三栗家のスゴイ自給3選|編集こぼれ話①
農文協で「現代農業WEB」というWebメディアを担当している林です。
2024年7月、農文協から『北の国から 家族4人で幸せ自給生活』という本が発売されました。
著者は一家で北海道の山の中に移り住んで自給生活を始めた三栗祐己さん・沙恵さん。住まいや電気(太陽光発電)、水道などを自分たちでつくりながら、働きすぎず、穏やかに、豊かに暮らしている三栗さん一家のお話です。
じつはこの本、農文協では初の「web連載がもとになってできた本」なのです。
ここではその制作の裏話やイチオシの内容などをご紹介します。
「現代農業WEB」で三栗さん一家のオリジナル連載スタート
前述のとおり、この本はおもに「現代農業WEB」というwebメディアで連載した記事をもとに、一部新たに書き下ろしを加えてつくられました。
その『現代農業』とは?『現代農業』とは、月刊誌で、創刊100年を迎える「農家がつくる農家のため雑誌」。さらに、「現代農業WEB」とは、農家だけではなく、実際に農業はやっていないけれど興味がある人々にも広く『現代農業』を知ってもらいたいという思いで2020年12月に立ち上げたwebメディアです。
私はwebメディア担当になる前は、10年ほど書籍(農業・園芸書)の編集者として、例えば、ネギやトウガラシ類、切り花の栽培、ミツバチの本などをつくってきました。ですから、web上で記事を編集・制作しながら連載するのは初めて。web記事特有のタイトルの付け方や段落の表し方などに四苦八苦しながらwebメディアの編集を覚えました。「現代農業WEB」もようやく軌道にのってきた2023年6月、「現代農業WEBでもオリジナルの連載をはじめようじゃないか!」と一念発起して取り掛かったのが、この連載「北の国から 家族4人で幸せ自給生活」でした。
三栗さんはwebで連載をはじめる前に、本誌の『現代農業』で、「北の国から、幸せ自給生活」と題し、2021年4月から1年間(全10回)連載をしていました。webではその好評連載を引き継ぐかたちで、2023年の6月から、当時誌面に載せきれなかった要素も盛り込んで、毎月1~2本ずつアップしています。
私が選んだ三栗家のスゴイ自給3選
この連載の編集中、私は三栗家と一緒に生活をしているかのような気分になりました。「この状況自分だったらどうする。この危機、どう乗り越える?」などと想像しながら……。三栗家の自給の取り組みの数々は、私の想像の斜め上をいくものがいくつもありました。それではそのうちの3つほどをご紹介します。
その1 寒さ対策 雪断熱&人間電気ヒーター
三栗家は3つのプレハブが合体してできているのですが、そのうちの1つは断熱施工がされておらず、本編では様々な寒さ対策が登場します。
その対策の一つになんと暖房機?としての人間が出てきます。三栗さんによれば、「人間というのは、生きているだけで熱を発生しています。その熱は、一人あたり100W(ワット)程度といわれています。例えば、僕の家族は4人ですから、テントの中に4人いると、単純に計算して400W程度の熱源になります。小さな電気ヒーター1台分程度の消費電力に匹敵するということです。ですから、小さなテントの中では、わりと暖かく過ごせます」とのこと。いわば人間ヒーターですね。
それから、雪による断熱、秘策「雪断熱」も登場します。降雪がある期間は家の壁に雪を積み上げていくのです。そのようす(写真)は迫力満点です。
その2 トイレとお風呂を手作りする
最も印象に残っているのは、トイレとお風呂を手作りするコーナーです。手作りと言っても、野営のように「地面に穴を掘ってトイレとしたり、ドラム缶で風呂の湯を沸かしたり」するわけではなく、中古のごく一般的な便器や浴槽を入手し、プレハブ内に設置していきます。ただし、失敗すれば家中が水浸しになってしまいます。便器と下水管との接続や、浴室の床の傾斜付け作業など、それはそれは慎重に作業が行なわれました。便器の下の穴や、床に穴を開けてバスタブをはめ込むシーンなどは、普段滅多にお目にかかれませんよね。
その3 イナワラがなくてもつくれる「野草納豆」
最後に紹介するのは「野草納豆」です。食に関する章は三栗さんの奥さんの沙恵さんが執筆を担当しています。
手作り納豆といえば、材料に「イナワラ」は必須と思ってましたが、三栗家ではその代わりに自宅のまわりでとれるクマザサやレモングラス、シソなどの葉を使います。使う葉の種類によって納豆の香りが変わり、それが面白いんだとか。これはいつかチャレンジしてみたい!
自給生活をやってみたい方もそうでない方も、まずは本書で疑似体験からはじめてみてはいかがでしょうか。
次回は書籍の担当をした編集者が、著者の生き方や人となりなどを紹介します。