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観た映画の感想 #103『パスト ライブス/再会』

『パスト ライブス/再会』を観ました。

監督、脚本:セリーヌ・ソン
出演:グレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロ、他

韓国・ソウルに暮らす12歳の少女ノラと少年ヘソンは、互いに恋心を抱いていたが、ノラの海外移住により離れ離れになってしまう。12年後、24歳になり、ニューヨークとソウルでそれぞれの人生を歩んでいた2人は、オンラインで再会を果たすが、互いを思い合っていながらも再びすれ違ってしまう。そして12年後の36歳、ノラは作家のアーサーと結婚していた。ヘソンはそのことを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークを訪れ、2人はやっとめぐり合うのだが……。
(映画.comより)

https://eiga.com/movie/98820/

「良い映画観たなあ~~~~……」という余韻の長さと深さは今のところ今年観た映画で一番です。今年の年間ベストにも余裕で入ると思う。
いやもうね、本当に良い映画でした……

「離れ離れになってしまった幼なじみと大人になってから再会する」という、説明するとそれだけのシンプルな話なのに、人物のエモーションの込められ方も濃いし、ノラとヘソン、ノラとアーサーそれぞれの「この二人にしかない関係性」の積み上げ方、見せ方もとにかく丁寧で。セリーヌ・ソン監督、これが長編デビュー作だってのが信じられないくらい映画が上手い。

映画の始まり方からしてもう「これはちょっと凄いのがきたぞ……」っていう始まり方だったんですよ。
バーカウンターに座ってるアジア人の男女と白人の3人組を映すショットから始まって、そこに

「あの3人はどんな関係なんだろう?」
「アジア人の二人が恋人でアメリカ人は二人の友人じゃない? アメリカ人は喋ってないし」
「いや、アジア人の女とアメリカ人が恋人でアジア人の男が二人の友達かな」
「アジア人の観光客とそのガイドかも」
「朝4時のバーで?」

みたいな会話がかぶさる。つまりカメラの正体はノラ達3人を見ているバーの他の客の視点だってことが分かるんですけど、ここでカメラ=他の客が言ってることって映画を観てる観客が感じることでもあるんですよね。映画の主人公たちへの「この人たちどういう関係?」という謎を提示しつつ、映画を観ていけばいつかは辿り着くであろうシーンのチラ見せも同時に片付ける。これ本当に演出が上手くないですか!?

ノラとヘソンの再会までにも、この二人の間にしかない関係性の積み重ねというのが丁寧に丁寧に描写されていくわけですけど、それは同時に「韓国系アメリカ人になっていくノラ」と「韓国人のままのヘソン」の違いを少しずつ浮き彫りにしていく過程でもあって、それが決定的に分かってしまうのは皮肉にも再会が叶った時です。

24年ぶりの再会で、多少のぎこちなさはありつつもノラはすんなりとハグを交わすけどヘソンは戸惑うんですよ。あれ、ノラはもう長いこと欧米のコミュニティで生きてる人だから親愛のハグって当たり前の行為になってるけど、ずっと韓国にいたヘソンにとってはそうではないってことで。

その後の会話でヘソンにも彼女がいたけど、彼の家族構成や収入面での問題で結婚には至れなくて距離を置いてるって話になった時にノラは「結婚すればいいのに」って言うんですね、まるで「結婚するのにそんなこと何の問題があるの?」って感じで。これもノラがもう「韓国の韓国人」ではないってことで。なぜなら彼女は子供の頃に移住してるので、韓国では結婚とはどういうものかを知らないからなんですよね。24年間会ってなくても二人は通じ合ってるけど、同時にもうお互いにいるべき世界が変わってしまっているというのが言葉の端々から伝わってくるんです。

ノラのアメリカ人の夫・アーサーもこの手の話だと嫌な奴だったり悪い奴の立ち回りをさせられがちですけどそんなこと全くなくて、むしろ彼は彼で本当に良い奴なのもまた良くて、同時に心苦しくもあって。

彼らが暮らすアパートにヘソンがやって来た時、「はじめまして」を英語で言うのもぎこちないヘソンに対してアーサーは韓国語の挨拶をサラッと返すんです。これだけで彼がノラを知るため、ノラの家族に歩み寄るためにずっと努力をしてきたことが分かるわけですよ……!
正直、ここらへんからはずっとアーサーに肩入れしながら見てたくらいで。「頼むからこの人を泣かせないでくれ……! 駆け落ちとか絶対しないでくれ……!」って(笑

どんな結末になったかまではここで詳しくは書きません。
これは是非自分の目と心で確かめて欲しい。そして余韻に浸って欲しい。

あと、A24の映画ってA24の映画っぽいトーンがどの作品にもあると思うんですけど、今作はそれがバッチリとハマってました。具体的に言うと夕暮れ時とか夕焼けのシーンの美しさが本当に素晴らしかった。

『アフターサン』を観た時も「シャーロット・ウェルズ監督、これが長編デビューってマジ!?!?」って驚いたもんですけど、それに匹敵する驚きと「こんなに良い映画を見せてくれてありがとう……!」という気持ちがあります。セリーヌ・ソン監督、また一人今後が本当に楽しみな監督に出会ってしまった。

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