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映画感想 #133『2度目のはなればなれ』

『2度目のはなればなれ』を観ました。

監督:オリヴァー・パーカー
脚本:ウィリアム・アイボリー
出演:マイケル・ケイン、グレンダ・ジャクソン、ジョン・スタンディング、ダニエル・ヴィタリス、ヴィクター・オシン、ウィル・フレッチャー、ローラ・マーカス、エリオット・ノーマン、他

2014年、夏。イギリス、ブライトンの老人ホームで暮らす老夫婦バーナード(バーニー)とレネは、互いに寄り添いながら人生最期の日々を過ごしていた。ある日、バーナードはフランスのノルマンディーへ向かってひとり旅立つが、彼が行方不明だという警察のSNS投稿をきっかけに、世界中で大きなニュースとなってしまう。バーナードとレネが離ればなれになるのは、今回が人生で2度目だった。決して離れないと誓っていたバーナードがレネを置いて旅に出たのには、ある理由があった。
(映画.comより)

https://eiga.com/movie/101921/

マイケル・ケインの俳優引退作にしてグレンダ・ジャクソンの遺作。
個人的にはとりわけマイケル・ケインの引退作ということで絶対に観たかった一作でした。

それ以外の事前情報は特に入れずに観に行ったんですが、なんとなく老夫婦のハートウォーミングなコメディなのかと予想してたら思いのほか硬派でビターな帰還兵・退役軍人ものでちょっと意表をつかれましたね。

映画が始まってすぐに明らかになることなんでネタバレでもないと思うんですが、バーニーが一人で旅に出た理由はノルマンディー上陸作戦の70周年記念式典に参加するため。70年も経っているのに、今でも当時の記憶がフラッシュバックするほどバーニーにとっては戦争の経験というものが深い傷になっている。

それは他の式典参加者も同じで、道中で出会って以降ずっと行動を共にすることになるアーサーはアルコール依存症に苦しんでいるし、式典会場近くのバーに集まっていた元ドイツ兵の人たちにも同じ苦しみがあって。
バーニーが彼らと話すと決めて席を共にした時、お互いに当時の所属を告げただけで元ドイツ兵のひとりが何も言えなくなってしまったのを、バーニーも何も言わずに手を取るシーンの、台詞ではなく表情と仕草だけで見せるお芝居の情報量の多さが本当に素晴らしくて。
当時の関係は敵同士だけど抱える痛みは同じ、殺すか殺されるか。
ここは本当にこの映画の白眉の一つ。

バーニーがそういう思いを抱えてきたことを知っているから、自分の体調のことも知らせずに彼を送り出すレネの思いというのもまた重い。老人ホームが舞台になる彼女のパートで時折挟まれる、若い頃の思い出の美しさ。
それと隣り合わせの戦争の記憶。工場で働いている時に軍人がやってきて、自分の前を通り過ぎて行くのを見て一度は安堵するけれど、奥で別の女性が泣き崩れるのを見てあの軍人が何のために来たのかが分かる。特に説明しなくても戦争の悲劇性が分かるシーンだし、レネもまた戦争の恐怖とずっと戦っていたわけですよね。

それだけの間ずっと抱えてきた思い(正確には式典に参加すること自体が目的ではなかったんですが、それはここでは伏せます)にある意味で一つのけじめをつける、バーニーにとっては本当に重い旅だったのに、マスコミは「退役軍人の一世一代の大冒険」的な文脈に落とし込んでしまう。退役軍人の目を通して反戦のメッセージを込めつつ、当事者の思いを全く無視して「感動的な実話」にしたがるマスコミとその手の作り物語りをありがたがる大衆にきっちりと釘を刺すのも忘れない。

本作でバーニーは外を歩く時は歩行器を使って、室内では杖をついたり手すりに掴まったりしてゆっくり、一歩一歩を振り絞るように歩くわけです。
彼が歩いてるシーンだけで何度も泣けてきたんですよね。こうやって歩いて行った先にバーニーの旅の終わりがあって、それはすなわち演じるマイケル・ケインの俳優人生の終わりに向かっていく歩みでもあって。

世代的に、最も印象深い「老紳士」俳優の一人。
今までありがとうございます、そして本当にお疲れ様でした。
(ノーランの映画とかにしれっと出演してくださってもいいんですよ……!)

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