NRRの向上に寄与するエンタープライズサクセス戦略
このnoteについて
UPWARDでエンタープライズカスタマーサクセス組織をマネジメントしています三原と申します。
このnoteでは、UPWARDのCS組織がNRRを向上させるためにどのような戦略に基づきアクションをしているのかをまとめます。
SaaSの評価において既存顧客の収益状況を示すNRRが重要な指標であることは皆様にご理解いただけていると思うので、今回はNRRの重要性についての詳細は割愛します。
以下では、NRRの最大化に向けたCSによるアクションについて記述します。
NRRの向上に寄与するのはエンタープライズ顧客
まず、この主張の前提条件として、以下の2つのポイントがあります。
ユーザ課金形態でのサービス提供をしている
顧客ごとのARRの分散が大きい
UPWARDはプロダクト特性上、ご利用いただくユーザー単位での課金形態をとっています。また、UPWARDの顧客層は従業員規模が幅広く、従業員規模が30名程度の中小企業から数十万人の大企業まで多岐に渡る顧客構成となっております。結果的に、顧客毎のARRの分散がかなり大きく、最小ARRから最大ARRまでの金額差は100倍以上になります。
そんな条件の下で、既存のお客様からのExpansionによりNRRを向上させる場合、やはりポテンシャルの高いお客様、すなわち従業員規模が大きいエンタープライズ顧客をターゲットにすることが有効となります。
エンタープライズ顧客のExpansionにおける重要ポイント4つ
1.確実なオンボーディングの成功
Expansionを進めるためには、まず契約済みのサービスが十分に定着し、活用されていることが必要な条件です。しかしながら、エンタープライズ顧客のオンボーディングや定着化は高い難易度を伴います。
まず、利用ユーザーが増えることによりガバナンスを効かせることが難しくなります。
特にUPWARDはフィールドワーカー向けのSales Engagement サービスというプロダクト特性上、勤怠管理や経費精算などのバックオフィス系の製品とは異なり、サービスを利用しなくても業務が成立するため、定着のハードルが高いという特徴があります。
さらにエンタープライズ企業では全国の支社や支店に展開されるため、地域ごとにオペレーションや営業スタイルが異なることも多いです。そのため、それぞれに適した活用方法やオペレーションを検討することが必要であり、オンボーディングのハードルが一段と高くなります。
私自身は、エンタープライズ顧客のExpansionには近道はないと思っており、以下の2点を確実にやり切ることが重要だと考えています。
確実なオンボーディングの成功
初期段階から継続的にExpansion提案をし続けること
エンタープライズ顧客におけるオンボーディングの手法と成功の定義については別のnoteで詳しく記載しますが、初期段階から継続的にExpansion提案を行うことについては後述します。
まず、エンタープライズ顧客は購買の意思決定を行うまでに関係するステークホルダーが多く、稟議プロセスが複雑な場合があります。そのため、サービスを検討してから導入するまで時間がかかるケースが多いです。したがって、顧客が具体的に購買を検討し始める前から、情報の提供や提案を継続して行い、検討プロセスが具体化する頃には、顧客がサービスを理解し、いつでも購買稟議を行える状態に下準備することがExpansionに繋がります。
エンタープライズ顧客では、導入いただいたプロダクトでの定着化支援を通じてライトサクセスを実現しつつ、中長期の顧客の事業戦略を理解し、根本的な事業課題や経営課題にインパクトできるようなディープサクセスの実現を行う必要があります。このディープサクセスの実現には導入プロダクトのオンボーディングの成功と初期段階からExpansion提案を継続し中長期の事業戦略の実現に向けた提案を行うことことの両方が必要となります。
2.最終意思決定者(=決裁者)への成果報告
前述の初期段階からのExpansion提案にはもう一つ重要な要素があります。それは、顧客の最終意思決定者にライトサクセスの成果とディープサクセスに向けた提案を認識していただくということです。
顧客に対して「成果を出している」という状態と「成果を理解されている」という状態には大きな乖離があります
我々も含め、すべての顧客で後者の状態を実現できているわけではありませんが、少なくとも効果的なExpansionを実現しNRRが向上できている企業については、この要件が満たしていると考えられます。
企業のTopである経営層の方々が描いている今後のビジョンや中長期的な戦略の中で、我々や我々のプロダクトがどのようにインパクトし、実際に貢献できているかをインプットする機会を設けることは、ビジネスパートナーとして認めていただき、関係性を構築していく上で非常に重要な動きとなります。
いわゆる、Customer Advisory Boardのような形式で、自社側もCxOレイヤーをアサインし、経営層同士の繋がりを作る場としてセットします。
ここで重要なのは、成果の報告だけではなく、今後のプロダクトや事業成長を踏まえたロードマップを提示し、経営層の方々が考えている中長期的な戦略に対しての成果も期待できるという印象を持っていただき、実現に向けたフィードバックをいただくことです。
これにより、先述したExpansion提案を継続し中長期の事業戦略の実現に向けた提案の第一歩が踏み出せる状態となります。
3.プロダクトとの協業
ここまで記載した内容を1〜2年、もしくはそれより長い期間実施していると、検討プロセスが具体化するきっかけがどこかで訪れます。
ただその際も一筋縄ではいかず、プロダクトに対する要望は必ずと言っていいほどリクエストが挙がります。
ここで、現状のプロダクトでは対応してないからと説明して時期を見送る選択をするか、プロダクトチームと協業して対応できるかが大きな分岐点となります。
顧客の要望を正しく理解しプロダクトチームにフィードバックすることはもちろんですが、それによるビジネスインパクト、他顧客のExpansionの可能性も含め、時期や実現方法を交渉して落とし所を見つけ、協業することが重要です。
実際にUPWARDでも、「この機能があればすぐにトライアルを実施したい」というオーダーまでCSがフロントで顧客と握った上で、プロダクトチームに相談をして、先の開発予定だった機能を前倒してリリースして、トライヤル実施を実現できた事例があります。
このようにエンタープライズ顧客の提案には、ビジネス部門だけではなく、プロダクトチームや時にはコーポレートチームも巻き込んだ協業が必要となる場面が少なからずあります。
4.小さく入れて大きく拡げる
ここまで様々な動きを行なってきてやっと具体的な検討の土台に立つわけですが、エンタープライズ顧客の場合、新しいプロダクトやサービスをいきなり全社に導入することはほぼ考えられません。まずは一部の拠点やメンバーでトライアルしてみたい、PoCとしてスタートしたいということが殆どだと思います。
PoCは効率的にExpansionを進めていくことができるためうまく活用できれば非常に良い取り組みとなりますが、PoCからスケールしない、PoCで効果を感じられなかったため商談自体がdeadになるなど、諸刃の剣でもあります。
PoCを効果的に活用するためには、大きく以下の2つのポイントが重要になると考えています。
PoCの目的と成功基準
実施対象の選定
まず、PoCの目的と成功基準を定めることは言わずもがな重要となります。
「何のために行うPoCなのか」を顧客としっかり議論した上で、「PoCによって何が解消されれば本契約に至ることができるか」を顧客と共通認識を持てる場合に、初めて意味のあるPoCを行うことができます。
通常一年間で契約するようなサービスであれば、PoCで本契約と同等の成果を期待されていたとしても実現することは難しいため、適切なゴール設定をどこにおくかは顧客任せにせずしっかりと議論する必要があります。
上記を定めることができたら、次に重要なのは実施対象の選定です。
顧客と握った成功基準を達成し易い拠点やメンバーを選定することがPoCの成功に向けた最短ルートとなります。
自社のプロダクト特性やこれまでの顧客の定着化状況を踏まえて、適切な属性の拠点やメンバーでPoCを実施できるよう体制を構築することが重要です。
PoCが始まってしまえば、最初に決めた成功基準を達成するためにどう進めていくかと具体的な課題を解決していくフェーズに変わります。
ここまで来ればプロダクトが顧客に合わない場合を除き、7〜8割は成功し、本契約に向けたクロージングができるのではないかと思います。
さいごに
ここまで読んでいただきありがとうございました。
これらすべてのことを実施したからといって必ずNRRにインパクトできるわけではないとは思いますが、NRRを向上させるには、上記に記載した考え方やアクションは必ず必要になると考えています。
まだまだUPWARDでもすべての顧客に対して上記が実施できているわけではありませんが、CSだけではなくAEやBDR、プロダクトチームとも連携しながら徐々にトライする幅を拡大しています。
エンタープライズCSに関するナレッジや具体的な取り組みに関する発信はまだまだ少ないと思いますので、今後も様々なチャレンジをしていきながら、上手くいったこと・いかなかったことなど、エンタープライズサクセスに関する情報を発信していきたいと思います!
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