香川の建築(2) 旧香川県立体育館
こんにちは、Akiです。
建築好き通訳ガイドの視点から、建物の魅力について紹介しています。
香川県の建築の第二回は、香川県庁舎東館と並んで有名な、同じく丹下健三氏が設計した「旧香川県立体育館」です。
この「旧香川県立体育館」、とにかくその姿が一度見たら忘れられない、異形の建築です。
旧香川県立体育館とは
旧香川県立体育館は、1964年(昭和39年)に竣工しました。この年は東京オリンピックが開催された年であり、丹下氏による「国立代々木競技場」と同時期の建物です。
国立代々木競技場は、吊り屋根構造がそのまま外観の造形となった、美しい建築として有名ですね。
旧香川県立体育館は、国立代々木競技場とは見た目がかなり違いますが、同じく吊り屋根構造のアイデアに基づいた、双子の建築といえるものです。
その独特の外観から、「船の体育館」とも呼ばれています。
丹下氏が、日本の伝統的な和船をイメージしたといわれています。
長らく香川県の中心的な室内競技場として、県民に親しまれてきましたが、耐震改修工事が必要となり、その工事入札が不調に終わったことから、2014年に閉鎖されたままの状態となっています。
その保存と活用への模索が続いていますが、いまだに方向性は定まっていません。
旧香川県立体育館の見どころ(外観)
旧香川県立体育館は、周りに高い建物が少ないため、離れたところからでもその独特の形が目に入ってきます。
近づくと迫力ある姿に圧倒されます。「船の体育館」といわれますが、鯨のような巨大な生き物が手足を地につけて、そそり立っているようにも見えます。
最も目立つのは正面エントランスから、約20mにおよび上へ跳ねだした部分。
近くで見ると巨大な庇のような下部は、ワッフルスラブとよばれる格子状になっており、その裏側にはアリーナの観客席が階段状に設置されています。
この造形は、香川県庁舎東館の天井のデザインと共通性があるとのことです。
前方と後方のエントランス部分の両側4か所にある板状に見える柱と、長辺方向の側面の巨大な梁が建物を支えています。
この場所は海岸に近く、古くは塩田だった場所で地盤が弱いので、柱を少なく集中させてその下に杭が設置されています。
また、建物の両端が反りあがり、これが吊り屋根の構造になっています。両端からワイヤーが張られ、それにコンクリート板の天井が取り付けられています。
丹下健三氏は、日本刀の反りのような形を意識したともいわれています。
側面の梁には巨大な雨樋があり、その下には石庭が置かれています。
ここにある石は、イサム・ノグチの制作パートナーだった石彫家・和泉正敏氏によって配置されたもので、特異な形の体育館とよくマッチしています。
吊り屋根構造のため、内部には柱がありません。
内部の写真は撮れませんでしたので、丹下都市建築設計さんのWebサイトをご参照ください。
おわりに
旧香川県立体育館は、その独特の構造と形の建築が世界的にも高く評価されています。
2017年には米国のワールド・モニュメント財団により、「緊急に保存・修復などの措置が求められている文化遺産」に指定されています。
この建物が構造技術的にモダニズム建築として価値が高く、そして近代の日本や地域社会発展を物語る遺産として貴重であることが、その理由です。
一方、SANAAの設計による新たな県立体育館の建設が開始されており、2024年に開業予定となっています。
新旧の体育館が、価値ある建築として同時に見ることができるようになることを願っています。
参考資料
空間 構造 デザイン研究会 ・特別企画「船の体育館」(旧香川県立体育館)のいままでとこれから―再現計画から再生計画―(YouTube)
丹下健三 伝統と創造 –瀬戸内から世界へ (美術出版社)
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