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第四十候 綿柎開(わたのはなしべひらく)

今年はじめて、京都五山送り火の点火を見た。小さな赤い灯が滔々(とうとう)と明かるい大の字になっていく様は、たくさんの火が燃えているという豪気さとは裏腹に静かで、それが祈りの火だということをわたしに感じさせた。

もうこの世にいない人の魂が、束の間わたしたちの元に戻り、共に過ごすといわれる盂蘭盆会。素敵な思いの寄せ方だと思う。もうこの世にいない人に人格があるとすれば、何を考え、私たちをどう見ているだろうか。もう死んだひとは、これから死に行くひとにどのような声をかけるだろうか。


盆の時期には祭りも多い。子どもたちの浴衣姿や出店、舞殿で行われる奉納や念仏に、記憶の積層を想う。いついつからか、ひとの想いを受け始まったものが、いついつまでも、そのひとの想いを失わずに残っていってほしいと思う。失われずに。


もう死んだひとにとって、死はもう訪れたもの。これから死に行くひとにとって、死はこれから訪れるもの、いずれ必ず訪れるもの。

そうであれば、殊更(ことさら)死に向かっていく必要もないだろう。わたしにとって大切なのは、死と適度な距離を保つこと。死にたくなりすぎないように生きること。




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第四十候 綿柎開(わたのはなしべひらく)
8月23日〜8月27日頃

綿の実が弾け、ふわふわとした綿花をつける時期
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参考文献・資料:
山下 景子, 『二十四節気と七十二候の季節手帖』, 成美堂出版, 2013年. https://www.seibidoshuppan.co.jp/product/9784415314846

(初秋、処暑・初候、第四十候 綿柎開(わたのはなしべひらく))

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