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「スタートアップ投資のセオリー米国のベンチャー・キャピタリストは何を見ているのか」を読んで~投資家目線を事業と支援に活かすヒント

【今日のポイント】

 先日、『スタートアップ投資のセオリー――米国のベンチャー・キャピタリストは何を見ているのか Kindle版 中村 幸一郎 (著)』を読みました。

VCの日米比較などが、具体的な事例に基づき分かりやすく解説されていて、
VCの活動に関する知見を得られることはもちろんのこと、投資を受ける企業やその企業を支援する支援者の活動のヒントも得られる一冊としてお勧めする次第です。


1.書籍情報、構成

 先日、『スタートアップ投資のセオリー――米国のベンチャー・キャピタリストは何を見ているのか Kindle版 中村 幸一郎 (著), カウフマン・フェローズ・プログラム(協力)』を読みました。

著者の中村 幸一郎氏は、Sozo Ventures(https://www.sozoventures.com/)のファウンダー兼マネージングディレクター(本書出版当時)で、学生時代に日本のヤフー創業に関わり、日本の商社でインキュベーション・ファンドの事業などを担当するとともに、米国のベンチャー・キャピタリスト育成機関のカウフマン・フェローズ・プログラムを首席で終了された方です。

本書は、単行本が2022年6月8日に出版されているもので、私は2023年に購入していたのですが、積読(電子書籍で言うのもおかしいですが)していたのを、別の本を探しているときに見つけて読んだものです。

オープンイノベーションが話題に登るようになってすでにかなり経っていますが、今読んでみても、VCなどの投資家だけでなく、事業戦略の支援や事業提携などでスタートアップと何らかの関わりを持つ方にとっても大変参考になる一冊だと思います。

本書(Kindle版で292ページ)の構成は以下のとおりです。
(引用は『』でくくります。太字と改行は筆者挿入。以下同じ。)

『【目次】
序章

第1章ユニコーンを見つけるレンズ
第2章ユニコーンの将来予測
第3章ユニコーンを測る物差しとキャピタル・デザイン
第4章ベンチャー・キャピタル7つの機能
第5章米国のVCと日本のVCの違い
終章』

(出典:『スタートアップ投資のセオリー――米国のベンチャー・キャピタリストは何を見ているのか Kindle版 中村 幸一郎 (著), カウフマン・フェローズ・プログラム(協力)』

上記の各章で、非常に多岐にわたって海外と日本のVCのスタートアップへの向き合い方の違いを含めて解説されています。

私も、VCがどのような視点から投資先を選んで、どのように投資していくか、また投資先にどのような支援をするのかの記載から、スタートアップを支援したり、事業提携したりする立場としても多くの示唆を得られました。

『スタートアップ投資のセオリー――米国のベンチャー・キャピタリストは何を見ているのか Kindle版 中村 幸一郎 (著), カウフマン・フェローズ・プログラム(協力)』

単行本はこちら。


2.自分の気付き、ToDo

本著の中で、特に印象に残り、私が気付きを得られた部分をいくつかご紹介します。

● 序章の中の『カウフマンの教室にて』の『ハンズオンはなぜだめか』の中で、
筆者は、自社と自社の本業に集中する起業家に対して、他者や業界も含めてみることで「全体最適」を図る視点から、本業の周辺を支援することをVCが提供すべき機能として挙げています。

この章では、VCは優れた本業を持つスタートアップを選ぶことがまず必要であり、「ハンズオン(伴走支援)」をスタートアップが得意としている本業で行うことはVCの役割ではないと語っています。

この視点は、士業などの支援者側の立場で言えば、本業自体は支援を受ける企業に任せつつ、その本業を成功させ企業が成長するために必要な、人事や財務、知財戦略の立案と実施などの法務関連分野を支援することと共通するかと思います。

● 序章の中の『起業家がもつ真の魅力』では、
創業者本人の能力や人柄などの魅力、情熱などももちろん重要ですが、それを支えて組織として実行するためのビジネスモデルとマネジメント人材、その人材が適切に動くための仕組みの必要性を説いています。

具体的な評価方法は、第1条『ユニコーンを見つけるレンズ』の「1スタートアップを評価する2つのポイント』ビジネスの実行力と競争力を挙げ、『2実行力の評価』の中で、このマネジメントチームとCEOの関係など組織論の面から詳しく解説しています。

スタートアップの段階から、マネジメントチームを重視して評価するというVCの評価手法は、起業家自身はもちろんのこと、起業家を支援する側としても重要な視点と改めて認識した次第です。

● 第1章『第1条『ユニコーンを見つけるレンズ』の『3競争力の評価』のでは、
筆者は「ユニット・エコノミクス」
『ユニット・エコノミクスとは、商品・サービスが1単位売れることで、どれだけの利益が出るかを示す指標』

と説明し、商品そのものの競争力を測る指標として、SaaS企業の場合などの具体的な業態別に指標に使うデータと指標の使い方を解説しています。

そして、売上規模の拡大につれて、この指標の計算方法も変化することを説いています。
私も企業の成長の各段階ごとの事業評価の考え方として参考になりました。

● 第1章の中の『5競争力の要因分析』の一節では、
筆者はズーム(Zoom)の事例を挙げて、エンドユーザーによる口コミ等の効果を述べてます。
いわば「プロダクトアウト」の立場とも言えると感じましたが、SNSなどでユーザーの評価情報が流通しやすくなった現在「良い商品やサービス、企業姿勢」などの評価が市場に伝わりやすくなったという点は、今後マーケティングやその支援を考える上で重要と感じた次第です。

● 第2章『ユニコーンの将来予測』の中の『1なぜ解約率は上がるのか』の中で、
筆者は前述のユニット・エコノミクス将来どのように変化してくかを予測する必要性とそのためには、自社の過去のデータが不足しているスタートアップでは業界の事例からパターンなどを見つけ、スタートアップに当てはめていくことと、その能力の必要性を説いています。

そして、その後の章で、既存市場(業界)や潜在市場などの市場別にこの予測手法と使い方を具体的に説いています。

これも、VCだけでなく起業家自身やその支援者も過去や周囲の事例から学ぶ「温故知新」の重要性の現れと思います。

● 第3章『ユニコーンを測る物差しとキャピタル・デザイン』の「1IPO価格への厳しい目』では、
筆者は、この後の章で、スタートアップの成長段階毎に、価値評価の方法やポイントを具体例を挙げて解説しています。

 投資家としては当然の視点かとは思いますが、起業家やその支援者も、投資家やユーザーからどのように自社や事業が評価されるのかを知るとともに、自社の成長状況を客観的に知る手段やKPIなどの評価指標の設定時の留意点としても参考になるかと思います。

● 第4章『ベンチャー・キャピタル7つの機能』の中の5番目の機能『5付加価値の提供』を含めて、
筆者はどんなVCでも投資したいと思うスタートアップ投資すべき(VCはスタートアップに選んで貰う立場)と繰り返し語っています。
 VCがスタートアップに選んでもらう上で、VCが提供すべき価値として、スタートアップの知名度を上げる広報活動ユーザーとつなぐ営業活動などを具体例とともに紹介しています。

● 第5章『米国のVCと日本のVCの違い』の『5日本の業界がグローバル化するには?』の中の『VCに求められる計画性』について、
筆者は、この後の第6節、第7節で、日本のVCの課題について解説していますが、
この「計画性」とその機動的な調整というのは、投資家だけでなく、投資を受ける側である企業やその支援者にとっても、「VC側も限られたリソースの振り分けを常に行っている」ということや、自社の顧客も限られたリソースを振り分けて商品を購入していることについて敏感となる重要性を示唆していると噛んた次第です。

Gerd AltmannによるPixabayからの画像


3.投資家の事情からみる、支援などを受ける側のヒント

上記の他にも、第5章『米国のVCと日本のVCの違い』の『10ビジネスの主流の変化』で語られている、既存の企業の成長にとって、スタートアップへの投資は必要性を増してくるとの主張など、参考になると感じた箇所は多々ありますが、

2.の中でお話したように、VCという投資家が何を考え、どう動くのかは、投資を受ける企業やその支援者にとっても重要な事項であるとともに、
自社事業や支援の活動における視点や戦略の面でも大変参考になると思います。

支援者の立場からみると、支援先のスタートアップや中小企業が抱える課題は何かを客観的に検討する参考になりますし
中小企業の本業の支援に加えて、それを支える財務、人材確保、知財戦略などの周辺業務やマネジメントについても、必要に応じて他の専門家とも連携して支援を行う必要性を改めて感じた次第です。

Michal JarmolukによるPixabayからの画像

4.こんな人にお薦め

 本書は、日本のVC向けの面もあるものの、同時にCVCや事業連携などによりスタートアップと関係を持つ既存の企業や、投資を受ける企業とその支援者にとっても、具体的な事例とともに分かりやすく参考になる示唆が多く含まれている本です。

起業家を目指す方スタートアップと何らかの形で関わる方オープンイノベーションの必要性の認識が広がる中で、新規事業や事業変革のために社外との連携を考えている方にも一読をお勧めする次第です。


『スタートアップ投資のセオリー――米国のベンチャー・キャピタリストは何を見ているのか Kindle版 中村 幸一郎 (著), カウフマン・フェローズ・プログラム(協力)』

単行本はこちら。

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