観た映画の感想 #66『コカイン・ベア』
『コカイン・ベア』を観ました。
「コカインを食べてキマった熊が無差別に人を殺していく話」って言うとまるでア〇イラムのB級ホラーみたいなシナリオだけど、熊がコカインを食べてキマっちゃうところまでは実話だっていうんだから事実は小説よりもなんとやら。ただ実際はコカイン中毒ですぐに死んでしまったらしいので、「無差別に人を殺していく話」が映画的な面白みの部分というわけですね。
で、その面白みの部分なんですけど、
個人的な印象としてはものすごく丁度いい塩梅の面白さだったというか。
午後ローとか、WOWOWのちょっと中途半端な時間帯にやってる、別に観ようと思ってたわけじゃないんだけどたまたま目に入って流れで観てたら意外と面白くて結局最後まで観ちゃうタイプの映画ってあるじゃないですか。
ソレです。要するにものすごく出来のいいB級映画。勿論褒めてますよ?
この映画すごく親切で、どういうテンションで観たらいい映画なのかを冒頭5分くらいできっちりと示してくれてるんですね。
夜の空を飛ぶ飛行機から尋常じゃないテンションでバッグを放り投げ続ける男、その中には大量のコカイン、自分もキメてパラシュートで脱出、かと思いきや飛行機のへりに頭を強打して落下死。
場面が変わって一組のカップルがハイキング。そこで一頭の(様子がおかしい)クマを見かける。パニックから背を向けて逃げてしまうカップル。二人のうち女性のほうに襲いかかるクマ。草むらに引きずり込まれる女性。どうすることもできず泣き叫ぶ男性の目の前に無造作に放り込まれる、さっきまで女性だったものの一部。
ここまでものすごくテンポよく見せてくれるので、ああこれはポップコーンとコーラをお供に楽しむ映画なんだなってことが分かる。
このテンポのよさは他の場面でも活きてて、例えば登場人物が過去を回想する時とか、ある場所では何があったのかを時系列を遡って挿入する時もイメージカットくらいの短いシーンしか入れない。回想を無駄に引っ張らない。
その一方で人がクマに襲われるシーンでは間をしっかり取ってホラー的な恐怖感をしっかり煽る。木の陰からクマがいると思われる反対側を覗くとか、何かがいると思われる部屋のドアをゆっくり開けるとか。襲われる描写自体はクマの姿を映さずに人が草むらの奥に引きずり込まれていくとか、誰かが襲われてるのを後ろを振り向けない状態にいる別の人のリアクションで想像させるみたいな、ゴア描写が結構容赦ないあたりも含めて低予算ホラーっぽいやり方が多いんですけど、見せ方がすっきりしてて上手い。
と同時に、すごく変わった構成の映画だなあとも思う。
というのは、途中から見かけ上のジャンルが少し変わるんです。
前半の3分の2くらいまでは群像劇なんですよ。
色々な事情があって色々な人が山に集まって、でもその人達は突然話の中心にドスンと現れたクマの無軌道な暴力でしっちゃかめっちゃかになる。『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』『スナッチ』あたりのガイ・リッチー監督作とか、あるいはハビエル・バルデムをクマに置き換えた『ノー・カントリー』みたいな話なんですよね。
ところが残りの3分の1くらいから急にクマを主人公にしたヒーローものみたいな映画になるんです。ケリー・ラッセル達の親子連れチーム(と裏稼業に嫌気が差した親友二人組)が麻薬王のレイ・リオッタに追い詰められてる滝の上からクマが登場するシーンとか、BGMがワンダーウーマンのアレでもおかしくないくらいヒロイックだったじゃないですか。
まあ、フィニッシュブローが生きたまま腸を引きずり出して子熊に食べさせるっていうのが全くヒーローらしからぬ絵面なんですけども……現時点ではこれがレイ・リオッタの遺作だと思うんですけど、最期のシーンこれかあ……(彼の出演作は『グッド・フェローズ』と『アイデンティティー』が好きです。改めてご冥福をお祈りします)
他のキャストもみんな良い演技してましたね。
特にマーゴ・マーティンデイルが演じてたレンジャーのリズ。どう考えてもレンジャーには向いてなさすぎるだろうっていう人の心の無さが本当に最低すぎて最高でした。あとはエディとダヴィードの車の中でのやり取りとか。
欲を言えばクマにはもっと派手に人を殺して欲しかったなあっていうのはあるんですけど、最初に書いた通り「丁度いい」のが本作の良いところ。何かと長尺になりがちな最近の映画に対して90分ちょっとっていうコンパクトさも本当に丁度いい。これくらい気負わずに観られて、でも観に行った分のお土産もきっちりもらえる映画を映画館で観られるっていうのがある意味では一番の贅沢なんじゃないかとも思います。面白かった!