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映画感想 #139『動物界』

『動物界』を観ました。

監督:トマ・カイエ
脚本:トマ・カイエ、ポリーヌ・ミュニエ
出演:ロマン・デュリス、ポール・キルシェ、アデル・エグザルコプロス、トム・メルシエ、ビリー・ブラン、サーディア・ベンタイブ、ナタリー・リシャール、他

近未来。原因不明の突然変異により、人間の身体が徐々に動物と化していく奇病が蔓延していた。さまざまな種類の“新生物”は凶暴性を持つため施設で隔離されており、フランソワの妻ラナもそのひとりだった。ある日、新生物たちの移送中に事故が起こり、彼らが野に放たれてしまう。フランソワと16歳の息子エミールは行方不明となったラナを捜すが、次第にエミールの身体に変化が起こり始める。
(映画.comより)

https://eiga.com/movie/101543/

予告の時点では行方をくらませたお母さんを探す父と子のロードムービー的な映画なのかと思ってたんですが、実際観てみると想像とはかなり違う一本でした。

ざっくり感じたのは「超能力者じゃない版のX-MEN」みたいな映画だなって印象と、そこに「ある日突然家族がマイノリティの側になっちゃった時、まだマジョリティ側にいるほうの家族はどうするか」っていう家族の絆再生ものとでも言うようなテイストが混ざった感じというか。

映画の冒頭で鳥になりかけてる人間が飛び出してくる車、最初は漠然と「救急車なのかな」って思って観てたら、その後にフランソワとエミールが(医者のことをどの程度信じているかは別として)ラナの「新しい治療」について話し合うシーンがある。つまりこの世界では動物化は治療の可能性がある病気として捉えられてるんだなって認識し始めたところで、なんか様子がおかしいな……ってことが分かってくる。

動物化している人間の呼び方が「新生物」「獣」の2通りあって、差別的な態度の人は「獣」って呼んでるとか、あとは劇中で事故を起こした新生物を移送している車の設計とか治療のための施設に「隔離」「収容」のニュアンスが見えてくるとか。こういう「特殊な何かが発現した側が被差別民」って世界のバランスとかX-MENっぽい。

(余談ですけど、鳥人間のフィクスが空を飛ぶ練習を重ねて遂に成功するまでのくだり、『X-MEN ファースト・ジェネレーション』でバンシーが空を飛べるようになるまでのシーンそっくりだったのもX-MENっぽいなーと思った理由の一つ)

観客はフランソワとエミールを通して劇中の世界を見てるので、動物化した家族を持つ人とか動物化していく人のほうに肩入れしていく感じで見るような構造の映画になってるんですけど、一方で「これと本当に共存できるのか……?」ってことを絶えず観客に向けて試してくるような映画でもあるんですよね。

様々な種類の動物化した人間が出てきますけど、どれも急に目の前に現れると結構ギョッとする造形なんです。画面に出てくる時の演出がまたホラー的なのも相まって、異物感がすごいというか。そもそもエミールも動物化した母に襲われて怪我をしたという経験がある子だし、いくらフランソワとエミールの立場に肩入れしてると言ってもどうやって共存していけば……? ってなる。

フランソワも「妻を取り戻す」という動機でずっと行動してるけど、それはあくまで「家族は一緒でなければ」っていうところが大きくて、動物化それ自体に関してはあまり良い印象も抱いてないように見える。でもエミールにも動物化の兆候が表れたと分かった時、少しずつ段階を経ながらも態度が軟化していって最後には序盤とは全く違った意味で「家族だからこそ」の決断をとるわけですよ。そこはグッときました。
しかもその決断に至る前段階として、恐らく完全に動物化してしまったラナであろう人とエミールが出会うくだりがあるじゃないですか。あの場面で起きたことも、フランソワの決断の補完になってて。

あまりシネコンでかかるタイプの映画じゃないと思うんですけど、だからこそ映画館で観てよかった一作。キャストもみんなよくて、特にエミール役のポール・キルシェさんが最初から最後まで本当に素晴らしかったので今後もいろんな映画で演技を拝見したいです。
あと音楽も良かった!

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