インドの山奥を125ccスクーターで走って見ると、目の前は絶景映画のワンシーンだった③
前回までのあらすじと続き
今は2024年5月15日14時過ぎ。筆者である私は、吹雪のなか標高4200mのフォツ峠(Fotu la)山頂に無事に到着した。
かなり寒いため長居することなくすぐに出発だ。これからカルギルを目指し山道を下っていく。
頑張って夕方までに到着するぞ!
①フォツ峠を下りカングラル(Khangral)の町近くまでの道のり
フォツ峠の頂上を出発し約20分位山道を下る。雪も止んで少し暖かい。
だが道路状況は未舗装の部分もある。砂利道が続くため、転倒やスクーターのタイヤがパンクしないように気を遣いながらツーリングだ。
後ろから来る車両に道を譲りながら、ハンドルを取られないようにゆっくり行くしかない。
未舗装区間を通過した。いよいよカルギルの管轄区域に入る。
”ようこそ!カルギル観光開発局”とのことだが、カルギル中心部まであと75㎞だ。まだまだ先は長い。
また空がうす暗くなってきた。雨が降らないことを願いつつ、廃墟が点在している道のりを走る。
戦場に向かうような橋に見えるのは私だけだろうか。味のある殺風景な道のりが続く。
最近になって、少しづつ治安が良くなってきているエリアである。平和が続けば少しずつ景色も変わるであろう。
進行方向には青空も見えている。きっと温かい景色があるに違いない。
前方に黒い動物を見つけた。スクーターを停めて進行方向を見る。
黒い牛と牛使いの方が道路のすみを歩いている。少しだけ、のどかさもあり微笑ましい。
だが彼らと牛たちはどこからきたのか。家らしきものは道路の周辺にはなかったはず。
スクーターで走り続けていると、進行方向右側に町が見えてきた。カングラルという町だ。
鳥の鳴き声も聞こえてくる、のどかな街並みがとても魅力的である。フォツ峠を越えてから殺風景でさみしい景色が続いていたので、とても癒しを感じる。
もう少し暖かくなって、辺りにたくさんの花が咲けば、きっとカングラルの町は魅力いっぱいになるだろうと思った。
よく見るとこの町のエリアにはモスクがある。イスラム教徒が多い町である。カルギルに向かうにつれて、イスラム色が強くなってくる。
住宅のカーテンや屋根、現在建築工事中の住宅の工事の養生シートに至るまで、町の色合いをみると茶色か緑色であった。余裕がなかったので写真はとっていない。
チベット仏教の寺院があり、町の色合いが茶色であるところはチベット仏教徒の住宅エリアである。モスクがあって、緑色の町の色合いのところはイスラム教徒の住宅エリアであることが容易に想像できる。
②カングラルからナミカ峠(Namika La)山頂までの道のり
2つ目の山が見えてきた。いよいよナミカ峠越えだ。
前方の山々にうす暗い雲がかかっているのが見える。この先あまり天気がよくなさそう。
もし雨が降ると、濡れた状態でカルギルに向かうことになる。それだけは絶対に避けたい。
天気が悪かったのも最初のうちだけだった。あたりが一転して短時間で晴れる。
山の天候は急に変わりやすい。吉の方に転がって良かった。
ナミカ峠を登るにつれ、前方に茶色い粘土のような山々が見えてきた。
フォツ峠とはまた違った感じの山々が見えてくる。スクーターを停めて辺りをみると茶色の山に囲まれた感じになっていた。
樹木も生えない土だけの山に雲が近い景色は、気候条件が正反対の日本では見られないだろう。
この世の中には、色々な絶景がある事を実感した。世界は広いね。
15時すぎにナミカ峠山頂に到着。予定より若干遅れ気味。
標高3800m位で天気も良いので景色を堪能する。広々とした感じで心地よい爽快感があった。
気温はフォツ峠と比べると温かく感じる。だが風が少し強い。
後ろを振り返ると、フォツ峠の山頂からみた風景とは、土や山の色合いも全く異なっている。
麓から山頂までなだらかな坂道が続く。上り坂でも極端にスピードが出せなくなる事はない。
景色の変化をゆっくり楽しむ。ツーリングの醍醐味でもある。
シュリーナガル〜レーの道のり全体図の看板だ。この看板を見る限り、カルギル(Kargil)はもう近い。
あと5日位あれば、更に先のシュリーナガルやスルバレーまで行ってみたかった。
あとから現地の方に聞いた話だと、
・カルギル~スルバレーは未舗装の山道が続くため、もっと大きなバイクでなければほぼ不可能
・カルギル~シュリーナガルは5月だと積雪がかなりあり、断崖絶壁のような道が続くとのこと
写真撮影を手伝って頂いた、インドのライダーさんと記念写真を撮った。彼はこれから逆方向のレーに向かう途中とのこと。
お互いが楽しい時間の一部を共有できたことに感謝をした。一期一会という言葉を思い出す。
インドの旅をしていると、その場で知り合った方々とちょっとしたことでフレンドリーになり、一緒に写真を撮り合う機会が数多くある。後で振り返ると、彼らがそれぞれのインド旅という作品での登場人物になっているのに気がつく。
手前の茶色の粘土のような山と、遠くに見える雪を覆った山々を見る。お互いの存在感が絶大だ。
長い年月をかけて自然が作り出した景色の重みは、人が短い期間で作り出したものとは比較にならないことを実感した。
自然の力には驚異を感じる。
茶色の山に近づいて見た。
特に樹木が全くない粘土のような山はインパクト感があり過ぎる。
普段見られないものなので、しっかり目に焼き付けておこう。
③ナミカ峠山頂からカルギル近郊への道のり
時計を見ると15時30分過ぎていた。ナミカ峠山頂を出発し約50㎞先のカルギルへ向かう。
途中写真撮影したいスポットが沢山あった。だが日の入りまでにはカルギルの宿に到着したいため、時速50㎞位でペースを上げる。
それでも事故をおこさないように安全運転を心がけないといけない。
ナミカ峠山頂から約1時間ほど、スクーターを最高速度で走らせる。遥か向こうにはカルギル中心部が見えてきた。
カルギルに近くなると天気もよく、暖かくなってきた。私の頭も身体もポカポカしてしまい運転中眠くなる。
スクーターを止め水分補給をした後、出発することにした。
16時50分過ぎ、カルギル郊外にたどり着く。あたりの落ち着いた感じが心地よい。
カルギルの標高は2200m位であるため、酸素が十分にある。私の頭の酸欠感もとれていた。
今晩はゆっくり眠れそうだ。
写真の山の麓あたりには、桜や杏子の木が多数ある。6月くらいになると花一色の景色になる。
カルギルはインド・パキスタンの軍事境界線に近いこともあり、もともと政情的に不安定なエリアだ。現に1999年にはカルギル紛争があり戦死者も出た。
だが最近は両国の均衡が取れており、カルギルは紛争地から田舎町に変わろうとしている。平和な状態が続くのを期待し、次回は花一色の景色を見てみたい。
④カルギル市街地に入る
カルギル市街地の手前にある狭い急な下り坂で、私は誤ってスクーターを転倒させてしまった。幸いスクーターも私も無事だった。
渋滞の抜け道でもあったため、スピードを出す車両もかなり多く交通量もそれなりにあった。焦ってしまい無理に方向転換させたことが原因だ。
転倒後市街地に入り、交通量と人の多さで余裕が全くないため写真撮影はできない。
カルギル市街地をスクーターで走る上での注意点
・交通量が増え車両もスピードを出してくるため無理な運転は絶対にしないこと
・路地が複雑で一方通行が多い
・スマートフォンで位置を確認するのであれば、道路の端に駐車すること
・下り坂は突然段差が現れることもあるため、スピードは絶対に出さないこと
・無理な運転や焦り運転は事故につながるため、狭い抜け道や路地はなるべく走行を避けること
⑤目的地のシンゴ川とドラスの合流地点(Confluence of Singo and Drass River)へ
カルギル中心部を過ぎ目的地へ向かう。交通量も一気に減る。
カルギル市街地からシュリーナガル方面にスクーターを走らせると横にはスル川と樹木がみえる。とても綺麗な景色だ。
Google mapで確認するとゴールまで約6km。このペースで行けば日没前には到着できる。
何も考えずに走っていると、目的地を過ぎてしまいドラス川の橋を渡ってしまっていた。興味本位でシンゴ川に沿って北へ進んでみると学校があり、更に行くと未舗装の砂利道にたどり着く。
砂利が深すぎるため、スクーターのタイヤが深くまで埋まってしまった。これ以上進むのを断念しスクーターを手で押しながら引き返す。
改めて宿でGoogle Mapで確認した。もしそのまま進んでいたら、危うくインド・パキスタン軍事境界線(LOC)の管理事務所にたどりついていた。
なんとかドラス川の橋を再び渡る。無事にレー・スリナガル道路に戻って来れて安心する。
橋の付近を見ると、ピットスポット カルギルカフェ(Pitspot Kargil Cafe)という軽食が食べられるお店がある。
サモサ(ジャガイモのコロッケ)と温かい飲み物を頂きたく、店に入ろうとしたが店員の方が不在であった。諦めて夕食まで我慢するしかない。
18時頃、目的地であったシンゴ川とドラス川の合流地点(Confluence of Singo and Dras River)に到着。上流の川であるシンゴ川から、下流の写真左側のドラス川と右側のスル川に別れる地点でもある。
シンゴに吸い込まれそうな景色だ。ドラス川沿いに先ほど迷い込んで行ってしまった学校も見える。子供たちの元気な声がこの合流地点まで届き、心地の良い鳥の鳴き声や川の流れの音と合わさり素晴らしいハーモニーを奏でている。
この合流地点から更に10㎞北上すると、インド・パキスタンの軍事境界線(LOC)にたどり着く。写真右側の山を登るとLOC展望台(Hundurman LOC View Point)があり、軍事境界線を眺められるのだが、時間の関係上今回のツーリングでは行くことができなかった。
(続く)