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観た映画の感想 #129『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を観ました。

監督、脚本:アレックス・ガーランド
出演:キルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニー、ソノヤ・ミズノ、ニック・オファーマン、ジェシー・プレモンス、他

連邦政府から19の州が離脱したアメリカでは、テキサス州とカリフォルニア州の同盟からなる「西部勢力」と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。就任3期目に突入した権威主義的な大統領は勝利が近いことをテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。戦場カメラマンのリーをはじめとする4人のジャーナリストは、14カ月にわたって一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューを行うべく、ニューヨークからホワイトハウスを目指して旅に出る。彼らは戦場と化した道を進むなかで、内戦の恐怖と狂気を目の当たりにしていく。
(映画.comより)

https://eiga.com/movie/101614/

A24って一風変わったホラーが多いじゃないですか。
アリ・アスターはずっとA24と長編作ってるし、タイ・ウェストの『マキシーン』三部作もあるし、それこそアレックス・ガーランド監督も『MEN』とか作ってるし。『エクス・マキナ』も捉えようによってはSFホラーかな?

そういう一連のホラー作品と比べても今作は圧倒的に怖いし、それどころかここ数年で観た映画の中でもトップクラスに怖い映画でした。心だけでなく体にもずしんと来る怖さというか、よく出来てるんだけど簡単に「いやー良い映画だったなー」とかって消費できない怖さというか。

戦争映画の中でも「戦場にいきなりポンと放り込まれる感覚を強制疑似体験させてくる」タイプの映画っていくつもありますけど、そのジャンルの過去の名作と比べても臨場感が頭一つ抜けてるように思いました。

なんでかっていうと銃声がとにかく怖い。
僕が観た回はIMAXでもドルビーシネマでもない普通のスクリーンでしたけど、それでもこんなの今まで聞いたことないなってくらい銃声が重かった。銃撃戦のシーンもだし、突然狙撃されるシーンも多いうえにそういう銃声だから一瞬も気が休まらないんですよ。(前に何かの感想でも書いたけど僕は映画において、登場人物が何でもないやり取りとかをしてる最中に画角の外から突然狙撃されて死ぬシチュエーションが本当に苦手です)

銃関連でいうともう一つ、銃を持った相手と向き合うことの怖さが半端じゃない。ガソリンスタンドを縄張りにしてる奴らと交渉して給油する間もそいつらは銃を手に持ったままだし、スタンドの裏手でそいつらが言うところの「略奪者」が拷問されているのを見ても「あいつらはどうせ殺す」って言って給油が終わったらさっさと出ていく。これ要は銃で武装してて明確に誰かを害する意志を持ってる奴とは争っても無駄、というかそもそも争うことが無駄ってことじゃないですか。

あとはもうジェシー・プレモンスが演じてるレイシストの軍人(?)よ。
あいつ今まで見たどの映画の殺人犯より怖かった。いやほんとに。
あの場面であいつが殺してるのは「どの種類のアメリカ人」でもないアジア系の二人組で、日本人の自分にとっては「もし自分があの場にいたら間違いなく同じことになってる」って恐怖を叩きつけられるシーンでもあって。

そもそもあいつ正規の軍人かどうかもだいぶ怪しいんですよ。
穴掘って埋めてた死体の山も有色人種だけってわけじゃなくて白人も女性もいたし、変に拗らせちゃったミリオタか何かだと思うんですよね。
でも市民が銃を持てるアメリカなら、国がああいう状態になってしまった時に誰もがそれぞれの「俺の正義」を問答無用で実現できるようになってしまう。もちろん日本でだってそういう国民が生まれないとは全く言えないし(別に武器が銃である必要は全くないので)、過去にそういうことがあった歴史もあるけれど、やっぱり「誰でも銃を持てる」って重いですよ。

役者陣も(当たり前ですけど)みんな上手くて、戦場を撮り続けることで「死」に慣れてしまった(ことにして自分を守ろうとしているように見える)キルステン・ダンスト演じるリーと、ケイリー・スピーニー演じるジェシーが対、というか反比例みたいな関係なのがまた。

戦火の中心に向かっていくにつれてリーが人間らしさを取り戻して脆くなっていくのと対照的に、ジェシーは戦場にどんどん慣れていく。
映画の序盤でジェシーが「私が死んだらその瞬間を撮るの?」ってリーに聞くくだりがあって、その後でリーはサミーの遺体の写真を消すじゃないですか。親しい人を「素材」にはできないっていう、ある意味ではリーが最後まで持ってた僅かな人間らしさの表れだと思うんですが、逆にジェシーはリーの最後の瞬間を撮る。要は「完全に”そっち側”の人間になってしまった」文脈なんで、やっぱりホラーなんですよ、これ。
ケイリー・スピーニー、『エイリアン ロムルス』と本作で完全に新作が劇場公開されたらとりあえず観たい俳優の一人になりました。

国が分裂して内戦状態になる、って(少なくとも今の)日本だとイメージが湧きにくいし、そういう意味ではこの映画の本当の怖さってアメリカ人、もしくは実際にアメリカで暮らしている人にしか十全には分からないのかもしれないけど、先述したジェシー・プレモンスのシーンみたいに自分ごととして想像できる場面はいくつもあったし、もし本当にアメリカがこんな風にダメになったらその時日本は……中国は……ロシアは……中東は……って考えてしまう映画でもあったと思うんですよ。その点では決して他人事にはさせない映画だったし、重いけど観て良かったと思います。傑作です。

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