認知と情動が、実践のあり方を決める。
対人援助職の養成には、違う専門職であっても、多くの共通点があります。
現在、私は2冊の本の翻訳に取り組んでおり、
1冊は、教員のセルフスタディのテキストです。実践と理論の往還を可能にする具体的技術が書かれています。もう1冊は、上級レベルのSW養成のテキストです。やはり実践と理論の統合を図るものです。
今日は、後者のSW養成のテキスト(最先端の養成をリードしてきた故マリオン・ボーゴ教授(トロント大学大学院)の著作)から、
教師教育に応用できる部分の中の、ごく一部を抄訳して紹介します(抄訳の文責は私にあります)。
SWを、教師あるいは教師教育者等に読み替えて読んでいただければと思います。
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近年まで、SWの能力は、実践の状況に知識や価値観、技術を適用する能力であると考えられてきた(Hodges and Lingard 2012)。
だが、専門職の能力観を調査した研究の結果、
この能力観では、SWが自ら実践にどのように関与するかを見落としてしまうことが明らかになった。
SWがどのように知識、価値観、技術を活用するかは、
実践において、SWの
認知と情動が、直面する体験の解釈や反応にどのように影響するか
に依拠している。
(訳注:問題は、
知識や価値観や技術を単に保持することではなく、
理論から実践への応用力をつけることだけでもなく、
「実践者が目の前で起きていることをどう認知し、感情的な面も含めてどう受け止めるかということ」
である、と言っている)
私たちはこの次元をメタコンピテンスと呼んできた。
メタコンピテンスとは、
「概念的、対人的、個人的かつ専門的な性格を持つ高次な資質と能力を指す概念であり、学習者の認知能力、クリティカルである能力、自己を省察する能力を包含した能力」(Bogo et al 2013、216)である。
メタコンピテンスは、2つに分かれる。
1つは、自己統制を含む情動の次元で、
その土台に
リフレクションの能力、感情、感情が実践に及ぼす影響についての自己覚知がある。
もう1つは、認知の次元で、
個人の信念、クリティカルな思考、意思決定から生じる判断を指す。
情動的プロセスと認知的プロセスは反復的に相互に関連しながら作用する。
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ボーゴ氏らは、認知と情動、ここに踏み込まなくては、真の専門職養成はできない、と言っているのである。そして、具体的なトレーニング方法を生み出して、北米での展開を始めたところだった。
私は、
教師教育の第一人者と言って過言ではないフレット・コルトハーヘン氏と
ソーシャルワーカー教育の第一人者であるマリオン・ボーゴ氏を
おつなぎしたかった。
しかし、なぜ、私が大きく離れた学問分野である
教師教育とソーシャルワーカー養成のお二人をつなぎたいと思うかを、
オランダやカナダの文化や文脈を超えて説明しておつなぎすることは、
日本語でさえ難しいことで、とうとうできなかった。
ボーゴ氏は昨年、急に亡くなられてしまったのである。
コルトハーヘン氏には、「ソーシャルワークのエコロジカルシステムに基づく教師教育のリフレクション」という私の考え方を説明し、
「それはいい。ぜひ共同研究しよう」と言っていただいたのだけれど、
残念ながら私にはそれができなかった。
だから、せめて、日本という中間地点で、
お二人の本を翻訳することで、お二人の思考をつないでいきたい。
一冊は既刊の『教師教育学』(学文社)
そして、翻訳中の『Social Work Practice』(明石書店 準備中)。
さらに、ほぼ翻訳の終わった『セルフスタディ入門(邦題未定)』(アナスタシア・サマラス著 学文社)が、それらをつなぐ役割を果たしてくれるだろう。
この3冊が揃うことで、理論と実践の往還をそれぞれの分野で発展させ、
リフレクションの具体的手法をそれぞれの分野で違う形で確立させた
偉大な先人の業績をつなぐ作業の第一歩が踏み出せる。
ボーゴ氏による、「模擬面接によって学生の実力を測り、リフレクションを促していく手法」は、ソーシャルワークにおいても、日本ではまだまだとても使えるほどに現実が追い付いておらず、せっかくのトロント大学滞在の機会を十分に生かすことができなかったが、この本から。いつか教師教育への導入を目指す人が出ることを願っている。
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