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ここに素敵なものがある

作者リチャードブローティガンは、芭蕉や一茶を読む人だったそうだ。
この詩集の中の作品は短いものばかりである。


例えばこんな詩

気づくことは何かを失うことだ
気づくとは何かを失うことだ。
ぼくは考える、おそらく死者を悼むときでさえも、
このことに気づくために失ったものについて。

アリゾナ州トゥーソンの蛾
友人がアリゾナ州トゥーソンからぼくに
電話をかけてくる。彼は不幸せなのだ。
彼はサンフランシスコのだれかと
  話がしたいのだ。
ぼくらはしばらくえしゃべりをする。彼は
部屋に蛾が一匹いるという話をする。
彼がいうには「陰気な奴さ」。

ぼくらは出会う。僕らはいろいろやってみる。何にも起こらない、
  だけど

ぼくらは出会う。僕らはいろいろやってみる。何にも起こらない、
  だけど
それ以来、ぼくらは会うといつもたがいに
ばつのわるい思いをする。ぼくらは視線をそらすのだ。

「ここに素敵なものがある」


「ばつのわるい思い」なんて、ずいぶん久しぶりに聞いた。
まるで「赤毛のアン」のマシューのようなシャイな人物のようだ。


表題の作品は

ここに素敵なものがある
ここに素敵なものがある。
きみがほしがるようなものはぼくには
  ほとんど残っていない。
それは君の掌(て)のなかで初めて色づく。
それはきみがふれることで初めて形となる。


NHK「理想的本箱」でも紹介された。
訳者の詩人中上哲夫さんの講演を、この前聞いたのだった。




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nobuko fj
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