ストーリー02 仲間のミスをカバーするアツオさん
アツオさんは、働き盛りの会社員です。働き盛りといえば聞こえはいいですが、毎日の仕事量は半端ではなく、定時に退社することはありません。上司の無言の圧力もあります。部下たちが持ち込んでくる難題は、多くの時間を奪っていきます。要領よく仕事を片付けるタイプではないので、いつもあせって仕事を終わらせようとしています。
アツオさんの実感で言うと、この世は競争社会です。優れた人、強い人は優位になり、劣った人、弱い人は従う立場に追いやられます。誰もが人に負けないようにがんばっています。人の弱みにつけこんだり、相手を利用したり、足を引っ張ったりすることがまかり通っています。そうでもしなければ自分が不利になる、という言い訳を聞くこともよくあります。同年代の仲間の仕事ぶりが気になります。
ある日、アツオさんと同じプロジェクトを担当している仲間がミスをしてしまいました。取引先に渡す書類のデータ一式を、ファイル操作を誤って消してしまったのです。バックアップを探してもどこにも見当たりません。早急に作り直さなければいけません。アツオさんの責任ではありません。がんばれよ、と傍観することもできました。何をやっているんだ、と文句を言うこともできたでしょう。でも、ほうっておくことはしませんでした。競争相手ではなく仲間だと考えたからです。
そこから二人で一生懸命に作業を始めました。見るに見かねた同じ課の仲間たちも手伝ってくれました。そのおかげで、どうにか間に合って書類を仕上げることができました。やれやれというみんなの顔はどことなくうれしそうで、満足げでした。
アツオさんは、あいかわらず競争の厳しい職場で仕事を続けています。ミスが許されない緊張感が漂っています。でも、あの日以来、ここで仕事をしているみんなは仲間だ、と心の中で繰り返し言い聞かせています。何かあれば助け合う仲間、それはどんなに心強いことでしょう。アツオさんにとって大きな励みになっています。