【書評】「日本の歴史的建造物-社寺・城郭・近代建築の保存と活用」
こんにちは、Akiです。
通訳ガイドとして、日本を紹介するために、私が興味を持って読んだ本を紹介します。
今回の本は、「日本の歴史的建造物-社寺・城郭・近代建築の保存と活用 (中公新書)」です。
タイトルから、有名な建物の紹介本かなと思って読み始めたのですが、実際にはサブタイトルにあるように、建物の保存と活用に関する内容でした。
当初の期待とは違ったものの、その内容はとても興味深く、通訳ガイドとしても参考になるものでした。
外国人のお客様を博物館などにお連れして案内していると、しばしば「これはオリジナル(本物)か?」と問われることがあります。
外国、特に欧米の方(に限らないかもしれませんが)は、美術工芸品や資料などがオリジナル(本物)かコピー(複製)かということに強いこだわりがあるように感じられます。
美術工芸品などの場合は、オリジナルかそうでないか、比較的単純な区別となりますが、建築物の場合、状況は複雑となります。
建築物は長年の間に修理や増改築され、オリジナルとはかなり違った姿になる場合が多く、しかもそれぞれの時代の貴重な資材や意匠が加わっているためです。
特にコンクリートで再現された社寺・城郭については、お客様への説明の際に注意が必要です。
単に「コンクリートで再現されました」という説明では十分ではないので、再現の経緯や、再現された外形・意匠がどのような資料・根拠にもとづいているのか、再現に関わった人々の思いなど、より丁寧な解説を加えたいものです。
本書では、明治時代以降、歴史的建造物の価値や魅力がどのように見いだされるようになったのか、過去に施された改変をどう捉え、保存・復元・再現していくのか、という切り口で話が展開します。
建築物の復元・再現は必ずしも原型に忠実であることが最善ではなく、後の時代に加えられた改変など、さまざまな要素を考慮して最適解を見出す必要性が語られており、深く考えさせられものがあります。
特に明治以降の近代建築は、使い続けられるために、現代水準で求められる安全性、快適性を確保するための改造はどこまで許容されるのか、といった単純な保存を越えた課題に対しての取り組みが必要となります。
一見、建築物の持つ意匠・雰囲気にあわない改変も、実は建築物を使い続け、保存していくためにはやむを得ないものであることに気づかされます。
本書が対象とする歴史的建造物は、社寺・城郭から民家、近代建築、そして街並みや都市まで幅広く、それぞれについて多くの事例を引きながら、その保存・復元・再現の取り組みの長所・短所を指摘し、読者に客観的な広い視座を与えてくれます。
本書には、一般的にはあまり馴染みのない言葉も多く、読み応えはありますが、このような視点から一般向けに書かれた本は少なく、通訳ガイドにとっては伝統建築、近代建築、街並みを説明するための知識に厚みを加えてくれる本です。
本書によって、街歩きのときに建物や街並みを見るのに役立つ、興味深い視点が得られることと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました! これからもご愛読いただけると嬉しいです!