映画感想 #141『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』
『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』を観ました。
グラディエーター、24年ぶりのまさかの続編。
映画自体の感想の前に一つ明確な不満点として、前作に続いてパンフレットの制作がないってちょっとどういうことなんですか!! リドスコの新作にパンフレットがないってちょっと!!
特に今回は近年の大作洋画にしては珍しく俳優陣も来日しての大々的なレッドカーペットもやってたりプロモーションにもかなり力が入ってる印象だったので、そこが抜けちゃってるのはちょっとなー……
ただ!
映画の中身は本当に最高でした。
「大きなスクリーンで観る喜びのある超スケールの映画」としての完成度も、グラディエーターの続編としての完成度も一級品だし、なおかつ単体の作品としての出来栄えもさることながら1作目超えたPart2(アトロク的文脈)としてもトップクラスの一作なんじゃないかなと思います。リドスコ御大、86歳にして自身のキャリアハイを更新してしまった感すらある観賞体験でした。この歳に至ってまだここまでキレッキレの映画を作れるんなら、そりゃタランティーノに「引退とか言ってないで映画を撮れ」って説教したくなるのも納得です。
まずオープニングからタイトルが出るまでがもうカッコイイ。
グラディエーター1作目のクライマックス、マキシマスとコモドゥスの決闘シーンが絵画調に編集されてスピーディーに流れていって、劇伴の盛り上がりが最高潮に達した時に『GRADIATOR』の文字が浮かび上がり、更に”I”が二つに分かれて”Ⅱ”に。ここだけでテンション爆上がり。
その後も、普通の映画ならクライマックスになるような見せ場が何度もある。物語最序盤の戦争のシーンだって『バーフバリ』のクライマックスでやってたような「城壁を挟んだ攻防戦」。”あの”バーフバリが最後にやってたようなシーンをイントロ的にやる(笑)
もちろんそこがピークなわけもなく、
「えっ!? 騎サイ兵と勝負!?!?」
「えっ!? コロッセオをサメつきの巨大プールにして海戦!?!?」
とか、見たこともない絵面を次々と繰り出してくるので全くテンションが落ちないんですよね。
それでいて、話運びの整理整頓も巧みで上映時間約150分が全く冗長に感じない。
主人公のルシアスが1作目でルッシラと一緒にいた子供ってことは皇帝直系の血筋なわけで、そんな人がなぜ誰にも知られず辺境の地で奥さんと暮らしててあまつさえ戦争捕虜になってるのかって設定、事前情報を見た時は正直いくらなんでも無理があるだろって思ってたんですけど、そこも細かい回想を手際よくいくつも挟むことで丁寧に理屈をつけていくし、
(そもそも史実としての正しさよりもエンタメ性を取るってリドスコが歴史ものをやる時の手癖ですし、グラディエーター1作目がまさにそういう映画だったわけで)
一方でルシアスの”当面の敵”アカシウス将軍に関しても「やりたくもない侵略戦争をずっとやらされ続けている人」だってことが最初の戦争シーンではっきり明示されているんですよね。それも戦死者の死体を一カ所に集めて焼く時に松明を投げ入れるのを一瞬ためらう表情だったり、誰にも聞こえないように祈りを捧げる短い台詞だったり、シーンの流れの上で自然に示す。
こういう手際の良さも本当に上手いところでした。
1作目を発展させた2作目、という意味では前作のマルクス・アウレリウス帝に「いくら善政を敷こうとした人だって言ってもローマ皇帝である以上は帝国のシステムの恩恵を享受しているんだろ」って相対化が入るのも、その負の一面の具現化たる”元・皇帝の奴隷”マクリヌスが作中最大の敵になるのも納得ですよね。あのキャラクターをデンゼル・ワシントンが全編に渡って相対する俳優を食う勢いで演じきっててさすがだなーと思いつつ、ところどころで『イコライザー』のマッコールさんっぽさが滲み出てる場面もあってそこはちょっと笑っちゃいました。
(個人的には皇帝暗殺の場面より、執政官に任命された元老院でゲタの首をテーブルに置きながら議員たちを恫喝するシーンにめちゃくちゃマッコールさんみを感じました。ああいう脅し方よくやりますよね、マッコールさん)
ポール・メスカルもあまりこの手のメジャー大作に出るイメージは今までなかったけど、めちゃくちゃ体作りこんで見栄えのする人になってましたし、演技力はもう言わずもがななのでベテラン勢との演技合戦も見ていて楽しかった。
繰り返しになりますが、こんなにも大きなスクリーンで観る喜びに満ちた映画ってここ最近ではちょっとなかったんじゃないかと思います。1回目はIMAXで観たんですが、時間作って他の上映形態とか吹き替えでも繰り返し観たいですね。