回す?回さない?パパとママ二人で話し合うべき「逆子」の対応
逆子はなぜ帝王切開なのか?
逆子とは、お腹の中の赤ちゃんが頭ではなく、お尻や足が下にある状態を言います。
お産の時に逆子のままだと、通常は帝王切開が選択されます。
理由は、逆子の赤ちゃんを下から産もうとすると様々なリスクがあるからです。
① 難産のリスク
赤ちゃんは通常頭が一番大きいです。
頭が出てきてくれれば、体や足などがスムーズに出てきてくれることが多いです。
しかし、逆子の場合に下からお産にしようとすると、一番大きな頭が最後に出てくることになります。
そうすると、体は出てきたはいいけれど、頭が産道に引っかかって出てこないという事態が発生する可能性があるのです。
頭が引っかかってしまう時間によっては、脳出血や脳性麻痺の原因になったり、最悪の場合亡くなってしまうこともあります。
② 臍の緒が出てきてしまう
頭が下の場合には、破水した時に臍の緒が外に出てくることは稀です。
頭が栓のように産道を塞ぐイメージです。
しかし足が下の場合はどうでしょうか?
頭のような大きなものが産道にはないため、そこにはスペースがあります。
すると、破水した際にそのスペースからへその緒が外に出てきてしまうことがあります。
これを臍帯脱出と言います。
臍の緒が外に出てきてしまうと、臍の緒の圧迫などによって血流が悪化し、赤ちゃんに十分な酸素が送られなくなってしまうことがあります。
臍帯脱出は脳性麻痺や死亡の原因としても知られます。
発生した場合には、緊急帝王切開が必要になります。
③ 逆子の赤ちゃんの出し方には技術が必要
頭から出てくる赤ちゃんについては、通常赤ちゃんが自然に回って出てきてくれるので特別な手技は必要ありません。
しかし逆子の赤ちゃんの出し方には、色々な手技があります。
それくらい逆子の赤ちゃんの出し方には技術が必要であり、特に若い医者は逆子の赤ちゃんを下から出すという場面に遭遇することが非常に少なくなっており、技術の伝承がうまくいっていない現状があります。
以上の理由より、逆子の赤ちゃんの下からのお産は様々なリスクがつきものであり、通常は帝王切開が選択されます。
逆子と言われたけどいつまでに治る?
小さい赤ちゃんはお腹の中でぐるぐる回っており、早い週数での逆子はよくあることです。
超早産期(妊娠28週未満)の逆子の頻度は約25%とも言われています。
そのため、かなり早い週数で陣痛が来てしまった場合は、逆子が理由で帝王切開になってしまう場合が多々あります。
週数を重ねるごとに徐々に頭が下になってくれる赤ちゃんが増えてきます。
予定日の1ヶ月前が一つのタイムリミットであり、予定日1ヶ月前でもまだ逆子である場合には、そのまま逆子であることがほとんどです。
妊婦さんの5%ぐらいが、逆子のままお産を迎えると言われています。
逆子を直す唯一の手段「外回転術」
予定日の1ヶ月前でもまだ逆子の赤ちゃんは、自然に回ってくれることはほとんど期待できないため、下から産みたい場合には逆子を直す手段を考えます。
逆子体操という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、残念ながら逆子体操で逆子が直る明確な根拠はありません。
逆子を直す唯一の手段として「外回転術」というものが存在します。
外回転という名前の通りで、外から赤ちゃんを頭が下になるように回します。
超音波で赤ちゃんの頭や背中の位置を確認して、赤ちゃんが前周りまたは後ろ周りしてくれるように、妊婦さんのお腹に手を当てて誘導する処置です。
大体予定日の1ヶ月前の妊娠36-37週という週数で行います。
痛みを伴う手技になるので、子宮がリラックスするように張り止めの点滴を打ったり、背中の麻酔を使う場合もあります。
外回転術の成功率は60-80%と言われてますが、成功しやすい人がいます。
例えば、一度でもお産をしたことがある人は成功しやすいです。
その他にも羊水が多かったり、妊婦健診の度に赤ちゃんがくるくる回ってる場合は成功しやすいです。
痛みを伴う処置なのでお母さんは勿論頑張ってもらう必要がありますが、同時に赤ちゃんも頑張ってもらう処置であることを覚えておきましょう。
外から力が加わるので、それがストレスとなって一定数しんどくなってしまう赤ちゃんが出てきます。
そのため処置中は常に赤ちゃんの心拍は確認し、また処置後もしばらくは心拍をモニタリングします。
ストレスで心拍がゆっくりになってしまう赤ちゃんのほとんどが様子を見ていると自然に回復しますが、心拍が戻らず緊急で帝王切開が必要になる場合があります。
また外回転術の後に、常位胎盤早期剥離といって胎盤が剥がれてしまった症例の報告もあり、外回転術は必ず緊急帝王切開がいつでも出来る準備をした上で行う処置となっています。
ご存知の方もいるかと思いますが、残念ながら外回転術を巡って悲しいニュースがありました。
処置中に赤ちゃんの心拍が異常になったにも関わらず、緊急帝王切開をしなかったことで赤ちゃんに重い障害が残ってしまったという事故です。
二度とこのような事故がないよう医療者側も体制を考えなくてはいけません。
なぜそこまでして逆子を直したいのかもう一度考える
起こる確率が非常に低くても、一度怖いニュースを見ると同じことが自分にも起こるかもしれないと考えるのは当然の心理です。
しかし、外回転術の良いお話もしておきたいです。
私も外回転術を何十例とやってきましたが、幸い怖い合併症の経験はなく、帝王切開にならずに済んだ妊婦さんからは感謝の言葉を多く頂きました。
ここで今一度、なぜそこまでして逆子を直したいか考えましょう。
リスクを伴うだけの処置であれば、そもそも医療者側からも提案しません。
実は妊婦さんだけでなく医者にとっても帝王切開を避けたい理由があるんです。
帝王切開を避けたい理由として、術中術後の合併症が多いことや、次回妊娠へ影響を与えてしまうことが挙げられます。
① 術中の合併症
手術中の合併症として出血があります。
出血量は下からのお産に比べて帝王切開で多くなります。
出血量によっては貧血の治療、場合によっては輸血が必要になる場合があります。
またお腹を開けることになるので、腸や膀胱など子宮以外の臓器を傷つけてしまうリスクはゼロではありません。
② 術後の合併症
術後の合併症としてばい菌の感染があります。
帝王切開では下からのお産よりもばい菌の感染のリスクが高く、抗菌薬の治療や、お腹の傷が膿んでしまって傷を開いて洗ったり、重症例では再度お腹を開く手術が必要になる場合があります。
また術後に腸の動きが悪くなってしまい、お腹にガスがパンパンに溜まってしまうイレウスという病気も発生しやすいです。
③ 次のお産への影響
帝王切開を1度でもしたら次も帝王切開になると聞いたことがあるかもしれません。
それは子宮破裂と言って、お産の時の子宮の中の圧が高まることによって傷に負担がかかり、切った子宮の筋肉が裂けてしまうことがあるためです。
子宮破裂は、特に陣痛がきた時やお産の時に発生しやすいので、それを避けるために帝王切開が選択されることが多いのです。
また、切った子宮の傷に胎盤がくっついてしまい、お産の後にも胎盤が剥がれなくなる癒着胎盤や、子宮の出口を胎盤が覆ってしまう前置胎盤という病気も帝王切開の既往のある方は発生しやすいです。
これらの理由から、医療者側もできれば帝王切開は避けたいと思っています。
双方にとって、なるべく自然な形でお産が出来ることが理想ですよね。
赤ちゃんが危ない!物理的に下からのお産は難しい等々、帝王切開が必要な時はもちろん帝王切開を選択しますが、逆子の場合には、外回転術を行うことによって不必要な帝王切開を避けることができるかもしれないのです。
勿論外回転術に期待し過ぎるのも良くありませんが、過度に恐れ過ぎるのも違うと思います。
帝王切開のリスクも理解し、それぞれのリスクを天秤にかけて外回転術を行うかどうかを考える必要があるのではないのかと思います。
通常医療者側のスタンスとしては中立であることが多く、外回転術を行うかは夫婦に選択が委ねられます。
妊婦さん1人でその選択をするのではなく、必ず夫婦で話し合い、最終の決断をしてほしいと思います。
まとめ
① 逆子の赤ちゃんを下から産もうとすると難産や臍帯脱出のリスクがあり、また特殊な手技も必要になるため帝王切開が選択されることが多いです。
② 予定日の1ヶ月前でもまだ逆子の場合には、自然に頭が下になる可能性は低いため、逆子を治す処置である外回転術が考慮されます。
③ 外回転術は、妊娠36-37週頃に妊婦さんのお腹の上から赤ちゃんが回るように誘導する処置であり、成功率は60-80%程度です。お母さんだけでなく赤ちゃんも頑張る必要があり、緊急帝王切開の準備をした上で行う処置です。
④ 帝王切開のリスクとして術中、術後の合併症や、次回妊娠へ影響を与えてしまうことがあります。外回転術と帝王切開のリスクを天秤にかけ、外回転術を受けるかどうか夫婦でしっかり話し合って欲しいと思います。
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