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観た映画の感想 #21『エスター ファースト・キル』
『エスター ファースト・キル』を観ました。
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2007年、アメリカで暮らすオルブライト家は、4年前に6歳で行方不明となった愛娘エスターの失踪事件に今なお心を痛めていた。そんなある日、エスターが保護されたという思いがけない知らせが夫妻のもとに届く。この奇跡のような出来事を手放しで喜ぶ一家。驚くほど成長したエスターは聡明で才能も豊か。画家の父親に昔以上にべったりだった。また、あの幸せな時が帰ってくるー。
(公式サイトより)
まず、この感想は前作の『エスター』を観ていることを前提として書くので、まだ1作目を観てないけど観ようと思ってる方(そう思っててこの記事を最後まで読む人は多分いないと思いますが)は今すぐにブラウザバックをして何も情報を入れずに『エスター』を観て下さい。
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レビュー等には一切触れずに再生ボタンを押すのだ!
というわけで。
一作目の『エスター』って、ホラー映画的な演出の上手さとか俳優陣の演技のよさも勿論あるんですが、シナリオ的には「えっ、そういうコトだったの!?」っていう種明かしの部分に物語としての衝撃が全て詰まってるような映画で、その種明かしが全て完了してる状態で続編作って果たしてホラーになるのか……? って疑問は正直あったんですよ、観る前は。
じゃあどうすればいいのかというと答えは単純で、前回とは全く違う方向性の「えっ、そういうコトだったの!?」っていう映画にすればよいと。
一作目の終盤で「えっ、そういう(略)があったように、今作でも中盤で全く予想がつかない「えっ、そういう(略)があるんですが、そこから映画のテイストもガラッと変わるのが今作の面白いところ。
そもそも一作目の『エスター』は主人公がお母さんでエスターは彼女の家に入り込んだストレンジャー。だけど今回はエスターが主人公なので作中の目線も彼女のものだし、身をよせる「家」が言ってみれば異界になる。
要するに一作目の「こいつ絶対におかしいのに誰も信じてくれない……!」っていう怖さを逆転させたとも言えるわけで、見ようによっては全く予期せぬ恐怖に巻き込まれてしまったエスターを応援したくなっちゃう展開にもなってると。そこだけ見るとむしろ『ミザリー』とか『ドント・ブリーズ』みたいな”ヤバい奴に監禁されちゃって大変な目に遭う”系の映画だし、「化け物(激ヤバサイコパス)には化け物(別の激ヤバサイコパス)ぶつけんだよ!!」的展開という意味では貞子vs伽耶子とかフレディvsジェイソンみたいな映画でもあったり。作品の風向きが変わった中盤以降のエスターと一家(というかお母さんとバカ息子)の腹の探り合いとか、前作を知ってる人にはコメディ的ですらあると思う。
とは言え、真っ当なホラー映画的怖さもちゃんと押さえていて、特に冒頭の精神病院でのひと騒動なんかはエスターがどういう人間なのかが分かっているからこその怖さが詰まってましたし、オルブライト家に入ってからも気味の悪さを引き立てるようなカメラワークが上手かった。前作に繋がる要素(一度引き取られたアメリカの家が焼けたとか、絵が上手いとか)も過不足なく拾われていて、予想以上に満足度の高い続編でした。
で、ここからは蛇足なんですが。
今作を観てから改めて一作目を観直すと、”ファースト・キル”の時にやってた失敗を一作目でも全部やってることになってるんですよね、エスター。基本的に計画性ないし、場当たり的に人を殺すし、惚れっぽさに足元を掬われる。こいつまるで反省していない……
ただまあそれも当然といえば当然で、結局エスターって大人の女として愛して欲しい、自由が欲しいってだけの人だから。レクター博士みたいな頭脳派ではまるでないわけで。
そう考えると、たった2作でこれだけ強烈なインパクトを残せたってことは映画史の中の殺人鬼としてはかなり完成度の高いキャラクターなんじゃないでしょうか。これ以上の続編はもう(脚本的にもそうだし、演じるイザベル・ファーマンさんの年齢的にも)無理があろうかと思いますが、名キャラクターを拝めるホラーとして2作とも好きな映画になりました。