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教育のリフレクションのポイント(1)

オランダのフレット・コルトハーヘン氏の『教師教育学』(学文社)を監訳した武田信子です。

コルトハーヘン氏のリフレクションについては、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。授業には、リフレクションが必要だということは、今では当然のように言われていますね。ここでは、生徒にさせるリフレクションではなく、授業者自身のリフレクションについて、説明します。

授業の振り返り(ミクロレベルのリフレクション)の視点は、一度身につけておくと、ふと、あれ?うまく行っていない、とおもったときに意識するだけで、状況が変化します。きっと授業が変わります。

また、自分が取り組んでいる教育のあり方そのものの振り返り(メゾ【学校】レベル、マクロ【国家やさまざまな社会】レベルのリフレクション)は、教員になる前、あるいはなったら早期にやってみるといいでしょう。
私たちは、自分が受けてきた教育を標準に教育を捉えがちですが、
実は教育にはいろいろな形があって、
世界の子どもたちはいろいろ異なる方法で育っています。

  (ミクロ、メゾ、マクロレベルのリフレクションの解説は「教師のため 
   のリフレクション・ワークブック」(学事出版)をご参照ください)

たとえば、同じ教育という言葉でも、じつは世界的にはいろいろあって、
 教育
    ① 教えること(教授すること)エデュケーション
 ② 「教師がどう教えるか」と「生徒がどう学ぶか」の両方 ペダゴジー
    ③ 人が自分の人生を作り上げていくこと
         (ドイツのビルドゥングやデンマークのダンネルセなど、ヨーロッパ
    で使わ れる言葉)
など、いろいろな捉え方があるのです。

日本では、「教育」と何気なく口にするときに、①の意味で使うことが多いと思います。最近は②が大事だと言われ始めました。上記3つのどの意味で使うかによって、振り返り方が異なってくると思いませんか。

たとえば、授業の振り返り、ということで考えてみると、
「教師が教えたつもりなのに、教わる側は学んでいない」
ということがよくあります。
この理由をさまざまに考えてみると・・・

 生徒の学力が低い。
 教師の教え方が下手。
 教室が暑すぎた。
 生徒が失恋して授業に身が入らない。
 生徒が、学習教材に対して意欲がない。
 教えようとしている内容が、生徒の今に即していない。

など、いろいろ考えられますよね。
教師の立場で、生徒は「学ばなければならない」と思い込んでいると、
振り返りの幅が狭くなってしまいますが、
実際に生徒の立場に立ってみると、見える景色が変わってきます。

皆さん、自分の思い込みで状況を解釈していませんか?
きちんとリフレクションをしないと、
独りよがりの授業を続けることになりかねません。
   
では、
自分の授業や教育をどうやって振り返ればいいのでしょうか?

授業の振り返りの方法のひとつである「ALACTモデル」が、
『教師教育学』(学文社)に紹介されています。

この本は教育関係者を中心にロングセラーになってよく読まれています。
オランダでは、先生方がこの方法を研修で練習するたと聞いていますが、
日本で、日常的な授業の振り返りに、ALACTモデルを取り入れている先生や学校はあまりないのではないかと思います。そもそも時間がないですよね。

慣れれば、いつの間にか考えていたり、取り組んでいたりして、
とても効果的なのですけれど、習慣化するまでには少し工夫が必要です。
一人でできるのですが、最初は誰かとやってみた方がよくて、
一緒に振り返りを行う相手にちょっとしたファシリテーション技術が必要だったりするので、理論は勉強したけれど、その効果までは実感していないという人も少なくないかもしれません。

さらに、今は、いろいろなリフレクションの技法も出てきたりして、
コルトハーヘン氏のリフレクション(チクセントミハイのいう
「ハッとするようなフロー体験」ができるリフレクション
の考え方が薄められてしまったように思います。

監訳のあとしばらくは、私もワークショップや勉強会をしたのですが、
今は学校教育や教員養成から少し離れてしまっているので、
リフレクションに関してほとんど皆さんにお伝えする時間を取っていません。でも、誰にでも日頃からとても役に立つので、
お伝えしたいのに!!と、思います。

そこで、紙上になりますが、
こちらの noteで、さまざまなリフレクションの視点と方法について、
連載していこうと思います。

その際、コルトハーヘン氏のALACTモデルによるリフレクションは、
実際にやってみてフロー体験を持たないとわからないところがあるので、
いつかまた、ワークショップなどでお伝えするとして、
今回、紙上でお伝えするのは、授業のリフレクションも含めて、
「自分自身の実践している『教育』を振り返るリフレクション」です。

『教員のためのリフレクション・ワークブック』(学事出版)をお持ちの方は、横に置いて読んでいただくといいでしょう。
リフレクションにあたってのいろいろな注意事項は、すでにそこに書いてしまったので、ここで改めては書きません。でも、入手できない(もう絶版なので)方でも、このブログを読んでいると、いつの間にかだんだんと考え方が理解できてくると思います。

つまり、このブログは、
    あなたの教育観が変わる「読む漢方薬」を目指しているのです。

さて、教員の専門職としての能力の要素の一つ一つは、コンピテンシーと呼ばれます。
コンピテンシーというのは、
よく誤解されるのですが、
普通の人の能力(アビリティとかキャパシティとか)ではなくて、
「専門性の高い人が持つ専門的能力」のことです。

教員としての専門的能力(コンピテンシーズ)は
大きく7つに分けられます。


1.自ら成長しようとする力
2.生徒や学校で出会うさまざまな人に関わり合う対人関係の力
3.教育する者としての基本的な力
4.授業者として学びの場を作る力
5.学級や学校を組織する力
6.(管理職を含む)同僚や仲間と一緒に協働する力
7.学校を取り巻く人々(保護者や地域の人たちやボランティアの皆さんや 業者さんなど)と協働する力

私たちは、文部科学省の科研費研究で、オランダやカナダの教員のコンピテンシーリストを参考にして、日本の文脈にあてはめて分解して、56にリスト化しました
このリストは、できているかどうかのチェックリスト、ではなくて、
自分の教育を振り返るときの「さまざまな視点」のリストです。
リストを読んで、知って、考えてみるためのリストです。

これから、このブログで、
「教員が自分の教育を振り返るポイント」を一項目ずつ解説していきます。
ポイントが56個もあるので、時間がかかってしまうかもしれませんが・・・
基本の基なので、一つでも二つでも、お役に立つと思います。

以前、大学3年生たちとゼミで毎週この項目の検討会をしていたら、
3カ月で授業を見る目がついてしまって、
現場に授業見学に行くと、何が課題か見えてしまうようになりました。
その位の効果を期待していただいていいと思います。

では、始めます。一回のブログで一項目です。

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1.教師として自ら成長しようとする力

教員は、理論と事実に基づいて自分の実践についてのリフレクションを行い、教員としての専門性を高めて成長し続けます。

01 教員の専門性とは何かについて、常に探究している

教育に関する新しい知見は次々と出てきます。
文科省のウェブサイト、専門書や報告書、ネット上の情報が自然に目に入ってくるような工夫をして、必要なものを読んで、それらを実践に活用しているでしょうか。

また、子どもたちを取り巻く文化や環境はどんどんと変わっていきます。
今の子どもたちについて、どれほど情報を得ているでしょうか。
たとえば、当事者である生徒たちの声を聴いていますか。
あなたの授業や教員としてのふるまいについて、生徒たちは何と言っているでしょうか。
海外では、生徒や同僚が教員評価して、それをもとに教員が自己評価と一致しない項目を中心に改善に取り組むという実践事例もあります。

生徒たちが好む音楽、動画、マンガやSNS上のコンテンツ、ゲームなどに関心を持っていますか。あるいは、古くからの理論でまだ学んでいないものもたくさんあるでしょう。

生徒たちに読書をすすめる立場の教員が、情報収集に努めていないというのは、言行一致していません。そのことに気づいているでしょうか。

また、教師教育者もまた、自分の実践についてのリフレクションをしているでしょうか。教える内容や方法に意識が行き過ぎると、「うまく教えよう」ということが先に立って、「相手がどう学んでいるか」について、自分が学ぶことを忘れがちです。

教えることと学ぶこと、そのプロセスを通して自分が成長発達すること。
生徒も教員も教師教育者もすべきことは同じです。
私もこの文章を書きながら、リフレクションしたいと思います。
よろしくお願いいたします。

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