観た映画の感想 #31『べネシアフレニア』
『べネシアフレニア』を観ました。
殺人鬼とかモンスターが出てきて次々に人を殺していく系の映画って、主人公側を応援したくなるタイプの映画と殺人鬼側を応援したくなるタイプの映画があると思います。
思うに前者と後者を分ける境界線は主人公の好感度で、主人公が単純にイイ奴だったりカッコよかったり可愛かったり、あとは襲われる理由が特にない(理不尽な暴力に突然見舞われる系)だと主人公を応援したくなるし、逆に無駄に騒がしかったり愚かだったりクズだったりすると殺人鬼側にいけー! やれー! もっところせー! って言いたくなる。
(※あくまでフィクション上の登場人物に対しての話であって、僕は現実の人物にそんなことを言うような人間ではありません。念の為)
その観点でいくと本作は間違いなく後者の作品で、もう主人公たち一行の観光マナーが本当にヒドイわけですよ。船の中でも馬鹿騒ぎするし、ホテルのフロントさんの説明もロクに聞かずに勝手に部屋に行くし、明らかに落ち着いた雰囲気のレストランなのにまた馬鹿騒ぎするし、パブでは食い逃げまでするし……
今作、殺人鬼”たち”の正体というかディテールはかなり早い段階で明らかになるんですけど、むしろ殺人鬼以上に主人公達のアレな振る舞いを目の当たりにしたヴェネツィアの市民たちの態度にこそホラー的な怖さがあるんですよ。どの市民たちもある瞬間からスッ……と感情が冷えるのが彼らの目で分かるし、ある人物が殺されるシーンでは目の前で殺人が行われているのにまるで無関心だったり。
一方の殺人鬼陣営はといえば、キービジュアルにも登場しているモンスター風ペストマスクの奴とか主に殺人の実働部隊であるピエロ風の奴、それ以外のメンバー含めたビジュアルの決まりっぷりがまず最高だし、彼らがアジトにしているとある場所に集合してああだこうだやってる場面なんかもその場所のディテールも含めて悪の秘密結社みたいなキャッチーさがあって個人的にはすごく好きでした。
実際に現地に行かなきゃ分からないようなヴェネツィアの裏路地の描写とかも良かったんですけど、シナリオ的には期待値を上げすぎちゃったかなあというのが正直なところ。
そもそも僕が殺人鬼応援モードで観たからっていうのもあるんですが、もっと派手に殺してくれてもよかったと思うんですよ。それこそシナリオ上でヴェネツィアを蝕むオーバーツーリズム(キャパシティ以上の観光客が押し寄せることで観光地に様々な問題が発生すること)の象徴として大量の観光客を運んでくる豪華客船が登場しますけど、殺人鬼達の背景を考えたらあんなの爆破して沈めるくらいの凶行に出てもいいと思うし、実現できるかどうかは別としてそういう計画が映画の中に登場してもよかったと思う。
だけど最終的に彼らがやったことってサミットに合わせて自らの主張を動画で流すだけ、言ってみればただの問題提起なわけで、ええーそれはさすがにしょっぱすぎやしませんか……?
最後の最後も投げっぱなしに感じるし、とにかく終盤の尻すぼみ感が凄い。
ディテールとか作品のテーマは本当に良かったと思うんで、つくづく惜しい一本だったかなあ……