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地域の魚を、子どもたちの未来に 〜学校給食から考える持続可能な水産業〜【No Fish No Life活動日誌 vol.10】

こんにちは!
未利用魚加工事業「No Fish No Life」のメンバーの乙川 翔太郎です。

私たちはこれまで、「使われないをなくす。〜自分たちで獲った資源への責任を持つ〜」というビジョンを掲げ、未利用魚の可能性を探ってきました。
今回は「子どもたちの未来の食卓に、地域の魚を届けられるのではないか」という思いから、活動をさせていただきました。

今回、出会ったのが、「学校給食」という新たな可能性です。地域の魚を子どもたちに届けることは、単なる食材の活用を超えて、未来の食文化を育む機会になるのではないか——。今回は、その可能性を探るため、現場の声に耳を傾けてきました。

今回も新たな発見があったので、楽しんでお読みいただければ幸いです!


学校給食との出会い

「未利用魚の活用は素晴らしい取り組み。でも、それだけを考えていては、作り手の自己満足で終わってしまう。」

海士町アンバサダーからいただいたこの言葉は、常に私たちの原点となっています。前回、都内のパーソナルトレーナーHさんから「魚由来の脂質が手頃な価格で簡単に摂取できない」という課題を伺い、さらに踏み込んだ調査の必要性を感じていました。

そこで今回は、未利用魚の「価格」「栄養」「社会的価値(SDGs)」という観点から、「学校給食」という可能性に着目。海士町の学校給食の現場で、驚きの発見がありました。

目標14 海の豊ゆたかさを守ろう

1.給食現場からの学び

・知られざる学校給食の世界

「献立を考えるときは、栄養価だけでなく、子どもの好みや季節感、そして何より安全性を考えないといけないです」

小学校2校、中学校1校、1日約230食——。 その数字の向こうには、想像を超える苦労と情熱が隠れていました。

学校給食には、文部科学省が定める「学校給食実施基準」という指針があります。これは日本人の食事摂取基準を基に、特にカルシウムなど子どもたちが不足しがちな栄養素については多めに設定されているそうです。

「できるだけ1ヶ月の中で同じ魚は使わないようにしています。いろんなものを子どもたちに食べてもらいたいから。」

そんな緻密な作業と学校給食への熱い想いを持って働くその姿に尊敬の念を抱かずにはいられませんでした。

・地域の食材を活かしたい思い

海士町の大型定置網 大敷さん

そんな中、特に印象に残った言葉があります。

「本当は地元の魚をもっと使いたいんです」

この言葉には、地域の食材を子どもたちに届けたいという切実な思いが込められていました。しかし、その実現には様々なハードルがあります。

学校給食では、食材は完全な下処理済みの状態で納品される必要があります。例えば魚なら

- 均一な切り身
- 小中学生で異なるサイズ設定
- 魚種の事前確定
- 徹底した衛生管理

現在、海士町の給食では島内の各所から食材を調達していますが、地元食材の活用にはまだまだ課題が山積みだそうです。

「もっと多くの加工ができる業者さんが他にもいれば、より多くの地元の食材を使えるのに」

この言葉に、私たちの活動の可能性を感じました。

大敷の漁船

 ・具体的なニーズと課題

「3枚おろしの状態で納品されても捌く手間がかかるから、できれば規格を統一した切り身で納品して欲しい」

現場の声を聞くにつれ、私たちに求められる役割が少しずつ見えてきました。加工の規格化、調理工数の削減、そして何より、安定した品質の確保。味付け済み商品でもOK、切り身は個数での提供が望ましいなど、具体的なニーズも明確になってきました。

・給食現場が求める3つの要件

現場の声を整理すると、以下の3つが見えてきました:

1. 規格の統一性
- 同等の大きさの切り身
- ブレのない品質維持

2. 供給の安定性
- 事前の魚種確定
- 確実な情報提供
- 途切れない供給体制

3. プロセス体制の確立
- 衛生管理された専用の加工施設
- 給食センターでの追加作業不要
- 信頼できる加工体制

・新たな可能性との出会い

「子どもたちに魚の苦手意識があるのは事実です。でも、地元の魚を美味しく調理して提供できれば、その壁を少しずつ越えられるかもしれない」

学校給食現場の方のこの言葉に、私たちの挑戦の意味が集約されているように感じました。これは単なる食材調達の問題ではありません。子どもたちの健康な食生活を支え、同時に地域の食文化を伝えていく——。そんな大きな可能性が、給食という日常の中に眠っているのです。

今回の対話で、学校給食という新たな可能性が見えてきました。現状はまだ体制が整っておらず、給食センターに卸していくことは夢物語です。しかし、それは逆に言えば、きちんとした体制を整えることができれば、大きなチャンスの可能性があるとも言えます。

・今後に向けてやるべきこと

・加工施設の整備
-衛生管理基準を満たす設備の確保
-安定した加工体制の構築

規格化の確立
-給食向け規格の標準化
-安定供給できる体制づくり

信頼関係の構築
-安全性の確保

これらの課題に対して一つ一つ取り組み、「地域の魚」を子どもたちに届け、学校給食から考える持続可能な水産業を確立したいと思います。

未利用魚の活用は、単なる「もったいない」を解決するだけでなく、子どもたちの健康的な食生活を支える可能性も秘めています。その実現に向けて、私たちは一歩一歩、歩みを進めていきたいと思います。

2. 事業戦略の専門家からの気づき

・本質的な課題への問い

給食現場での発見から数日後、事業戦略の専門家との対話で、新たな視点を得ることができました。

実際に教えていただいている時の写真

「なぜみんながそれを使わないのか、という課題の深掘りができてない」

この一言は、私たちの盲点を鋭く突きました。確かに、「もったいない」「安く仕入れられるはず」という発想は、誰もが思いつくはず。それなのに、なぜ今まで活用されてこなかったのか。

この問いをきっかけに、私たちは漁師さんへのヒアリングを開始。未利用魚の背景にある本質的な課題を、より深く理解しようと努めています。

・事業を支える3つの柱

そして、専門家から印象的な言葉をいただきました。

「事業には『ロマン』『そろばん』『ジョーク』が必要なんです」

一見ユニークなこの組み合わせの中に、事業の本質が隠されていました。

ロマンはは、私たちの夢そのもの。どんな世界を作りたいのか、何を実現したいのか。この想いこそが、人を動かし、チームを作る原動力になります。
そろばんは現実的な数字との向き合い方。夢は大切ですが、それが経営として成り立つかどうかの冷静な判断も必要です。
そして意外だったのがジョーク
「めちゃくちゃ辛いことが起こるから、いつも胸の中で「冗談みたいな」ことを思ってないと続かない」
その言葉には、事業に向き合う覚悟と、それでも前を向き続けるための知恵が込められていました。

3.今回の気づきと決意

今回の取材を通じて、改めて「地域の食」が持つ可能性の大きさを実感しました。

給食という「当たり前」の中に、実は多くのドラマが隠れていたのです。学校給食現場の方々の真摯な姿勢、地域の食材を子どもたちに届けたいという熱意、そして何より、子どもたちの健康な未来を想う気持ち。

一方で、事業戦略の専門家との対話からは、「想い」だけでは突破できない現実も突きつけられました。でも、その厳しさの中にこそ、私たちにしかできない可能性があるのかもしれません。

以前、海士町アンバサダーの水谷さんから「本当に大事な情報はネットには載っていない」という言葉をいただきました。今回の取材で、その意味を深く実感しています。

私たちが目指すのは、単なる「未利用魚の活用」ではありません。子どもたちに地域の食の豊かさを伝え、漁業者の方々の誇りを守り、そして持続可能な地域の未来を作ること。

これからも【No Fish No Life】は、一つひとつの声に耳を傾け、一つひとつの課題に向き合いながら、確かな一歩を積み重ねていきます。

引き続き『No Fish No Life』の活動の応援、どうぞよろしくお願いします!

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