「2022(38歳)」

テレワークとなった事や、部屋の環境に限界を迎えた事もあり、2022年になってすぐに引越をした。
それまでの部屋はベッドから3歩で玄関のドアのようなかなり狭い部屋だった。
日当たりも良く、以前よりも広くなった部屋で心機一転し、改めてここからだと思えた。



3月に手を洗わずに食事をした事が原因で、あのウィルスに感染した。
風邪の症状があった時点で、その病気かも知れないと10日くらい外出しなくて良いように食料を買い込み、一切外に出なかった。
仕事は全然出来たので休む事はなかったが、余り罹った事のない感覚の風邪の症状と味覚が10日ないくらいだった。



何を食べても味がない事はかなりのストレスだった。
美味しいものを食べても意味がないので、エネルギーを補充するだけの食の楽しみが奪われた味気ない食事だった。
味覚が戻り始めた時の喜びは大きく、完治した時は3日連続で外食した。
離島から戻った時も思ったが、失う事で有る事が当たり前ではなく幸せに感じられる。


この病気で死亡したり後遺症を患った人もいるのは分かるが、2022年になると知っている人もかなり感染し、無事に復帰できているケースの方が圧倒的に多かった。
俺も無事に回復できたし、これで世の中全体を止めたり、ずっと不便不自由な思いをしなければならないのは個人的に疑問に思うところもあった。


2022年からは緊急事態宣言は出なくなり、久々に開放的なGWだった。
春くらいからは感染状況も治り今年は開放的な夏を過ごせると思ったが夏前にまた感染が爆発したと騒ぎだす。
もう3年目だ。もう二度と過去を超える事は出来ないのか?
ウィルスに翻弄される事なく生きてこれた過去を羨んで生きていくのか?
こんな世の中が続くのであれば、今死んでも別に悔いはないと思えたし、死にゆく人を羨ましく感じる部分もあった。
そんな現実に嫌気が差した俺は曲作りを開始した。
いつまで続くのか分からない苦しさがあった。


感染対策をとったライヴは成功を重ねているのに2022年からは足踏み状態だった。
最初は行けるだけでも良かった。
それから人数制限が緩和されたりと少しずつ前進していった。
声が出せない状態が余りにも長く続いていたから不満が大きくなってゆく。
ライヴは鑑賞会ではなかっただろ。
もっと全力で楽しんでストレス解消できて心地良い疲れを味わえるものだっただろ。
マスクをしていても良いから声出しくらいはさせて欲しいと思っていた。



これは贅沢になった訳ではない。
空腹で死にそうな時は味のないパンでもありがたく思う。
だが食事をとれる事が日常になった時、ずっと味のないパンで満足できる訳がない。
もっと最大限に楽しみたいと思う事は感性の進化なのだ。



それはやる側も感じていたようで9月に行ったHAWAIIAN6主催のライヴでは「色んなしがらみが有る中でライヴをやるしか無い時もあるのは理解している。だが誰かが切り開かないとずっとこのままだ!」という意思の元、久々に最大限に自由な盛り上がりを体感する事が出来た。
やる側も見る側も同じだったんだと思え、3年間の沈黙から解き放たれたような革命的な光景だった。
そのライヴが全く炎上しなかったのは筋が通っていたからだし、ちゃんと我慢した時期があっての今だから分かり合えたんだと思えた。



2022年は1月にSTUDIO COAST/ageHaが閉館し、11月にGAUZEが解散した。
STUDIO COASTとageHaは合わせて68回も行った会場で1月に最後のオールナイトイベントに行った。
ウィルス騒動がなければもっと盛大に入りきれないくらい人が集まって終わりを迎えられただろう。
2004年に初めて行ってから幾つもの思い出ができた会場なので涙を流しながら帰った。
他のクラブに行くと今もageHaの事をよく思い出してしまう。



GAUZEは2021年に2007年以来のアルバムを発売し、ライヴで聴ける事を待ち望んでいたが叶わなくなってしまった。
今もライヴで聴けなかった事は凄く心残りだ。
最大限に終わりを迎えられなかったため、ageHaロスとGAUZEロスは一生抱えていく事になると思っている。



終わらないコロナ禍への苛立ちや、現実への渇望を表現したアルバム「死ぬ価値のある世界」を12月に発表した。
生きる価値という言葉を逆手に取った、世の中への最大限の皮肉と苛立ちがタイトルに込められている。


実際、今も現世は永遠に生きるような世界ではないと心から思っている。
だから死という終わりがちゃんとあるんだ。
永遠に会えなくなる事は勿論寂しい。
できれば長く生きて欲しい。
だが現世は永遠に生きたり戻ってくる場所ではないんだ。
叶わない願いや思い通りにいかない不自由を沢山抱えて、それらから解き放たれて自由になれるのが死だと思っている。
だから死ぬという事に対してネガティヴには捉えていない。



生きる苦しみから永遠に解放される事は、その命にとって祝福でもあると思っている。
だからこそ簡単には死にたくないという気持ちもある。
こんな不自由で地獄のような現世でも、まだまだやりたい事や感じたい事が沢山ある。
一度死んだらもう現世には戻ってこれないのだから。



このアルバムで完全なインストに戻った。
楽曲内で言葉で伝えるのはやめて、音でイメージや高揚を完結させるような何処までも純粋な音楽をやりたいと思ったからだ。
詩は動画や画像を見て貰えば良い。
ベースの音だけで作った曲や、パーカッションのみの音で作った曲など実験的な曲もある。
パンデミック後の世界への願いを込めた「復興のすべり台」という曲はかなり気に入っている。
だいぶグルーヴを掴んできているとは思う。


年の終わりに近付くと声出し解禁をちょくちょく聞くようになってきた。
しかしまだ多くは声が出せないライヴばかりだ。
ライヴに行く側も何かアクションを起こさないと変わっていかないんじゃないか。
世の中がいつまでも変わらない事に嘆いてばかりいるのも下らない。
2023年は本来のライヴや生活を取り返すための勝負の年になると思っていた。

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