社会学(1):経営リーダーのための
今回も最近、読んだ本の中から現代社会について、経営について、考えさせられる内容だったので、読後録としてまとめてみたいと思います。
また、著者は日本ではユニークな社会人MBAコースを運営されている方なので、経営リーダーのリベラル教育についても触れてみたいと思います。
経営リーダーのための社会システム論
今回、紹介するのは大学院大学 至善館学長の野田智義さんと東京都立大学教授で社会学者の宮台真司さんの共著「経営リーダーのための社会システム論」です。
この書籍で二人の著者が社会人学生に問うていた社会学上のビックイシューは以下のとおりです。
その後、書籍では講義に沿う形で、学生たちに「あなたにとっての良い社会」とは何か、講師からの提言(処方箋)として「共同体自治の確立」について書かれていますので、興味のある方はぜひ読んでみて下さい。
郊外化の社会学的問題
本書では、郊外化の影響として「地域の空洞化」「家族の空洞化」「人間関係の空洞化」へと三段階に進化(劣化)しているとしています。
私自身も高校生くらいから首都圏郊外に住んでいるのですが、郊外化の問題に気づかされたのは、消費社会研究家でもある三浦展氏の1999年の新書『「家族」と「幸福」の戦後史 郊外の夢と現実』でした。(いまは絶版)
その後も三浦氏は郊外や下流社会に関する数々の書籍を出されているので現代日本の社会を考える上で参考になる著者の一人かと思います。
この本では 高度成長期にマイホーム神話とともに、大量されたのは
「核)家族」という装置。しかも消費欲望を喚起する装置だと論じています。そして、当時から郊外では特殊な少年犯罪が多くなっていると、郊外化の影響、人のつながりの空洞化について指摘していました。
マーケティング担当者だけでなく、人事責任者や経営者にとっても、日本社会の構造的な変化については深く理解しておくことは、参考になるかと思います。
経営リーダーのリベラル教育
さて、ビジネスリーダー向けの教育、一般にはエグゼクティブMBAと称されていますが、その中では経営戦略など体系だった経営ロジックとともに、リベラルアーツ(教養)課程を含むものが多くあります。
企業が社会的な公器として、単純に売上や利益を追求するのではなく、
CSRやSDGsと社会的責任を求められるようになり、ビジネスリーダーにもより深みのある世界観がさらに必要となっているのがその背景かと考えています。
人事の世界では有名な慶応大学 高橋俊介教授が、ビジネスリーダーが学ぶべき「6つの世界観」をBBT大学院のコラムで紹介していました。
①グローバル観 ②日本観 ③組織観 ④人間観 ⑤社会観 ⑥経営観
今回の「経営リーダーのための社会システム論」は⑤の社会観にあたり、
ビジネスリーダーとして「社会をつくる人間関係を理解する」ことにつながっています。
私が人事部にいた10数年前に、幹部社員に対するこういったエグゼクティブMBAコースについて、海外を含めていろいろ検討したことがあります。(売り込みもありました (*^^)
野田智義さんのコースは当時はISLが主催していて、当初から全人格的なリーダーシップ教育を目標とされていました。
神戸大学 金井壽宏教授と書かれた「リーダーシップの旅」はベストセラーにもなったのでご存じの方もいらっしゃるかもしれません。
2018年に設立された至善館の詳細は存じ上げないのですが、受講者の感想を読むと社会人にとってかなりタフなコースのようですが、それだけに学ぶことも多いコース内容のようです。
こうしたリベラルアーツを含んだMBAコース・エグゼクティブ向けセミナーは、米国のアスペン研究所が源流かと思いますが、日本にもその支部があり、こちらは東洋・西洋の古典を1週間かけて、じっくり学び考えるコースになっているようです。
比較的最近では、 多摩大学および一橋大学 名誉教授の中谷巌さんが主催する不識塾があります。
そして、極めつけは東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム:東大EMPです。マネジメント知識のプログラムもありますが、大半は東大の第一線の教授・研究者が講義する「知識・智慧」プログラム=リベラルアーツにあるようです。(受講費もそれなりのお値段です)
これらビジネスリーダー向けのリベラルアーツ教育の背景には米国における戦略・ファイナンス重視のMBA教育に対する反省があったからかもしれません。
ハートを持ったマネジメント
ここまでいくつか国内のコースを紹介してきて、私の経験をお話するのは少し気が引けるのですが、10数年前、当時の会社・人事部が最終的に選択したのは3か月程度の海外EXE-MBAコースに事業部長・部長層を選抜して送り込むというものでした。
国内のこうしたコースもいくつか検討したのですが、当時は会社が急速にグローバル化を進めていて、その中で喫緊の課題となったのは買収した海外企業のガバナンスやシナジーをこれからの日本人幹部や候補生は将来、しっかりマネジメント・創出できるのか?ということでした。
同様の事例・悩みを抱えていたいくつかの日本の有力企業の経営企画部や人事部にヒアリングした際に、異口同音に言われたのは
「英語も重要だが、それ以上に重要なのはロジカルな戦略思考を日本人幹部が持っていないと、通訳がいても海外企業の経営陣とは話が通じない」
という現実でした。
いわゆる、根回し、場の雰囲気、忖度といった日本組織にありがちなコミュニケーションスタイルではグローバル経営はできないという当たり前の話でした。
それゆえに、人事部としては幹部候補にはリベラルアーツよりも、戦略論と英語を同時に学べる(さわりだけでも知ることができる)海外のエグゼクティブコースを選択することになりました。
いまの若手優秀層は英語も堪能な人が多く、戦略ロジックも研修だけでなく、本やネットでも勉強され、実践されている方も多いので、
これからはハートの部分、リベラルアーツに根差したパーパスや志をもった経営リーダーを育てていくことに日本企業もシフトしていけるかもしれません。
「MBAは会社を滅ぼす」vs「いい人マネジメントでも会社を滅ぼす」から
いまは、「ロジックとハートを合わせ持ったマネジメント」が必要とされるようになっているということなんでしょう。