観た映画の感想 #62『ランガスタラム』
『ランガスタラム』を観ました。
『RRR』の大ヒットで日本でもすっかりスターの地位を確立した感があるラーム・チャランの、RRRの2つ前の主演作。インド本国での公開が2018年なので少し古い映画な上に日本で上映が開始されたのが今年の7月から(と言っても本国と日本での公開日にこれくらい間が空くことはインド映画だとよくあることな気もします)、更に僕が住んでる街の劇場でも観られるようになったのが9月に入ってから、それも上映が終わるかどうかっていうギリギリのタイミングだったんですがなんとか観ることができました。
感想を簡潔に言うと「すっげーおもしれー!」って部分と「いや、ちょっとそれは……どうなんだ……?」って部分がはっきりと分かれてる映画だなあ、という感じ。より正確に言うなら面白い部分もあるんだけど、それ以上にノイズになっちゃう部分が多いなあ、って感じでしょうか。
一番ノイズになったのは主人公・チッティの人物描写というか性格についてなんですけど、あらすじにもある通り彼は難聴なので「声」を使った他人とのコミュニケーションに少なくない不便さを抱えてる人間なんですが、物語のかなり早い段階で兄に補聴器をプレゼントされているんですね。ところが「耳が聞こえない人間だと思われたくない」という理由で物語のある段階までは補聴器を使うことを頑なに拒んでいるわけです。
で、劇中でチッティが引き起こすトラブルだったり見舞われる悲劇っていくつもあるんですけど、それらって全部耳が聞こえていれば、つまり補聴器を使っていたら防げたものなんですよね……
「障がい者だと思われたくない」っていう心理それ自体は障がいを持つ人間として一定のリアリティがあるものかもしれないけど、でも劇中のチッティって別に自身の難聴を隠してるわけでもないんですよね。聞き取りにくい言葉を「通訳」してもらうための舎弟もいるし、村の人たちの中にもチッティに話しかける時に大声になる人もいるし。なので余計に「難聴だけど陽気な若者」っていう人物描写と「頑なに補聴器を使わない頑固者」っていう性格が乖離しているように見えちゃって……
あとは物語が終盤に入ると「仇討ち」が目的になっていくんですけど、それにしたってあまりにも殺人に躊躇がなさすぎやしないかというのも少々。
同じように人をサクサク殺していくインド映画でも例えば『バーフバリ』は架空の古代王朝が舞台で一種の神話とかファンタジーとして見られるし、『RRR』は植民地支配という圧倒的な悪逆に対するレジスタンスというこれまた圧倒的に切実な動機があるから感情移入する余地も多分にあると思うんですけど、今作の場合はいくら旧態依然とした支配体制が根強く残っているとは言っても80年代だし、そんなに死体の山を作って後には一切何もなしってちょっと……大丈夫なん……? みたいな……
アクションシーンの一つ一つは非常にパワフルで見ごたえがあってそれ自体は楽しかったんですけど、同時に頭の片隅にノイズが引っかかっちゃう。
他のアクション映画、例えば『コマンドー』観てて(クックの死体って誰が片づけたんだろう……やっぱり乱入された隣室のカップルが通報したのかな……)みたいなこといちいち気にするかって言われたら全くそんなことはないんで、やっぱり僕がチッティという人物にノりきれなかったのが問題なんだろうなあ……
なんか良くなかったところばかり書き連ねてますけど、好きなところもあるんですよ。川幅が広すぎて対岸がちょっとした内海くらいの遠さになってる川とかどこまでも続く山と平原みたいな、ロケーションの圧倒的なでかさ(と、それを全て自国の中で賄える国土のスケール感)とか、とにかく大人数で派手なダンスシーンとかシンプルに「ここはすげー楽しい!」って思いましたし。チッティのお母さん何処かで見たことある顔だなーと思ってたら『バーフバリ』でシブドゥの養母だった人だったりとか、インド映画でも俳優のフィルモグラフィが頭の中で繋がっていってるのを実感できたのも楽しかったし。
つまらないと切り捨てるには勿体ない映画ではありましたし、期待値をちょっと上げ過ぎたのかもしれないですね。上手くノれなかった作品の感想って……難しいな……!