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読書論(4):性善説人間観
Humankind:希望の歴史
最近、読んだ中で「Humankind 希望の歴史」は「文明の崩壊」「サピエンス全史」に続く、現代人の必読書だと思いました。
日本語版向けインタビューではシンプルに
「ほとんどの人間の本質は善である」
「協力しあうことは、人間の遺伝的性質」
「シニカルな人間観から希望に満ちたポジティブな人間観へ」
と著者自ら語っていますが、そのために費やしたインタビューや世界中での調査・分析は非常に深く多岐にわたっています。
本書では、過去に性悪説の根拠となっていた心理実験や歴史書の虚構や真実を次々に暴いていきます。
・スタンフォード大の囚人実験(普通の人間は邪悪になれる)
・ミルグラムの電気ショック実験(アイヒマン実験)
・イースター島絶滅は人間のエゴ説(ジャレド・ダイアモンド)などなど
そしては著者は
「人間は本質的に利己的で攻撃的で、すぐパニックを起こす」
「人間の道徳性は、薄いベニヤ板のようなものであり、
少々の衝撃で容易に破れる」
という「ベニヤ説」を徹底的に否定していきます。
戦時においても、敵(人間)に向かって実際に銃器の引き金を引ける兵士はほとんどいなかったという歴史的事実にも驚かされます。
本書の後半では、教育における「ピグマリオン効果(期待)」と「ゴーレム効果(無関心)」についても触れられています。
近年の組織開発やコーチング理論で語られる「人は褒められると、自ら成長し・モチベーションを維持できる」というのは人類が持って生まれた共通の性質なのでしょう。
また、この書籍は本当に多くの著名人が推薦図書として上げています。
本の帯にある「サピエンス全史」で有名なユヴェル・ノア・ハラリ、「人新世の資本論」の斎藤幸平氏、勝間和代さんのブログでは「ここ数年で一番衝撃的だった本」として取り上げられています。
上下巻の分厚い本ですが、各章ごとに過去の歴史や実験の反証がドキュメンタリー風に書かれ、サスペンス・ドラマのようで読む者を飽きさせません。「サピエンス全史」「文明崩壊」と同様、またはそれ以上に読み耽てしまうこと間違いなしです。
タテ社会の日本
「希望の歴史」の中で、本来「利他的」である人間がなぜ、他社に攻撃的になるかといえば、それは相手を知らないからだと結論づけています。
南アフリカのアパルトヘイトにおいても、アフリカーナー(白人移民)たちは黒人たちと普通にコミュニケーションを取ることを恐れていたのが隔離政策が長引いた原因でもあり、逆にある双子の兄弟(神父と軍人)の話し合いがマンデラ政権誕生のカギであったことが書かれていました。
「希望の歴史」のこの話を読んで、ふと思いだしたのが、昔読んだ「タテ社会の人間関係」です。
著者の中根千枝さんは日本においては、村社会(先輩・後輩のタテの関係)を重視するあまり、村の外に対しては常に警戒心を持ち、時には攻撃的になることも。そして、村民は村(所属組織/場)から出されることを何よりも恐れながら、内輪の和を保っていると日本社会の本質を看破しました。
中根さんは惜しくも昨年10月にお亡くなりになりましたが、2019年に新刊「タテ社会と現代日本」を出されています。(実に旧作の初版から52年)
新刊では現代日本社会に潜む課題、「会社組織、転職、女性活躍、貧困問題、孤独死」など、「タテ社会」をキーワードに多岐にわたって論じていました。こちらも併せてお勧めしておきます。