見出し画像

第三十七候 涼風至(すずかぜいたる)

夜影涼し立秋なりて雲見やる僅か感ずる行き合いの空

西村二架

立秋を過ぎた。まだまだ暑いが、それでも朝晩には秋の香りを仄かに感ずる。

育てている植物たちを見れば、今を栄えとばかり緑の枝葉を伸ばしている。空気に秋を、植物に英気を、心穏やかに感じられるこの平穏を得難く思う。

8月6日、8月9日と、今年も原爆の日を迎えた。人が死に、焼け野原となった広島で一番初めに咲いたのは、6〜9月に花をつける仲夏から初秋の花、夾竹桃(きょうちくとう)だそうだ。

どれだけ、つらいことや悲しいことがあっても、季節はまた巡る。巡るとはいえ、巡ることに救われることもあるとはいえ、世界の空気や草花の移り変わりを直視できないときもたくさんある。焼け野原に咲いた夾竹桃はどのようだっただろうか。灰色の景色を背に桃色の花が咲く様子を思い描いてみる。

世の中につらいこと悲しいことは、自然に人が死ぬことだけで十分だ。それ以上のものを齎(もたら)さないでくれ、と切に思う。広島瀬戸内の、遠く近く山々の浮かぶ、水墨画のような海景を懐かしく思い出す。どこに居ても、いつであっても、もうこれ以上ひとが壊され、虐げられることが、この世から無くなるように祈る。





ーーーーー
第三十七候 涼風至(すずかぜいたる)
8月8日〜8月12日頃

夏の間に、秋の風がわずかに顔を覗かせる時期
ーーーーー

参考文献・資料:
山下 景子, 『二十四節気と七十二候の季節手帖』, 成美堂出版, 2013年. https://www.seibidoshuppan.co.jp/product/9784415314846

(初秋、立秋・初候、第三十七候 涼風至(すずかぜいたる)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?