「新しい実在論」を分かり易く学ぶ❶
僕は組織・人財開発コンサルティング会社の運営の傍ら、BPIA (ビジネスプラットフォーム革新協議会)の理事をしております。
BPIA (ビジネスプラットフォーム革新協議会)は、1999年に設立された「人を元気にする舞台(プラットフォーム)を創る」ことを考える経営陣の集まりです。
僕はこのBPIAでこの6年ほど、会員向けに「Think!」という研究会を毎年行っています。デザイン思考、組織論などを経営・事業・人と組織をテーマに研究テーマを決め、「大人が楽しく学ぶ」をモットーに研究会「Think!」を展開しています。
2020年度の研究会は、『Think! 新しい実在論研究会 〜新実在論で世界、社会を捉え直す〜』というテーマで、オンライン講座という形態で進めています。https://b-p-i-a.com/?page_id=8119
本noteでは、今回の研究会の各回の「要旨」を報告いたします。
以下は、BPIA (ビジネスプラットフォーム革新協議会)の研究会サイトに掲載された、今回の研究会の概要です。
◇第1回「導入」2020.5.29 ZOOMにより実施
第1回は、この研究会をスタートする際のオリエンテーションです。
1995年、リクルート時代に、僕は編集工学研究所長・松岡正剛氏にこう言われました。
この時、今でいう「リベラル・アーツ」の必要性を松岡氏から教えられました。僕はこの時から経営学だけでなく、哲学・社会学の知見にアプローチし始めました。その時知った社会学者ニクラス・ルーマンの書籍は今でも読み続けています。
また、'18年に出版された野中郁次郎氏・紺野登氏の共著『構想力の方法論』について、日経クロストレンドの記者から僕に二人へのインタビューの依頼がありました。https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/watch/00013/00147/
この時も野中氏、紺野氏は我々ビジネスパーソンに対して「哲学的知見の必要性」を強調されていました。
21世紀に入り、特に2010年代は、震災、経済危機、気候変動、ナショナリズムの台頭と分断、環境問題など激動の状況が続きました。変化、激動が常態化しているとも言えます。そして、2020年。COVID-19災禍の発生。
リスク論のグルであるウルリッヒ・ベックも、ニクラスルーマンもその著書の中では、Virus危機に関する記載はありませんでした。
リスク・トレンドを我々に提供してくれる良著『ビジネスを揺るがす100のリスク』日経BP総研編著2018/10/25 でも「人財不足のリスク」の章に、鳥インフルや梅毒などの殺人病の感染拡大について1頁程度で述べているのみでした。
また、名著『地球に住めなくなる日~「気候変動」の避けられない真実』デイビット・W・ウェルズ著 2020/3/14 では、その第14章では「グローバル化する感染症」で、温暖化の文脈で、”北極圏の氷に閉じ込められていた病原菌が空気中に出てくることもある”と記載がありました。
いずれの書籍にも、ソーシャル・ディスタンスが社会の行動基準になるという予見はないのです。
この時に何の指針もなく、暗中模索することは得策ではないのです。「あり方」を考えるための「哲学的指針」を持つ必要があります。
ところで、今の、哲学領域、つまり「現代思想」では何が議論されているのでしょうか?
『現代思想』という雑誌があるのをご存じですか?
青土社(http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?cat_id=11)という出版社から出されている月刊誌です。この雑誌は、上記図のように、毎月様々な社会的テーマについて、哲学的議論を展開しています。ビジネスパーソンにとっても知見を深めることに役立つ良書です。
2020.5月号のテーマは、緊急特集ということで「感染パンデミック」です。これを思想的に議論しています。目次は☟参照。http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3414
また、2019年5月臨時増刊号で、「現代思想43のキーワード」が特集されており、そのキーワードのトップは「新しい実在論」です。
この研究会では、この「新しい実在論」にアプローチしますが、この「新・実在論」を提唱する中心者が、マルクス・ガブリエルという若き哲学者です。
今回の研究会では、マルクス・ガブリエルの著『なぜ世界は存在しないのか』を基本書として進めていきます。
この書籍のテーマは「世界は存在しない。または、総体は存在しない」ということなんですが、今の段階では「何を言っているの? 何を意味しているの?」という感じですよね。この研究会では、第2回以降、これを読み解いていきます。
ところで、第1回の「導入」では、ガブリエルの考えを紐解いて行く前に、「現代思想」の流れを説明します。哲学に詳しい方からは異論がでるかもしれませんが、ビジネスパーソンの方にも分かり易く理解できるようにざっくりと説明しますのでお許しくださいね。
現代思想は、
○近代(モダン)
○現代(ポスト・モダン)
○ポストモダン以後の時代 に分けられます。マルクス・ガブリエルらが提唱する「新・実在論」はこの「ポストモダン以後の時代」に位置づけられます。
では、「近代(モダン)」「現代(ポスト・モダン)」とは何でしょうか?
「近代(モダン)」の中心思想は「構造主義」で、これは以下のような考えです。
もっと分かり易く言うと、以下に
しかし、1960年代末から70年代に初頭にかけて、この「近代(モダン)」の中心思想である「構造主義」が揺らぎ始めます。
フランスの哲学者リオタールがその著の中でこう言います。
マスコミなどの進展により、人々が情報へのアクセスが可能となり、人々は様々なものの見方・考え方を持つようになります。多様な価値観の登場です。
もう一度、下記図を示します。右側をご覧ください。
「現代(ポストモダン)」は、
であり、唯一の心理をどこかに求めようとする思考を徹底的に批判し、伝統からの断絶を徹底的に行います。「現代(ポストモダン)」は、「ポスト構造主義」とも言われます。
上記は、ポストモダン建築物で、これまでの伝統的な建築物からの断絶を図るようなデザインです。
つまり、「現代(ポストモダン)」は、「我々の誰もが追求すべき何らかの意味がこの人生にはある」という幻想からの、我々を解放しようとしたのです。
ニーチェが言った「神は死んだ」は、象徴的な言葉ですね。
しかも、ポストモダン思想では、以下のように主張します。
これを「構築主義」「社会構成主義」と呼びます。
上記図で示したように、「構築主義」「社会構築主義」では、
・事実それ自体はなど存在しない。
・我々が、我々自身の重層的な言説を通じて、一切の事実を構築している。
・私たちがかけている眼鏡(認識)はひとつに留まらず、とても数多くある としています。
これは、哲学者カントの考えを源流としており、カントの主張はこうです。
今ちょうど、NHK ETVの『100分de名著』6月のテーマでこのカントの難解書籍で有名な『純粋理性批判』が取り上げられています。新・実在論との対比で視聴すると興味深いと思います。
分かり易いように「富士山🗻」を対象として、説明しましょう。
「近代(モダン)」では、富士山のいろいろな見方は「仮象」で、富士山それ自体のみが存在するとします。つまり、「富士山は富士山だよ」と。
「現代(ポスト・モダン)」、つまり「ポスト構造主義」では、いろいろな富士山の見方の「富士山」が存在し、富士山それ自体は存在しない。つまり、「脳の構築物なのよ」と主張します。
今、日本の企業でも、組織におけるコミュニケーションをテーマにこの「ポスト構造主義」、特に「構築主義」「社会構成主義」がブームになっています。特に、1on1や対話(ダイアログ)の中に入り込んでいます。
※組織開発や人材開発を生業としている、僕が言うのも変なのですが、実は「哲学の世界」では、「構築主義」「社会構成主義」は周回遅れなんです。
さて、この「現代(ポスト・モダン)」の「ポスト構造主義」「構築主義」「社会構成主義」に対して、哲学者マルクス・ガブリエルはこう言います(言っているかもしれません...)。
ガブリエルはこう異議を唱えます。
そして、ガブリエルは「現代(ポストモダン)」を下図のように批判するのです。
先の「富士山🗻」でいうとこうなります。
近代の「構造主義」も、現代の「ポスト構造主義」も凌駕する考えを示しています。
で、今皆さんの疑問、関心としては、上図のように、この考えが「ガブリエルの基本テーゼ」である、
へと、どのように繋がっていくのかということと思います。
その解説は、第2回以降のセッション(2020.6.17)以降となります。
(記載日.2020.6.5)