経営戦略総論(9):再興 THE KAISHA(2)
前回に続いて、ウリケ・シューデ教授の「再興 THE KAISHA」について
章ごとに関連する話や書籍を紹介していきます。
第4章 〈新・日本企業の戦略〉集合ニッチ戦略
本書の中核をなすのは日本企業への処方箋「集合ニッチ戦略」です。
製造業の利益の「スマイルカーブ」を考えれば、日本企業は川上(設計・部品・材料)にシフトし、開発・製造・販売まで垂直統合(ケイレツ化)されたビジネスモデルから「ジャパン・インサイド」に移行する必要がある。
そのためには、自らのディーブテクノロジーをさらに発展させ、(1)戦略的リポジショニング と(2)企業の刷新が必要不可欠だと提言しています。
また、本章では「パナソニック」と「ソニー」の事例を上げて、日本企業の変革において、事業を切る難しさ、ゆっくり調整することの功罪についても冷静に分析されています。
川上へのシフトと聞くと、以前、Noteで紹介した「中堅企業の成長戦略」
「グローバルニッチトップ(GNT)100選」「知られざるガリバー」に通じる話、中堅企業以下の話なのでは?と思われるかもしれません。
しかし、シューデ教授は日経ビジネス誌のインタビュー記事において、ニッチ企業戦略との違いについて、以下のように述べられています。
つまり、大手企業も含めて、日本企業は他社を寄せ付けない高度な技術力・製品開発力により、世界を相手にする強力な(かつ必要不可欠な)サプライヤーに成りうると述べているのです。
そして、経済産業省及び関連団体の調査結果として、2017年時点で世界で50%以上のシェアを持っている製品分野は478のハイテク製品市場に拡がっていることを引用し、この戦略は特定の個別ニッチ企業の話ではなく、日本企業・産業界が「集合(アグリゲート)」して、世界のハイテク製品市場をしっかりと支えていると分析しています。
第5章 〈インパクト〉グローバル・ビジネスにおける日本の影響力
つぎに日本企業が集合ニッチ戦略を実行してきたことで、現在でもグローバル・サプライチェーンとアジアの中心的存在になっていることを述べています。
日本の影響力を米国、韓国、中国、東南アジアと順を追って解説し、後半では世界からみた「日本への憧れ:ポップカルチャーと消費者向け商品」と題して、ミレニアム世代への影響力は以前として根強いと述べています。
この認識は私自身がASEAN各国を回って、実際に感じたことと共通しています。
第6章 〈マネジメントの変革〉ガバナンス、スチュワードシップ、役員報酬
この章では、日本企業におけるコーポレートガバナンスに対する考え方の推移について書かれています。
これまでの銀行等との株式持ち合いから機関投資家・海外勢の保有比率が過半になっていること、経済産業省から2014年に出された「伊藤レポート」がROE8%を掲げ、日本企業を売上重視から利益志向に変えさせたこと、
それに続く、取締役会改革や役員報酬の問題について記述しています。
これら一連の変革において、「タイトな文化」を持つ日本では成文化した規制よりも、省庁のガイドラインや経団連等業界団体の意見書など「ソフト・ローとナッジ」により、各企業が守らないと何となく恥ずかしい「シェイミング」の方が有効に効くのではないか?と指摘しています。
第7章 〈ファイナンス市場〉プライベート・エクイティとM&A
第7章では、2000年代に入り、日本の大手企業の事業再編・M&Aが加速している事実とともに、PE(プライベート・エクイティ)ファンドの役割・独特な姿勢について書かれています。
冒頭、日立製作所の好事例が示されたのち、後半ではPEと事業再編に苦しむ東芝のドラマが対比するかのように掲載されているのが印象的です。
大手企業の事業部門を投資家に売却する(カーブアウト)際に重要な役割を果たすのがPEファンドですが、日本では長らく海外PEファンドに対して「ハゲタカ」のイメージが強く、積極的な活用が進んでいませんでした。
その後、海外PEファンドも邦銀出身者が日本法人のトップになり、数多くの国内PEファンドが設立されたことで、日本流PEファンドの活用、友好的M&Aが増えてきたことを解説しています。
その代表例として、中神康議さん率いるみさき投資が上げれられていますので、ぜひ、彼の著書で新しい形のPEファンドについて知っておくのも良いでしょう。
日本流PEファンドは「ハゲタカ」にならずに、「礼儀正しく思いやりのある建設的な投資が経済合理性を持ちうる」と賞しています。