観た映画の感想 #44『ブラック・デーモン 絶体絶命』
『ブラック・デーモン 絶体絶命』を観ました。
地上最強のハゲことジェイソン・ステイサムと絶滅したはずの巨大ザメ・メガロドンが殺し合いをするというとんでもない異種格闘技映画『MEG』の続編が8月に劇場公開されますね。ステイサムvsサメ、字面だけ見ると出オチ感凄まじいけど続編作れるくらいには当たってたんだなあ……でもまあステイサムと何か(もはや”誰か”ではない)が戦う映画はなんぼあってもいいので。
それはさておき、本作は『MEG2』に先駆けての公開となったメガロドン映画です。そこまで熱心にジャンルを追ってるわけでもないですが、サメ映画といったら粗製乱造モンスターパニックムービーの代表格みたいなイメージがある人も(かく言う自分も含めて)少なくないとは思います。だけど本作は少なくともそういうツッコミ入れながら観るのがデフォみたいなやつではないし、相当しっかり作られてる映画でした。
まず、サメが吠えないんですよ。何を言ってるんだって感じなんですが。
結構お金かかってるほうの映画でもサメが怪獣みたいに吠えてるやつって結構あると思うんですけど、今作は本当にサメが一度も吠えない。この時点でサメのリアリティ案外しっかりしてる! って思ったわけです。
とはいえ今回のサメは作中でも言及されている通り、アステカ神話の神・トラロックの化身という設定だし、幻覚を見せて精神攻撃をしかけてくる(!)という異能持ちなので、生物としてのリアリティがどうこう言っても仕方ないところは勿論あるんですけど……
でもこれもサメが幻覚を見せているようにも見えるし、錯乱した人間側が勝手に幻覚を見ているともとれるような絶妙な塩梅なのがまた演出の匙加減が上手いんですよこれが。なのでサメ映画としても観られるし、外界から遮断された空間に閉じ込められるワンシチュエーションスリラーとしても観られるし、神話ベースの民間伝承を元にした海洋ホラーとしても観られるという。一粒で三度おいしい!
CGのクオリティもそんなに気にならない……というか、本作におけるサメの主戦場たる海中は漏出している原油がところどころ煙幕状に漂っていて視界がよくないし、サメもそういう影から襲いかかってくるのがほとんどなので粗があったとしても目立たないように工夫されている。不自然さで言うならむしろ人間とセットの合成が浮いてるなって思った箇所のほうが多かったくらいで。
あとは音楽が良かった。
なんでもないような移動のシーンとか会話のシーンでも結構印象強めのBGMが流れ続けてるんですけど、これがメロディがしっかりありつつ重苦しい雰囲気の音楽で個人的に非常に好みでした。この音楽、何かに似てるなーって映画を観てる間ずっと考えてたんですけどフロムゲーのBGMにすごくテイストが似てる。エルデンリングのアルター高原の曲にラテンパーカッションを少し加えたみたいな感じ。終盤になるとこれにクワイアが加わって宗教音楽っぽい雰囲気も出てくるんですけど、これは同じくエルデンリングのローデイルの曲っぽい感じ。
本作はモンスター映画にありがちな、次から次へと問題が発生してパニックを起こした人間がヒステリックに騒いで更に状況が悪化して……っていう感じの、物語がハイテンションにロールしていく映画ではなくて、むしろ一つ一つのハプニングとその間の人物描写をじっとり見せていくタイプの映画なんですけど、そういう重いムードを醸し出すのに音楽が寄与してる部分ってかなり大きいと思います。
あとは作中の舞台に全体的に漂う渇いた寂びれ感とでも言いましょうか。本当に廃れきって街全体から活気というものがなくなってしまった限界集落的な雰囲気というのもサメ映画としては珍しいんじゃないかなと思います。ここらへんはさすが『ランボー ラスト・ブラッド』の監督ってところじゃないでしょうか。
そもそもがジャンル映画だしツッコミどころもあるにはあるし(特に下の子のそれ普通に犯罪なのでは……というとある行動についてとか)、サメ映画に何を求めるかによっては物足りないって人もいる映画だとは思うんですが、僕は普通に楽しめました。こういう気軽に観てあー楽しかったって思えるくらいの丁度いい映画はなんぼあってもいい。
あ、あと最後にものすごく重大なネタバレが一つ。
犬は無事です。