『イーロン・ショック』
イーロン・マスクによるTwitter買収によって、「なにが起きたのか」を当時Twitter日本代表の立場からみた破壊と想像、イーロン・マスク、そして日本への学びという観点で書かれた本。笹本さんとは私の代理店時代にお会いさせて頂いたことがありますが、Twitterはグローバルの中でも日本のビジネスサイズが大きく、Twitter Japanのビジネスを大成功に導いた方です。詳しいことは、実際日本を読んで頂きたいと思うので、読んだ所感をここでは簡単に述べるに留めたい
振り子アプローチ:レイオフからの再雇用
印象的なのは、「右に寄りすぎているものを、一度左に大きく振ることで、中央に着地させる」という狙いがイーロンにはあるのではないかということ。これは、よく共感できる、またアプローチとして有効なアプローチだと思っている。右によりすぎているものをストレートに真ん中に戻そうとしたところで、抵抗力が働くため、真ん中に戻すことは困難んである。であれは、一度左に大きく振ってしまい、最終的に真ん中に戻れば良いという発想。イーロン・マスクが、やはりクレイジーだと思うのは、これをTwitterの買収後にあらゆる局面で実行してしまうという点だと思う。これは雇用というナイーブな面でも行われていた。一度レイオフを行い、やはり彼/彼女は必要だ、となると再度雇用するということをやっていた。これは実際に日本で、私の知人にも起きていたことで、世界中で起きていたようだ。一度レイオフされた社員が戻ってきて働いたときに会社に愛着を持って長く働いてくれるのか?という心理的な側面の理解の弱さはイーロン・マスクならではな気もする。
現実的な振り子アプローチのあるべき姿
実際にこの振り子アプローチを、やってみよう!という話になるかというとほとんどのケースでは実行できないというのが現実的だろう。こと、日本のカルチャーを鑑みた際に、まるで逆のことをやり始めたら想像できないくらいの反発・摩擦を生み、信頼関係を壊してしまうだろう。
では、実際に我々がどのように業務に取り入れることができるだろうというと、やはり議論の中で、「左右に話を振っていく」というのが現実的だろう。「そもそも。。。」「仮に。。。」みたいな枕詞をつけること担った議論にはなると思うが、これは非常に有益だとは思う。先のレイオフ・再雇用の議論であれば「仮にこの部署がなくなったらどうなる?」「仮に彼・彼女がいなくなったらどうなる?」「仮に7000人の社員が1000人になったらどうする?」といったエクササイズを繰り返して現実的な路線を探る。
イーロン・マスクからしたら鼻で笑ってしまうような話だとは思うが、イーロン・マスクのエッセンスを仮に現実に取り入れて活かすのであればこうしたアプローチが現実的だと思う。
定期的な抜本的な見直しの必要性
本書の中で、Twitterが7000人の社員数にも関わらず、SalesForceを4万アカウント契約していたことが発覚したという話がある。
イーロン・マスクのアプローチは、すべての経費の支払いを一度全てストップして、ひとつづつ見直すことで不必要なコストを削減すると言ったアプローチで、この中でこのSalesForceの契約もみつかったとのこと。経費の支払いを止めると不払いが発生し、企業としての社会的信用が落ちてしまうので、本アプローチが有効だとは思わない。
一方で、こうした「レガシー契約」というのはどの企業にも必ずあり、私も経験として「なんでこういう契約なんだっけ?」という経験は少なからずある。きっと当時はなにかの狙いや背景があるに違いないが、大概の場合は、当時の担当者が退職してしまっていたり、記憶が曖昧でわからない状態にあり、契約の見直しにまた時間をとられてしまうものである。
本書から思う外資系における本社教育の重要性
本書で描かれるイーロン・マスクは、米国ビジネスの立て直しに夢中で、海外事業への投資や注力をしない姿勢が強かったということのようだ。
ここで思うのは、いわゆる外資系企業での本社の教育の大切さである。日本市場は、米国市場とは当然異なる。それもかなりユニークな市場と言われることが多い。この日本市場のユニークさをしっかり本社に理解させ、同時にポテンシャルを確認して投資をさせていく。「カントリーマネージャー」というと、日本でのビジネスの陣頭指揮を執るイメージが強いが、同じ位、またそれ以上に重要なのはこの本社教育なのではないかと思う。これがしっかりとハマらないと、投資や日本市場開拓の戦略も実行に移せない。データで説明すると同時に本社の経営層の来日を促し、実際に顧客の声を見てもらい実感を醸成する。こうした地道な活動が実際には効いてくるのが、外資系の実際だと思う。