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C.G.ユングを詠む(013)-デーモン。人間。:『死者への7つの語らい(1916)』から
『死者への7つの語らい(1916)』
『死者への7つの語らい』の邦訳は、「ユング自伝2」の付録として収録されていて、これはユングの死後に発表された著作になる。
今回はその第Ⅵ章デーモンと第Ⅶ章人間に関する感想メモになる。
繰り返しの前置きになるが、この第Ⅵ章と第Ⅶ章はユング自伝2付録Ⅴに入っていて、紀元後2世紀の初期に実在したグノーシス派の教父バシリデスが、エルサレムから帰ってきた死人たちに教えを説く形式で書かれている。
河合隼雄著「ユングの生涯」によるとこうある。
「すべての私(ユング)の仕事、創造的な活動は、ほとんど50年前の1912年に始まったこれらの最初の空想や夢から生じてきている。後年になって私が成し遂げたことの全て、それらの中に含まれていた。」49%
河合隼雄著[ユングの生涯」
ユングの心理学的基盤が完全に出来上がったものと評されるので、この付録Ⅴを本編より先に読んでいる。
◎ユング自伝付録Ⅴ、第Ⅵ章について。
第Ⅱ章では、私(教父バシリデス)によって、死者たちの信じている神の上位にアプラクサスと言う神が、彼らの神と悪魔の上位にあると説かれて、死者たちがパニックに陥った直後から始まった。
更に第Ⅲ章では、至高の神・アプラクサスについて説明がされた。
第Ⅳ章では、神と悪魔の説明がされた。
第Ⅴ章では、教会と共同体について説明がされた。
ここで登場する死者とは、ユング自伝2付録Ⅴ、第I章で登場したエルサレムへ行ったが、探し求めていたものが見つからず私(教父バシリデス)の家に訪れて教えを請うてきた者たちである。各章はこちらになる。
続けて、第Ⅵ章は、こんなふうに始まる。
前回も触れたが、デーモンが出てくるが、これは悪魔のことではないようであるが、詳しく説明がない。この章で語られていることから推しはかるこしかないが、結果的にはわからなかった。
性のデーモンはわれわれに魂の舵となって歩みよる。それは半人間的で、思考の欲望と呼ばれる。
精神性のデーモンはわれわれの魂に白い鳥として、降りてくる。それは半人間的で、欲望の思考と呼ばれる。
P258
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のっけから、わからない。
精神性(第Ⅵ章では”白い鳥”→男性的)と性(第Ⅵ章では”舵”→女性的)にたとえられ、第Ⅴ章での精神性に女性的なもの、性に男性的なものという比喩をしていたのが真逆になっている。
また、天と地という比喩を与えていた。それは「ありのままの存在」(プレロマ)としてのデーモンから区別された「考える実在」(クレアツール)ということで別なイメージなのであろうか。
悪魔とは違うもののようであるが、私にはイメージできていない。
舵は地なる魂、半デーモン的で、死者の精神に近い1つの精神である。死者のように、それは土なるもののまわりに群がり、我々を恐れたり、貧欲さをそそられたことを引き起こす。
舵は女性的で、土に縛りつけられた者たち、つまり個に至る超越の道を見つけ出せずにいる死者たちの集まりを探し求める、
舵は娼婦であり、悪魔や悪の精神とまじわる。奸悪な暴君、悪霊であり、常に愛悪の共同体へと誘うものである。
P258
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性・舵・女性的の組み合わせが第Ⅴ章の対応と違ってきている。どういう意図かわからず、要は混沌とした「ありのままの存在」(プレロマ)ということか。
女性、男性の比喩がやはり当てはまっていないのではないのか?生意気にそう感じる
鳥は男性的で、効果的な思考である。
それは純潔で孤独であり、母の使者である。
それは地上高く飛ぶ。それは孤独を命ずる。
それは既に完成された果て遠きものからの報せを運ぶ。
それはわれわれの言葉を母のもとへと運びのぼってゆく。
母はとりなし、警告する。
しかし、母は神々に対して無力である。
それは太陽の器である。
舵は低く這い、奸智を持ってファルロスのデーモンを不随にしたり、駆りたてたりする。
それは土に根ざしたあまりにも狡猾な考えを上にもたらす。
その考えすべての穴から忍び出て、貧欲さを持って全てのものに吸い付いてゆく。
舵はもちろん欲してはいないが、それはわれわれにとって有用であるに違いない。
それはわれわれの把握を逃れ、人間の知恵では見出せない道をわれわれに示す。
死者たちは軽蔑の目を持って眺め、そして言った。神々やデーモンについて話すのを止めよ。
それはもともと遠く以前よりわれわれの知っていることだ、と。
P258~P259
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要するに神々もデーモンも説明がつかない、混沌としたわからないものだと、今更諭されても仕方がないということだろうか?
ここで第六章は終わる。
◎ユング自伝付録Ⅴ、第Ⅶ章について
続けて、第Ⅶ章に移る。
しかし、夜が来ると、死者たちは哀れな身ぶりをして再びやって来て言った。
未だもうひとつ話すのを忘れていたことがあった。
人間について語れよ、と。
私(教父バシリデスに扮したユング)はこう答える。
人間は門である。
それを通じてお前たちは神々、デーモン、魂の存在する外界から、内界へ、より大いなる世界からより小さい世界へといたる。
人間は小さくて空虚なものである。
お前たちは既にそれを後にしている。
そして、再び果てしない空間、より小さいあるいはより奥深い無限の中にいる。
P259
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死者たちの魂は、肉体の束縛から解かれて、果てしない(無限?)の空間にいると言う。魂の存在を認める立場とわかる。
プラトン的に肉体は魂の牢獄といった解釈だろうか?
測り難い遠いかなた、天頂に唯一の星がある。
これが一人の人の一つの神がある。
これはその人の世界、その「ありのままの存在」(プレロマ)、その神性である。
この世ではアプラクサスであり、その世界を産み出し、呑み込む。
この星は人間の神であり、目標である。
これは彼の導きの神であり、
その中には、人の憩いを求めてゆく。
それを目ざして、死後の魂は長い旅をゆく、その中には、人間がより大きなる世界から持ち帰ったすべてのものが、光として輝く。
この唯一のものに人は祈る。
祈りは星の輝きを増し、
それは死に到る橋を架け、
より小さなる世界での命を準備し
より大きなる世界の絶望的な願いを和らげる。
より大きな世界が寒くなると、その星は光り輝く。
人間と、その唯一の神との間には、人間がアプラクサスの燃えあがるさまから目をそむけられる限り、何ものも存在しない。
こちらには人が存在し、あちらには神が存在する。
こちらには、弱さと無、あちらには永遠の創造力。
こちらには、闇と湿っぽい寒気、
あちらには、全き太陽。
ここにおいて死者たちは沈黙し、夜中に家畜を見守る牧者のたき火の煙の如く、立ちのぼって言った。
字謎(アナグラム)。
NAHTRIHECCUNDE
GAHINNEVERRAHTUNIN
ZEHGESSURKLACH
ZUNNUE
P259〜P260
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最後の部分は翻訳機にかけても解読できず。
どんな情景、心象風景を詠んでいるのかわからない。
多分こんなでは、と勝手な想像をした。
「ありのままの存在」(プレロマ)として無であり充満であるものに、煙のように立ち昇って変化し、138億年前に開闢したと言われる宇宙を始めた何か神秘的なものと溶け合った、のでは?
以上が、第Ⅶ章の感想。
そして、『死者への7つの語らい(1916)』を読んだ全体の感想としては。
「ありのままの存在」(プレロマ)と「考える実存」(クレアツール)のイメージが出来たこと。
要は、人智を超えたカオス、混沌としたものを、カント的に直観(直感ではない)で受け取ることが必要なんだね?
カントの『純粋理性批判』とニーチェの『ツァラトゥストラ』は、最新の自然科学の情報をもとに書き換えたら十分通用しそう。
ユングの「考える実存」(クレアツール)に戻ると、一方的な価値感はなくて、それは区別したり分析したり考える意志を持った実存がイメージするだけであって対極になる価値観も磁石のN S極のようイメージされること。
そんなふうに受け取った。
第Ⅴ章から第Ⅶ章に書かれた、“教会と共同体”、“デーモン”、“人間”についてはほとんどわからなかった。
わかったつもりのこともわからなかったことも、ユングの他の著作や解説書を読めば氷解してくることを期待して、今回で、『死者への7つの語らい』の感想文は終わり。
次からは、ユング自伝本編の感想にもどる予定。
ここまで、駄文にお付き合いいただきありがとうございました。
<<<<投稿済の内容>>>>
⭕️C.G.ユングを詠む(001)
1.Carl Gustav Jung (1875-1961)
⭕️C.G.ユングを詠む(002)-自伝
2.ユングの自伝
3.ユングの故郷スイスについて
4.両親の影響
5.三歳で見た六十五歳まで秘密にした夢
6.ユングの子供時代の秘密
⭕️C.G.ユングを詠む(003)-少年期
7.変わり者ユング少年
8.もう一人のユング
9.牧師であるユングの父との葛藤
10.ゲーテの戯曲「ファウスト」の影響
⭕️C.G.ユングを詠む(004)-人格No1と人格No2
11.人格No1が主であり人格No2はNo1の影
12.父親の死
13. ブルグヘルツリで出会った患者
14.結婚
⭕️C.G.ユングを詠む(005)-フロイトとの交流
15.精神分析-フロイトとの交流
16.夢分析-フロイトとの交流
17.フロイトの彼の弟子たちへの評価
⭕️C.G.ユングを詠む(006)-無意識との対決
18.「お前の神話は何か」―無意識との対決
19.ユングの心象風景
⭕️C.G.ユングを詠む(007)-アニマ
20.老賢者フィレモン
21.アニマ
22.無意識との対決の収束
⭕️C.G.ユングを詠む(008)-プレロマとクレアツール:『死者への7つの語らい(1916)』から
⭕️C.G.ユングを詠む(009)-神は死んでいない:『死者への7つの語らい(1916)』から
⭕️C.G.ユングを詠む(010)-至高の神:『死者への7つの語らい(1916)』から
⭕️C.G.ユングを詠む(011)-神と悪魔:『死者への7つの語らい(1916)』から
⭕️C.G.ユングを詠む(012)-教会と共同体:『死者への7つの語らい(1916)』から
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こころざし創研 代表
ティール・コーチ 小河節生
E-mail: info@teal-coach.com
URL: https://teal-coach.com/
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