯澤規子さんと景観工学者の真田純子さんの、「食 × 農 × 景観」をめぐるおいしい往復書簡。ひとたび体験すると、なにはなくともまず鑑賞したくなるという、石積み。ではその時の真田流着眼点とは?


積んだ帰りは脇見運転したくなる!?

急に寒くなってきましたね。明日は土木学会の110周年記念式典で、湯澤さんの記念講演がありますね(※1)。とても楽しみにしています。基調講演を聞いてしまうと、お手紙の返事ではなく、講演の感想を書いてしまいそうだったので急いで前日に返事をかき上げました。

(※1)2024年11月19日に開催された土木学会110周年記念式典では、真田さんが湯澤さんの講演を企画。「胃袋と土木の関係史―産業革命期の景観変化」の題で記念講演が行われた。

石積みに興味を持っていただいてありがとうございます。石積みに海藻を挟むというのは、私もこの夏にちょうど写真を見せてもらったところでした。おそらく、南フランスの先生に会ったときだったと思うのですが、こんなのがあるんだ、と思ったまま、そのときは流してしまっていて記憶もあいまいなのが残念です。湯澤さんから同じ情報を聞いて、海藻を挟む理由もちゃんと聞いておけばよかったと思っています。

石積みを「しゃがむ」目線から見ると色々見えてくるというのは、なるほどと思いました。石積みをやっていると、自然と石積みに目が行くので、しゃがまなくても石積みを見てしまうのですが、しゃがめば確かに、普段は見過ごしている石積みが主役になって見えてきます。

石積み学校の様子

ちなみに、石積みをやると石積みばかりを見てしまうというのは、だいたいみんなそうみたいで、一度石積み学校に参加すると各地の石積みが気になって仕方なくなるとよく言われます。山梨で石積み学校を開催するときに一緒にやっている人は、いつも終わりの挨拶で「石積みが気になっても脇見運転をしないように」と、半分冗談で注意しているくらいです。

私だったらこう見る! 石積み鑑賞法

ここで、私の石積みの見方を少し紹介してみます。まずは、全体を見て石の加工具合、大きさなどから、どんな人が積んだのかなと考えます。農家が自分の手で積んだのか、職人が積んだのかなどです。つぎに、かみ合わせをみて、上手いなぁとか、私だったらこの石はこう置くな、などと考えます。上手い石積みは本当に惚れ惚れします。私が好きなのは長い石が斜めにズドンと入っている石積みなのですが、長い石を斜めに置こうとすると、それが置ける斜めの場所をつくる必要があります。当然それは、その石より小さい複数の石でつくるのですが、それぞれの石も、正しく積みながら、斜めの場所を用意する必要があるわけです。これはなかなか技術が必要なので、そういうのがあると、すごいなぁと感心しながら愛でています。

あとは、崩れかけている石積みを見て、どの石が悪かったのかなと分析的に見たりもします。大きくはらんでいるような石積みは、だいたい悪い理由があるもので、そういうのから学ぶことも多いです。そのほか、裏のグリ石(※2)がどれくらいはいっているのかなと、表面の石の隙間を覗くこともあります。これなんかは傍から見るとかなり怪しい人かもしれません。
(※2)積み石の後ろに入れる小さめの石のこと。石積みの傾きの調整や積み石を固定したり、土の水はけ(排水)をよくしたりする役割がある

湯澤さんもいつか石積み体験をしてみてください。石積み鑑賞がもっと面白くなると思います。


プロフィール

◆真田純子(さなだ・じゅんこ)
1974年広島県生まれ。東京科学大学環境・社会理工学院教授。専門は都市計画史、農村景観、石積み。石積み技術をもつ人・習いたい人・直してほしい田畑を持つ人のマッチングを目指して、2013年に「石積み学校」を立ち上げ、2020年に一般社団法人化。同法人代表理事。著書に『都市の緑はどうあるべきか』(技報堂出版)、『誰でもできる石積み入門』(農文協)、『風景をつくるごはん』(農文協)など。



『図解 誰でもできる石積み入門』
真田純子 著
定価 2,970円 (税込)
判型/頁数 B5  120ページ
ISBNコード 978-4540171826
購入はこちら https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54017182/

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